第94回『3-4x10月』

ジャンプカットの白昼夢

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『3-4x10月』
1990年:日本
監督:北野 武


 本作は、今まで見てきた北野映画の中では一番好きな作品だ。初期の代表作である『ソナチネ』(1993年)などは、10代の頃に見てもその良さが正直よく分からなかったが(今では好きだが)、こちらの『3-4x10月』は、14、5の時分に見て一発で虜になった。

 主人公のマサキ(柳ユーレイ)は何をやってもさえないボンクラ青年。いつもぼんやりしていて、傍から見ると何を考えているのかよく分からない。所属する草野球チームでも彼はいつもベンチでぼんやりしているだけ。野球のルールすらよく分かっていないが、しかしそれでも何やかや周りからは好かれている(というよりは「憎めないやつ」と思われている感じか)。

 ある日、そんな彼が勤めるガソリンスタンドで、何かとイチャモンをつけてきたヤクザ(小沢仁志)に思わず彼が殴りかかってしまったことから(ボンクラだが以外に男っぽいところがある)、そのヤクザが所属する大友組との面倒事に発展してしまう。

 偶然にも、草野球チームの監督をしている井口(ガダルカナル・タカ)が元大友組幹部だったので、今回のゴタゴタに目をつぶってくれるよう大友組に頼み込んでくれるが、すでに井口がカタギであることを理由に軽くあしらわれてしまう。これにカチンときた井口は自分に生意気な口をきいた元舎弟(ベンガル)をボコボコに……このことが事態をさらに悪化させてしまい、井口が大友組の組員たちに刃物で刺され、重傷を負わされてしまう。

 「沖縄で銃を仕入れて、大友組の奴らを皆殺しにしてやる!!」と息巻く井口だったが、本人は重傷で動けない。事の発端を作ってしまったマサキは、「俺が沖縄に行ってきますよ」と、ここでもまた意外な男っぽさを見せる。そして、「お前、何バカなことやってんだよ!!」と言いつつもマサキに同行してくれる草野球メンバーのカズオ(ダンカン)と共に沖縄へ。

 当てもなく夜の歓楽街を歩く二人は、偶然、超「厄ネタ」ヤクザの上原(ビートたけし)とその舎弟・玉城(渡嘉敷勝男)に出会う。そして男色的な気質を匂わせる上原にカズオが気に入られ、銃の仕入れも世話してもらうことに。こうして、アブナイ沖縄ヤクザと平凡な草野球メンバー二人の摩訶不思議な数日間が始まるのだった……。

 本作は北野武の監督第2作目だが、ある意味、前作以上に初期衝動的でプリミティヴな感性に満ちている。悪く言えば荒削りでまとまりがないということになろうが、しかしながら、北野映画における初期の完成型と言える『ソナチネ』以降の作品にはない、表現者としてのたけしの剥き出しの感性をたっぷりと味わうことが出来る。

 長閑な草野球シーンが延々と続く序盤、映画的な事件が起こる中盤、そして北野映画特有のコミュニケーション不全な冷たい暴力が展開される後半。一応、起承転結と呼べるような流れはあるものの、映画のトーンは終始変わらず、暴力であれ、笑いであれ、人のちょっとした優しさであれ、感情的な起伏がほとんどない同一線上の出来事として、どこまでも淡々と描かれている。

 前作『その男、凶暴につき』(1989年)においても、刑事と凶悪犯のチェイスシーンなどに、そのような淡々とした白昼夢的な感覚を覚えたが、本作においては、終始徹底して、その白昼夢的な空気を感じさせる演出が貫かれている(劇中、BGMが全く使われていないということも、そのような感情的起伏のない淡々とした空気を生み出すことに大きく影響しているのだろう)。

 感情表現が皆無というわけでは決してないのだが、ごくごく一般的な映画作品に比べれば、感情的な煽りや言動(もっと極端に言えば「泣く」「喚く」「叫ぶ」等々のエモーショナルなアクション及びコミュニケーション)を極力排除している。

 そしてそんな白昼夢的な空気と共に、本作における最も特徴的なものとして、ジャンプカットの多用がある。ジャンプカットというのは、出来事の「始まり」と「終わり」だけを見せ、その間にあるべき「過程」をばっさりカットしてしまう手法だ。

 例えば、今にもケンカをし始めそうな二人の男がいるとして、これは何か血生臭いことが起こりそうだなと思わせた次のカットでは、もうすでに片方の男が殴り倒されているといったような塩梅である。つまり、二人が殴り合っている「過程」をスッポリ抜かしてしまうのだ。

 本作では、このジャンプカットを過剰なまでに多用しており、それが暴力においても笑いにおいても独特の効果を生み出し、延いては映画全体のリズムを生み出している。『バルスーズ』(1973年)というフランス映画が、この『3-4x10月』にかなり近いジャンプカットの使い方をしていると思うが、ひょっとしたら北野監督もこの映画を見ているかもしれない。

 本作は全体的に作りも粗いし、極端に台詞が少ない上に、先述したとおりジャンプカットを多用しているので、説明的な部分がかなり大胆に削られていて、分かりにくい部分もあるとは思うが、しかし完全に一般的な感覚から乖離した実験映画というわけではないし、話の筋とは何ら関係のないシーンの中に、何とも言えぬ素朴な味わいや、何気ない人の優しさを感じることも出来る。

 私が本作で特に好きなのは、大の大人がいい歳こいてアイスキャンディーを無言で食べているシーンとか、若いカップルがエンストしてしまった他人の車を二人で一生懸命押してあげているシーンとか、そういった実に素朴な(本筋とは何の関係もない)部分だ。

 もちろん北野映画の醍醐味でもある独特の暴力や笑いのセンスも大好きだが、『ソナチネ』でヤクザが紙相撲に興じているシーンや、『キッズ・リターン』(1996年)で不良が自転車に二人乗りしているシーンといったような、あの手の何とも言えない素朴な味わいを感じるシーンには、やはりいつ見てもグッとくるものがある。

 私は熱心なキタニストではないので(芸人としてのビートたけしは大好きだが)、北野映画の全部が全部好きというわけではないが、それでもやはり、北野 武が90年代以降の日本映画を代表する名監督であることは間違いないと思っている。暴力と笑いと人の素朴な優しさを、ここまで同一線上に描ける映画監督も、そうそういないのではなかろうか。

 

(2013年11月2日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
性別
男
生年月日
1984年5月2日
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