第8回『ドリラー・キラー』

不幸せな生活感


『ドリラー・キラー』
(The Driller Killer)

1979年:アメリカ
監督:アベル・フェラーラ

 スプラッター映画として見れば、お世辞にも良作とは言い難い本作だが、鳴かず飛ばずの無名アーティストの鬱屈とした日常を描いたブラック・コメディーとして見れば、かなり面白い作品だと思う。売れないロックンローラー(演じるは内田裕也)の鬱屈した日常を描いた日活ロマンポルノ『嗚呼!おんなたち 猥歌』(1981年)のスプラッター版みたいな一本だ。

 油虫も寄り付かないようなマンハッタンのボロアパートに暮らす無名の画家リノ。才能がないのか運が悪いのか、家賃さえまともに払えないあっぷあっぷな生活を送っている。

 同居中の恋人とも倦怠期まっただ中。おまけに隣に越してきたパンク・バンドは昼夜かまわず爆音でド下手な演奏を垂れ流し続ける。

 しかし現在製作中の大作『バッファロー』が完成すれば、たんまり金が入る。こんなしみったれた生活にもおさらばできる。それだけを頼みの綱に生きているリノであったが、やはりストレスは溜まる一方。そんな折、テレビの通販番組で見かけた携帯用バッテリーパック。「これさえあれば、いつでもどこでもドライヤーや電動ドリルが使えます」。

 「おお、これは!!」

 リノは早速こいつを買い求め、電動ドリルと共に夜の街へ。そして日頃の鬱憤を晴らすべく、街中のホームレスたちを血祭りに上げていく……。

 しかしそんな最低の生活とおさらばする時がやってきた。とうとう大作『バッファロー』が完成したのである。さっそくネクタイを締めて馴染みの画商にお披露目するリノ。ああ、とうとうやったぜ。これで金はたんまり入ってくるし、冷めきっていた彼女との仲も元通り!!

 ……ところが、である。

 そんな自信たっぷりの大作を前にして、画商の様子が何やらおかしい。

 「No、 No、 No……」

 あれ?

 「こんなのただのバッファローじゃないか!!」

 あれれ??

 「こんなもん人様に見せられるか!!」

 あれれぇ~~???

 待ちに待たされたあげく、とんでもない駄作を見せられ、怒り心頭で部屋を出ていく画商。待ちに待たされたあげく、彼氏の作品が一文にもならない駄作だと知って、怒り心頭で部屋を出ていく彼女。茫然自失のリノ。普段からだらしなく開きっぱなしの口がいつも以上にふさがらない。全ての望みを断たれた史上最低のシリアル・キラーは、ドリル片手に最後の仕事へ向かうのだった……。

 アベル・フェラーラの監督作品は、本作の他には、ヤク中刑事(演じるはハーヴェイ・カイテル)の破滅的な日常を描いた『バッド・ルーテナント』('92)しか見ていないのだが、この二本を見て思うのは、フェラーラ監督は「鬱屈した日常」を描くのがすこぶる上手いということだ。何と言えばよいのか、ビンボーくさい「不幸せな生活感」が、スクリーンを通してひしひしと伝わってくるのだ。

 本作において、そんな「不幸せな生活感」が最も色濃く出ていると思うのが、リノが彼女とピザを食べるシーン。この男、とにかく食べ方が汚い。しかも律儀にピザの耳だけを残すのである。それを黙って見ていた彼女は、リノに対する日頃からの不満がここで一気に爆発。「あんたなんて最低よ!!」とリノにピザを投げつける。

 リノはなぜ彼女が急に怒ったのか理解できず、目をパチクリさせことしかできない。妻が日頃からどれほど不満を持っていたのかを知らないのは夫だけだった、というような、熟年離婚の決定的瞬間を思わせるワンシーンである。

 

 ちなみに、このうだつの上がらぬ画家リノを演じているのはフェラーラ監督本人。どんよりした死んだ魚の目をして、口は常に半開き……どこまでが本気でどこまでが冗談なのか分からない、このダメダメぶりが素晴らしい。ここまでダメ男役がしっくりくる俳優、なかなかいない。
 

(2010年6月3日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
性別
男
生年月日
1984年5月2日
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