第97回『ウィンターズ・ボーン』

燻し銀な骨っぽさ

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『ウィンターズ・ボーン』
(Winter's Bone)
2010年:アメリカ
監督:デブラ・グラニック


 毎度楽しく拝見している「デストピア経典」という映画ブログでは、本作のことを「等身大のハードボイルド」と称し、「拳銃を振り回す事も、徒手空拳で立ち回る事も、胸のすくような啖呵を切る事もありません。でもこれは間違いなくハードボイルド」と紹介しているのだが、なるほど、言われてみれば確かにこれはある種のハードボイルドに違いない。

 当サイトでよくリスペクトしているような男臭いハードボイルド映画とはちょっと違うのだが、しかしながらこの作品のそこかしこに匂い立つ燻し銀な骨っぽさは、私が普段から好んで見ているハードボイルド映画に通ずるものがある。狼のような男たちが互いに殺し合うような映画ではなくとも、「感情的な迷いに流されることなく、自分が今為すべきことを全うするために闘う人間の姿を描いている」という点で、やはり本作はある種のハードボイルド映画であると言えよう。

 舞台はアメリカ、ミズーリ州の山深い田舎町。

 景色はどこまでも荒涼として、住人たちは皆かなり貧しそうな生活を送っている。ここに暮らす17歳の少女リー(ジェニファー・ローレンス)は、まだ幼い弟と妹、そして精神を病んで全く喋らなくなった母の面倒を見ながら、その日その日の極貧生活をどうにか切り盛りしている。リーの父はドラッグの密造を生業としており、長らく家には帰っていないようだ。

 そんなある日、リーは地元の保安官から、逮捕された父が自宅と土地を保釈金の担保にしたまま失踪してしまったという話を聞かされる。もし翌週に行われる裁判に父が出廷しなければ、リーたち家族は家と土地を奪われ、路頭に迷うことになるというのである。周囲の人間も皆貧しい暮らしをしており、生活面で頼れるような者は皆無。それなりに手助けしてくれる友人や近所の人たちもいるが、やはり彼らとてリーとその家族を救えるほどの余裕はない。

 もはや自力で父を見つけ出す以外に道はないと悟るリー。彼女は親戚や知人、父を知る者たちの元を訪れ、どうにか父の消息をつかもうとするが、しかしどういうわけか皆そろって口を閉ざし、面倒事はごめんだとばかりに彼女を追い返してしまう。困り果てたリーは伯父のティアドロップ(ジョン・ホークス)に助けを求めるが、彼もまた「これ以上は深入りするな」と彼女を突き放す。

 ドラッグの密造という仕事柄、リーの父が何か危険なトラブルに巻き込まれたのは明らかだ。そして親戚や知人たちは、そのトラブルについて確実に何かを知っていながら、知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。しかしここで引き下がることは出来ない。家と土地を奪われたリーたち家族の行く末には、確実に死が待ち受けているのだ。

 この引くに引けぬ状況がリーをいつも以上に気丈にさせてはいるが、しかし彼女が強力な武器も腕力もコネも、そして相手の裏をかくような交渉術も持たぬ17歳の少女であることに変わりはない。そんな彼女がたった一人で、粗野で時に暴力的なこの町の大人たちを相手に立ち回らねばならない状況はあまりにも過酷だ。リーはその持ち前の気丈さで困難極まる父親探しを続けるが、大人たちが隠したがるトラブルの核心に近づくにつれ、彼女はさらに過酷な状況に追い込まれてゆく……。

 特別な力を持たぬ少女が過酷な現状に立ち向かってゆく話として見れば、『パンズ・ラビリンス』(2006年)に近いものがあるが、残酷な現実を描きながらも同時にファンタジックな美しさを持った『パンズ~』とは対照的に、こちらの『ウィンターズ~』は徹底的に乾いた(ドキュメンタリー・タッチの)リアリズムで描かれている。

 セリフは極端に少なく、皆小さな声で囁くように喋り、娯楽的な過剰演出も一切ない。カメラと被写体の距離感が付かず離れずの絶妙な間合いを保ち、静寂の多い作品ながら、ピリッとした緊張感が終始スクリーンに張り付いている。

 先述したとおり、本作は男臭いハードボイルドというのとはちょっと違うが、一本筋の通った骨っぽさが作品全体を貫いている(最初はリーを突き放しながらも、ここぞという時に力になってくれる伯父ティアドロップには「男気」的要素があると言えるかもしれない)。

 サスペンスではあるが謎解きに終始するわけでもなく、人間ドラマではあるが大仰に泣かせに走るわけでもなく、そして家族の絆を描きながらも、愛情たっぷりに助け合う様を描くわけでもないのだが、しかしそれら各々の要素がしっかりと質の高い作品性として結実している。セリフも含め、過剰な演出を一切排除した、まさに「引き算の美学」の見事な成功例として、本作は一つの指標たり得る傑作と言えるだろう。

 

(2014年1月9日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
性別
男
生年月日
1984年5月2日
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