第96回『デッドゾーン』

悲しき予言者に未来はあるか?

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『デッドゾーン』
(The Dead Zone)
1983年:カナダ
監督:デヴィッド・クローネンバーグ


 教師のジョニー(クリストファー・ウォーケン)は、同僚の恋人サラ(ブルック・アダムス)と互いの将来を誓い合ったその晩に、雪上での大事故に巻き込まれ、昏睡状態に陥ってしまう。病院のベッドで目を覚ました彼は、実に五年間もの間、自分が昏睡状態にあったことを知らされて愕然とする。自分にとっての「つい昨日までの日常」が、周りの人間にとっては既に「遠い過去の出来事」なのである。そして将来を誓い合ったサラが既に別の男性と結婚し、子供までもうけていることを知ってさらに愕然とするジョニー。

 退院後、ジョニーはサラと再会し、五年前に結ばれるはずだった彼女にまた自分の元へ帰って来てほしいと切願するが、彼にとっての「昨日までの恋人」は既に別の人生を送っており、当然、彼の切なる願いは受け入れられない。運命のいたずらによって幸せだったはずの五年間を棒に振った上に、将来を誓い合った恋人まで失うことになり、挙句は杖なしでは歩くことが困難な体になってしまったというわけである。呪っても呪いきれない自身の運命に絶望するジョニー。

 そんなある日、彼は自分が不思議な能力を授かったことを知る。相手の体(特に手)に触れると、その相手の過去や未来がジョニーの脳裏に鮮明な映像となって現れるようになったのだ。このジョニーの能力はすぐに世間の耳目を集めることとなり、連続殺人事件の捜査への協力を依頼され、見事その事件を解決に導くといった活躍も見せるが、しかし当のジョニーにとっては、この不思議な能力は平穏な生活を乱す重荷でしかなく、当然ながらこのことがさらに彼を苦しめ、一般的な生活から彼を遠ざけることになってしまう。

 そして町外れでひっそりと家庭教師をしながら、孤独な生活を送るようになったジョニーだが、しかしそれでもやはり、己のその特殊な能力のために彼の平穏な生活は乱されてしまう。確かに、この予知能力を有効に使えば、人の命を助けることも出来る。しかし一方で、人の未来を予知する(あるいは過去を暴く)ということは、必ずや誰かを不幸にすることにもつながるのだ。それゆえ、この能力によってジョニーの心に平穏がもたらされることはない。

 さらに不幸なことには、この能力が高まれば高まるほど、それに反比例するようにジョニーの体は衰弱してゆくということが判明する。

 もはや人並みの平穏な生活を手に入れることは不可能に近い。そんな自分の境遇に絶望するしかないジョニー。しかし彼の不幸はこれでもまだ終わりではなかった。

 ある日、偶然にも遊説中の上院議員候補スティルソン(マーティン・シーン)と握手を交わしたジョニーは、スティルソンが将来この国の大統領になり、その狂気的な横暴さでついに核戦争の引き金を引いてしまう、という恐ろしいヴィジョンを目の当たりにするのだ。そしてこのことが、ジョニーの運命をさらに狂わせてゆくことになる……。

 主人公の予知能力によって救われる命もあれば、一方で失われる命もあり、もっと言ってしまえば、たとえ「正しい」と思って予知能力を使ったとしても、結局すべての命は救えないということになる。この作品は、当然ながら予言者となった主人公をヒロイックには描いていない。むしろ自ら望まぬ予言者となってしまったことで、人生の全てを失わざるを得ない状況に追い込まれてしまった、ある平凡な人間の底なしの悲劇が描かれている。過去を失い未来を奪われた悲しき予言者の苦悩を描いた人間ドラマとして、ドラマ作りの巧いクローネンバーグの手腕が光る逸品だ。

 

(2013年12月24日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
性別
男
生年月日
1984年5月2日
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