第83回『レスラー』

俺の居場所はリングだけ!!

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『レスラー』
(The Wrestler)
2008年:アメリカ
監督:ダーレン・アロノフスキー


 主人公のランディ(ミッキー・ローク)は、80年代には一世を風靡した超人気レスラー。しかしそれから20年経った今、すっかり落ちぶれてしまった彼は、スーパーでバイトをしながら細々と暮らしている。本業のプロレスも続けてはいるが、かつての花形レスラーの面影はなく、レスラーとして入ってくる仕事は、ファイトマネーもろくに貰えぬようなドサ回りばかりだ。

 過去に家庭を顧みなかったためか、すでに伴侶の姿はなく、一人娘のステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)とは長い間疎遠状態が続いている。

 そんな彼の日常の孤独を癒してくれる唯一の存在は、行きつけのストリップバーのダンサー、キャシディ(マリサ・トメイ)。自分と同世代の彼女にラップダンスを踊らせながら、実に嬉しそうにレスラーとしての過去の栄光、プロレス史に残る名勝負の数々を語るランディの姿はあまりにも痛々しい。しかしランディのこんな自慢話を聞いてくれるのは、今や彼女だけなのだ。

 ある日、そんな落ちぶれた生活を送っているランディの元に朗報が。かつて名勝負を行った好敵手であるアヤトラー(アーネスト・ミラー)との20周年記念試合の話が舞い込んだのだ。これは大きな興業になるし、往年のファンが集まってくれるに違いない。きっとレスラー冥利に尽きる素晴らしい試合が出来るだろう。レスラーとしてのラスト・チャンスかもしれない。

 久しぶりの大きな試合を前に、レスラーの血が騒ぐランディだったが、長年のレスラー生活において酷使してきた肉体がとうとう悲鳴を上げ、心臓発作を起こして倒れてしまう。どうにか一命は取りとめたものの、バイパス手術をした体でリングに上がることは120%不可能だと宣告される。この体でリングに上がることは、すなわち死を意味すると言うのである。プロレスだけが、リングの上に立つことだけが生きがいだったランディにとって、この現実はあまりにも残酷だ。

 こうして、レスラーとして生きることを諦め、ごくごく普通の生活者として生きていこうとするランディだったが、プロレス以外には何一つ取り柄のないこの男が、ごくごく一般的な幸せを掴めるはずもなく、キャシディとの恋には敗れ、一人娘ステファニーとの復縁も自らの不甲斐なさのためにぶち壊しになり、スーパーでのバイトも結局は続かない。

 現実に自分の生きる場所はないと改めて痛感させられたランディは、とうとう死を覚悟してリングに上がることを決意する。キャシディは「こんなことは自殺行為よ!」と彼を止めようとするが、「俺の居場所はあそこだけなんだよ」と静かにリングを指さすランディ。そしてテーマ曲と共に威風堂々と入場する彼の姿は、かつて花形レスラーだった頃の輝きを放っている。往年の好敵手と固い握手を交わし、ファンの大歓声に包まれ、改めて自分の居場所はここだけだと悟るランディ。

 この試合によって彼は死ぬかもしれないが、しかし実人生の全てを失っても構わないと思わせるほどの熱狂が、夢が、無垢な浪漫がここにはある。

 リングの外では何一つ幸せを見つけられなかった彼の人生は、ごくごく一般的な尺度で見れば不幸と言えるかもしれないが、しかしながら、ただ一つのものに己の全てを賭けられるということは、また別の尺度で見れば、ごく少数の限られた人間にしか味わうことの出来ない、濃密で幸せな人生だと言えるだろう。この世の現実に向き合えない夢追い人は、傍から見れば完全なる「イタイ人」でしかないが、とはいえ、誰しも心のどこかで、大なり小なりこのような「たった一つのことに全てを賭ける」生き方に憧れを抱いているのではなかろうか。

 

(2013年7月20日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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