第78回『プッシャー』

ダメダメ売人ダイアリー ~俺の人生、粉任せ~

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『プッシャー』
(Pusher)
1996年:デンマーク
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン


 デンマーク出身の奇才、ニコラス・ウィンディング・レフン監督のデビュー作。全編手持ちカメラのざらついたリアリティーで、プッシャー(ヤクの売人)たちの頽廃的な日常を描いている。いかにも若手監督の初期衝動といった感じの(良い意味での)粗さが際立っているが、後の作品で見せる異質な才能の萌芽が、このデビュー作の時点で既に垣間見れる。

 主人公のフランク(キム・ボドゥニア)は絵に描いたようなしがない売人。相棒のトニー(マッツ・ミケルセン)と共に、ケチくさい売人稼業をしながら、その日その日をダラダラと生きている。ある日、フランクの元にちょっとした儲け話が舞い込み、普段より多めに稼いでやろうと欲を出したが運の尽き。サツに捕まり、相棒に売られ、元締めからの借金はブクブクと膨れ上がる。

 完全に首が回らなくなったフランクは、ハンパな関係の女と共に高飛びを決意するが、このチンケな売人の堕ちゆく先には、最低最悪の結末が待ち受けているのだった……。

 特に大きな事件が起こるわけでもなく、安っぽい売人のダラダラとした日常が延々続くB級犯罪映画なのだが、センス抜群な手持ちカメラによるドキュメンタリー・タッチのリアルさと、レフン監督独自の演出の異質性(何だかよく分からないシュールな「間」と、これまたよく分からない独特のBGMの使い方)によって、凡百のB級犯罪映画とは一線を画した逸品に仕上がっている。

 前半はとにかくダラダラとした主人公とその相棒の「売人の日常」が描かれる。実際の売人家業がどんなものかは知らぬが、社会の底辺で生きる(絶対に大物になれなそうな)チンピラたちの怠惰な日常のリアリティーは、『ミーン・ストリート』(1973年)のそれを遥かに上回っている。

 何ともケチくさい商売の合間に、野郎二人でダラダラと下品かつハッタリ満載の下ネタをかまし合ったり、野郎二人でダラダラと晩飯を食ったり、これまた野郎二人でダラダラとバーで飲んだくれたり……とまぁ、こんな具合の日常描写が延々続くわけである。

 一応フランクと付き合っているらしき女も出てくるのだが、その関係も実に惰性的で(どうやら肉体関係はほとんどないようだ)、全体的に女っ気がないというか、色気がないというか、映画自体にどうにも男色っぽい雰囲気が漂っている。

 そして後半は、いつも以上に商売っ気を出したフランクが、大事な取引を見事にトチり、そこからは一気に不幸の坂道を転げ落ちてゆく地獄絵図が展開される。この堕ちゆくフランクの絶望的な表情が素晴らしい(ほとんど途方に暮れているだけなのだが、この途方の暮れ方が絶妙なのだ)。

 フランクのどこまでも「しがない感じ」(そして追い込まれてゆく時の途方に暮れた表情)、そしてトニーのどこまでも軽薄かつ品のない立ち居振る舞い(唐突に「本物の回し蹴りを見せてやる」と言い出し、威勢よくジャンプしてみせたはいいものの、着地に思いっきり失敗して足を痛めたりするこの愛すべきバカっぷり)が実に芳ばしい。

 フランクもトニーも、心底ダメダメな野郎で何一つカッコイイところはないのだが、しかし同じ凡庸な人間として、思わず共感してしまうような部分が少なくない。ここらへんが、この作品の何ともニクイところである。

 本作にはドラマ性と呼べるような要素はほとんどない(意識的に削ぎ落とされている)のだが、しかしながら、怠惰かつ頽廃的な売人生活の中にも、どこか憎めない人間臭さを感じさせるような演出の妙味というものがある。ダメな人間の見せ方にあまり嫌らしさを感じさせず、そんなところにレフン監督独自のヒューマニティーがあるのではないかと思う。

 

(2013年6月6日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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