花橘 その後の怪談話
受諾
「で・・・そんな厄介な任務を請け負ってきちゃったわけだ?」
式神たるソイツは、呑気な口ぶりでそう述べた。
まるで鼻で笑うかのようなその顔つきに、スティングの意識は苦く鋭くなりゆく。
「あぁ。致し方あるまい?」
モヤリとした気持ちを堪えて、陰陽師たる彼はそう述べた。
なにせ『ネオ殿』の薦めなのだ!
これを断ろうだなどと、自分にはどうにも出来ぬ事である。
幼き頃に父も母も亡くし、残された財産さえも親族に盗られ、独り路頭に放り出された自分。
食うや食わずで道端に佇んでいた自分へと、ある日突然に差し伸べられた一つの手。
『お前は、そこいらの餓鬼とは違うみたいだが?』
それは決して優しくは無い、だが唯一無二の救いの手であった!
『自分に着いて来るか?』
あの時、浅ましい餓鬼になりかけていた己を拾い上げてくれた、酔狂なあの方・・・ネオ殿への忠誠心だけは、どうにも曲げられない!
・・・あの方が居なければ、確実に自分は生きていなかったであろう!
「それに、あの方が敢えて自分を薦めたという事に、何かしらの意図を感じた。」
そう呟けば、アウルは『ふーん』と呑気な声を上げた。
「まぁ、俺はどっちでもいいんだけれどね。」
そして全く気の無い眼差しを向けるとだった。
「それで、どうなんだよ?」
「ん?」
「無事に解決出来そうなのかよ?」
請け負っておきながら、結果的に出来ませんでしたなんて事になったら、それこそ格好つかないぜ?
この式神の言葉に、スティングはピクリと眉を揺らした。
全く、コイツは主人の自分を何と心得よう!
だが苛立つスティングを他所に、式神アウルは淡々としたもの。
「だってさ、既に喰われているかもしれないだろ?」
「・・・。」
「鬼は女の魂を好むしね。」
最近はどうにも不穏な気配が多く感じられるし、ちょっと軽請け合いしちゃったんじゃない?
止まらず言葉を紡ぐその口を、半ば呆れの眼差しで見つめた。
本当に、この者を召喚したのは何の因果であろうか?
スティングは大きく息を吐く。
「確かに、この一件容易くは無い。既に魂が身体を抜けてから、3日もの時が経っているしな。」
「・・・。」
「だが恐らく・・・彼女の魂は無事だ。」
何より、本体に異変が感じられなかった。
もし一部でも喰われていようものならば、身体の何処かに変調が見られよう。
折り悪くも月の隠れし頃合。
下弦の月を過ぎた今、夜の闇が広がり、自然と邪気も蔓延りだす。
要因が何であれ、身体から抜け出た魂は無防備であり、彷徨う内に鬼や邪気の良い餌となってしまうのだ。
よって、彼女の魂も非常に危うい状況にある!
しかし何度も言うようだが、引き受けぬわけにはいかなかったのだ!
スティングの言葉にアウルは『ふうん』と頷いた。
そして人臭く首筋に片手を宛がいつつ、『じゃあ、一刻も早く迷子の魂を見つけてあげなよ』と呟いた。
そんな他人事な態度の式神を、スティングはジロリと睨み見た。
「そうだ、だからお前も力を貸せ。」
「え~。」
「元より、こうして自邸へと戻って来たのは、アウル・・・お前と諸々の道具を取りに来たからに他ならない!」
これ以上の口答えは許さぬとばかりに、ピシャリとそう言い放った。
だが、この式神は厄介この上なかった!
「ヤダ。」
やる気がしない。
ボソリと低く呟いた式神に、スティングは『やはりか』と吐息をつく。
そしてソッと両目を瞑った。
「お前の意思なんて関係ない。」
「え~!?」
「無駄に手間を取らせるな。」
ひらりと指先に白い人型をした何かを掲げると、スティングは手の裾に隠し持っていた数珠を片手に、
短く術を唱えた。
「とにかく、俺に着いて来い。そして姫の魂を探しだすのだ。」
「ちぇ・・・横暴。」
「何とでも言え。」
何の為の存在なのだか。
目から呪いの術でもかけるが如く、スティングは厄介な式神へと言い放つ。
事実、今の術で己の身に縛りつけたその存在は、着いて来る事を余儀なくされているのだが。
すると不貞腐れたかのように、アウルは唇を尖らせた。
「お前を拾い上げたとか何とか言うネオ様やらに、一度直談判してやりたいね!」
「・・・。」
「この性根捻くれた男が、如何に勝手で、如何に我侭で、如何に・・・!」
尚も五月蝿く止まらないその口を、スティングは有無を言わさず噤ませた。
そして己が必要とする品々を揃えるべく、腰を上げたのだ。
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