第91回『シャブ極道』

シャブで築こう明るい未来!!

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『シャブ極道』
1996年:日本
監督:細野辰興


 「ワシがシャブ売るんは銭金のためだけやない。人間はシャブで幸せになれるんじゃ」

 深作欣二監督の『仁義の墓場』(1975年)をはじめ、世にシャブ漬けのヤクザが主人公の映画は少なくないと思うが、その主人公が「シャブで人は幸せになれる」と心の底から信じているなんていうのは、おそらく本作くらいだろう。『シャブ極道』における主人公とシャブの関係は、「中毒」というよりはもはや「信仰」である。シャブを摂取することは、本作の主人公にとっては背徳的な行為ではなく、むしろ幸せになるためのポジティブな行為であって、そしてそのシャブを売り捌くことは、「世のため人のため」の慈善事業だと信じて疑わない。

 冒頭、主人公の真壁(役所広司)が寝覚めにスイカを食うのだが、そのスイカに、まるで塩を振りかけるみたいにシャブの粉をサラサラと振りかけ、実に美味そうにムシャムシャと頬張る。これだけでもう掴みは完璧だ。この男がどれだけシャブ好きであるかが一発で分かる。

 大阪の弱小暴力団、巌竜組の組員である真壁は、絵に描いたような厄ネタ組員で、シャブが彼をそうさせるのか、何かと暴走しては組に迷惑ばかりかけている。しかしそんな彼の一本気なところが、何やかや組長からは可愛がられ、舎弟分の下村(渡辺正行)と加納(菅田俊)からも、これまた「兄貴、兄貴」と慕われている。

 ある日、真壁は賭場で居合わせた鈴子(早乙女 愛)に一目惚れする。十二歳で家出して以来、ずっとシャブを竹馬の友として生きてきた真壁が、生まれて初めてシャブと同じくらい夢中になれる存在を見つけたのだ。しかし鈴子は巨大組織の幹部・神埼(藤田傳)の女であった。普通であれば、もちろん手も足も出ない。出せるわけがない。

 しかし狂気のバイタリティーを持ったシャブ極道・真壁の恋心を止めることは誰にも出来ない。真壁は舎弟の下村と二人で丸腰の神崎を急襲。金属バットで神埼の頭をカチ割り、目的の鈴子を拉致、告白、カーセックス。最初は抵抗する鈴子だったが、彼女もまた真壁の一本気な純粋さを受け入れる。この一件は当然ながら大問題になり、あわや討ち入りかというところまで行くが、神埼の属する巨大組織に弱小暴力団が敵うわけがない。巌竜組々長の尽力によって、どうにか事は収まる。

 普通であれば指の一本や二本では済まされない大失態を犯した真壁だが、ここでもまた彼の神懸かった人徳(?)が物を言い、器のでかすぎる組長の計らいで、結果的にはお咎めなし。さらには、これまた器のでかい神埼が、金属バットで頭を割られたにもかかわらず、鈴子の幸せを考えて自ら身を引いたことで、まさかまさかの一件落着。真壁と鈴子は晴れて正式な夫婦となる。

 時は流れ、巌竜組も弱小ながら順風満帆に運営しているかに見えたが、ある日突然、組長が20億の負債を抱えていることが発覚。組は一瞬にして崩壊の危機に陥る。このタイミングで完全に首が回らなくなった組長を説き伏せた(というよりは恐喝した)真壁は、ほとんど乗っ取ったような形で巌竜組のトップに就任。「日本中を幸せにする」ためにシャブをガンガン売り捌くことを宣言する。

 しかしここで運命の皮肉か、すでに3万人の構成員を擁する大組織のトップにまで登りつめていた神埼が、完全なる反ドラッグの硬派ヤクザであることが分かり、さらには薬物撲滅を謳っていることが判明する。巌竜組の未来と真壁の身を案じた鈴子はシャブの売買に異を唱えるが、真壁は「神埼が日本からシャブをなくすのが先か、ワシが日本中をシャブで幸せにするのが先か」とうそぶき、一向に怯まない。果たして真壁は、その思惑どおり、シャブで日本を幸せにすることが出来るのか。

 基盤としてはまんま『スカーフェイス』(1983年)なのだが、そのテイストはコテコテの人情喜劇だ。よくよく考えてみれば、敵も味方も話の分かるイイ人ばかりだし、この物語の中で一人だけ完全に浮いている主人公・真壁を、その周りのイイ人たちが割かし悪いようには扱っていない(それどころか、かなり擁護されているような印象すら覚える)。

 冒頭のシャブスイカをはじめ、誰もが一度は考える(?)ギャグをそのままやってしまったシャブしゃぶしゃぶ(真壁的にはごまだれよりポン酢がオススメらしい)、あげくは全身にシャブローションを塗りたくってのシャブファック……。シャブに始まりシャブに終わる真壁の日常はあまりにも破天荒だが、そんな真壁は「体に悪いから」と酒とタバコは一切やらない(ビールをたった一口飲まされただけでゲーゲー吐いてしまうほどだが、 それもシャブを一発キメれば即座に回復する)。

 シャブの摂取描写がことごとくブラックなギャグになっているので、どうしたってキワモノ的なイメージが強くなってしまうが、先にも書いたとおり、本作はコテコテの人情喜劇であって、その中心にあるのが、真壁と鈴子の夫婦愛のドラマなのである。

 二人三脚でひとつの道を歩む夫婦の美しさ。山あり谷あり地獄あり。シャブローションを塗りたくって愛人とイチャイチャしている真壁の前に、浮気の匂いを嗅ぎつけた鈴子が突然現れるという、もうこれ以上はないというくらいベタな夫婦の修羅場シーンには爆笑してしまった(しかも真壁の言い訳が「まだ入れてないから浮気じゃない!!」)。

 パッと見れば不謹慎極まりない作品だが、別に映画自体がシャブを礼賛しているわけではないし(というか、劇中でも真壁ただ一人が勝手にシャブ、シャブ、と騒いでいるだけだし)、人情喜劇として見れば、思いのほかホッコリ出来るタイプの温かみある物語である。

 もちろん、内容が内容だけに、万人にお薦め出来る作品ではないが、ブラックな笑いでビシバシ攻めつつ、要所要所でホッコリさせるニクイ映画として、物好きな方々に是非とも推奨したい一本だ(ちなみにこの映画、『Shall we ダンス?』と同じ年の作品)。

 

(2013年10月11日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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