第93回『実録 私設銀座警察』

映画はどこまでアナーキーになれるのか

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『実録 私設銀座警察』
1973年:日本
監督:佐藤純彌


 「なんせ天皇陛下が毛唐の大将に尻尾振る世の中よ」

 ……なんとまぁアナーキーな名台詞であろうか。普段から色々と下衆い映画を見ているが、本作は今まで見てきた下衆映画の中でもトップクラスだ(もちろん称賛の意味で)。戦後間もない混沌の中で、暴力とカネとセックスにまみれた頽廃的な人間どもの醜態をこれでもかと曝け出す、なウルトラ・バイオレンス・ジャンク・ムーヴィー。ほぼ感情移入不可の最低な人間しか出て来ない。

 まずオープニングからしてすでに下衆っぷり全開。

 渡瀬恒彦演じる復員兵の男が、久々に再会した自分の女がパン助に身を落とし、黒人のテテなし子を産んでいることを知ると、逆上のあまりその赤ん坊をドブ川のようなところへブン投げて殺してしまう。汚水にプカプカ浮かぶ赤ん坊。おいおい、しょっぱなからこれかよ……とドン引きしているこちらをよそに、今度は我が子を殺され半狂乱になっている女を押さえつけると、女の頭に大きな石を何度も何度も執拗に叩きつけて撲殺。乳丸出しで血まみれになる女。鬼のような形相の渡瀬。

 重い、下衆い、救いがない……。

 もはや観客への嫌がらせ以外の何ものでもないヘヴィかつダークな幕開けだ。おまけに出演者の名前がずらりと赤文字で並ぶタイトルバックの画が、全て焼け野原に転がる焼死体(本物)の写真という徹底ぶり。焼死体にばかり目が行って、出演者の名前が全然入って来ない。

 本作の舞台は戦後間もない銀座界隈(混沌とした巨大闇市のセットは圧巻のスケールとクオリティーだ)。ここで暴れまわる向こう見ずな男たち(演じるは安藤昇、葉山良二、梅宮辰夫、室田日出男)が、朝鮮人への殴り込みをきっかけに意気投合。この四強が後に「私設銀座警察」と呼ばれ恐れられる存在になる。そして黒人兵の顔をナイフで衝動的に切りつけてしまったギラギラ渡瀬を偶然かくまった葉山が、この野獣にヒロポンを与え、ほぼ飼い殺し状態で組織の殺し屋として雇い入れる。

 あとはこの主人公たちを中心に、ただもうひたすらに暴力、暴力、また暴力の地獄絵図が展開される。先述したとおり、誰一人として感情移入出来るキャラがいない。インテリ経済ヤクザの安藤が唯一この中ではまともに見えるが、しかしこの安藤とて、あくどいユスリ(恐喝)でシノギを稼ぐ冷淡な男であることに変わりはない(身内の若い衆にはかなり情が厚いが)。

 そして「銀座警察」の面々がそれぞれにカネを稼ぎ始めると、もとより友情だの仁義だのといった概念が欠落している下衆な四強は内ゲバ的に空中分解。インテリ肌で銭儲けの巧い安藤、昔カタギの任侠を気取るが結局は口先だけの葉山、C調強姦魔で特に女に対しては血も涙もない(でも意外と切れ者な)梅宮、腕力以外に能がない室田(こういう男は大概いちばん最初に殺される)……この四人の下衆によるドス黒い腹の探り合いを中心に物語は淡々と進む。

 一方、完全なるポン中となり果て、終始注射を打ちまくり、さらには重度の胃潰瘍のためにところかまわず血を吐きまくるという、まさに「生ける屍」と化した渡瀬。一応、最後まで葉山直属の殺し屋なのだが、最終的にはもはや誰に銃口を向けているのかもよく分からなくなってくる。フードをかぶったロングコート姿でフラフラと現れ、血ヘドを吐き散らしながらハジキをブッ放すその様は、殺し屋史上最高度のアナーキーさだ。

 真っ昼間でも死神オーラ全開のこの負の凄みには、『仁義の墓場』(1975年)で渡瀬の実兄・渡哲也が演じたポン中ヤクザ、石川力夫のそれを遥かに凌ぐ狂気性がある(同じ時期に兄弟そろってポン中ヤクザを好演しているというのも凄い)。

 中盤、安藤の暗殺に失敗した渡瀬が日本刀でメッタ刺しにされた上に銃弾を何発もブチ込まれ、それでも死なないので最後は生き埋めにされるのだが、驚いたことに、これでもまだ死なないリビングデッド渡瀬。彼が土の中から這い出してくる様はまさにゾンビそのものだ。

 そしてラストは、「銀座警察」のお膝元で荒稼ぎする中国人をリンチにして殺した挙句、その死体を豚の餌にしてしまったことで、梅宮と葉山が逮捕されることに。しかしただで逮捕される「銀座警察」ではない。「どうせ豚箱に行くなら最後の最後に飲んで歌ってヤりまくりだ!!」と完全に吹っ切れた梅宮、葉山をはじめとする下衆ヤクザどもが、お座敷遊びで飲めや歌えやヤったれやの大乱交を決行。皆で「同期のチンポ」というしょーもない替え歌を大合唱する(この映画は一体、誰に喧嘩を売っているんだろうか……)。

 その狂乱の中で、リビングデッド渡瀬だけが女も抱かずに大量の血ヘドを吐き散らし、その血ヘドの海の中で悶えながら人知れず絶命すると同時に映画も「終」……最後の最後まで誰一人として救われないまま、東映エログロバイオレンスの限界点を見せつけてさっさと幕を引くという、超重量級の投げっ放しパワーボムが炸裂する。

 ひどく落ち込んでいる時やムシャクシャした時なんかに本作を見れば、「俺の人生ってまだまだ平和で恵まれているんだなぁ」と自分の人生に感謝の念が湧くこと必至の一本だ。

 

(2013年10月20日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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