第71回『盲獣』

恋は盲目 ~不器用な二人の破滅型スキンシップ・ラヴ・ロマンス~

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『盲獣』
1969年:日本
監督:増村保造


 芸術性と変態性は紙一重というか、ある意味で重なり合う相似性を持っていると言えるが、江戸川乱歩の描く世界においては、この二つの境界線はほとんど有って無いようなもの。ある種の芸術的感覚を帯びた変態性が、登場人物たちの中でどんどんどんどん膨張してゆき、挙句、社会的な一線を景気よく飛び越えてしまう、というような話が多い。

 本作『盲獣』は、そんな乱歩的変態ワールドを真正面から映像化した一本。

 原作を読んでいないので、映画と原作の差異の程はよく分からないが、乱歩原作云々ということを抜きにしても、本作は紛う方なき大傑作である。徹底的に無駄な肉が削ぎ落とされ、単純化されたストーリー展開(登場人物がたった三人しか出てこない完全なる密室劇)の中で、「触覚のみの快楽」に溺れてゆく男と女の、そのどこまでも狂気的な変態性がスクリーン狭しとほとばしる。

 過剰にブッ飛んだアナーキーさはないが、人間の剥き出しの変態性に極限まで肉迫した骨太な演出で、芸術性と変態性の垣根を飛び越えてしまう男と女の狂った性愛の極地を描破している。

 モデルのマキ(緑 魔子)の肉体の美しさに惚れ込んだ盲目の彫刻家・道夫(船越英二)は、彼を溺愛する母(千石規子)と共にマキを誘拐し、道夫の秘密のアトリエに監禁する。道夫は触覚だけで楽しむ女体のオブジェを量産しており、彼の理想とする肉体美を持ったマキをモデルに、自身の「触覚芸術」における最高傑作を作り出そうとしていたのだ。

 この秘密のアトリエには、巨大な女体のオブジェをはじめ、これまた巨大な腕や唇や耳や乳房といった女体の各パーツのオブジェが所狭しと並べられ、その光景のあまりの異様さに恐れおののくマキだったが、日常から完全に隔絶された暗闇の世界(触覚の世界)で道夫と共に過ごすうちに、いつしか彼女の視力も弱ってゆき、道夫との「触覚だけの快楽」に溺れ始める。

 そしてその快楽に次第に痛みを求めるようになったマキと道夫は、そのまま互いの肉体を傷つけ合う危険なサドマゾの領域へと突入してゆく……。

 ごく大雑把に言ってしまえば、男と女の泥沼化してゆく変態プレイを90分近く見せられるだけなのだが、たった三人の登場人物(マキ、道夫、そして道夫を溺愛する母)の関係性が、激しく歪みながら変化してゆく過程を非常に緻密かつ大胆に描いており、その血生臭い変態性・狂気性の中にも、どこか普遍的な「男と女」「母と息子」「嫁と姑」の心理的な人間ドラマが展開される。

 最初は怯えるだけだったマキが次第に女として生まれ持った己の魔性に目覚めてゆき、(変態的ではあるが)あくまで芸術家としての作業に没頭していた道夫を、頽廃的な性的快楽の世界に引きずり込み、道夫を溺愛する母親から彼を奪い取ろうとする。

 そして母親との近親相姦的な関係性に縛り付けられていた道夫が俗世的な「男」になったことで、自分を溺愛する母親より、新たな快楽を与えてくれたマキの方を選ぶ。母親はこの息子の裏切りに怒り狂い、可愛い息子を奪った魔性の女を激しくなじる。

 日常から切り離された倒錯的な世界で起こる人間どうしの愛憎劇が、そのまま俗世間でよく見られる普遍的な愛憎劇と同じ構図になっているのだ。この倒錯的なシチュエーションの中に垣間見える普遍的なドラマ性の面白さこそが、作品としての質を底上げしている。

 近親相姦的な過剰な愛で結ばれていた母と息子(そして母が心から応援していた息子の芸術への情熱)が、魔性の女の肉体的な美しさ(さらに言えば俗物根性丸出しのセックス)によって打ち壊され、そのまま一気に破滅への坂道を転がり落ちてゆく……という、見る側にも相当に歪んだカタルシスをもたらすところに、本作の実に映画的・見世物的な醍醐味がある。

 そして作品そのものの素晴らしさ、演出力の素晴らしさもさることながら、本作における白眉はやはり、たった三人しか出てこない出演者たちの、その真に迫った演技と演技のぶつかり合いだろう。

 触覚のエロスに身悶えする盲目の変態彫刻家を演じた船越英二はもちろんのこと、怯えるだけの状態から徐々に己の魔性に目覚めてゆくモデルを演じた緑 魔子も、息子を近親相姦的に溺愛する母を演じた千石規子も、三者それぞれに作品世界にガッチリと喰い込んだ存在感があり、倒錯的でありながらも、どこか悲喜劇的な滑稽さも滲ませる三者の演技はまさに絶品としか言いようがない。

 本作は、中川信夫監督の『地獄』(1960年)と並ぶ、日本映画が世界に誇る骨太な怪作だ。「気骨ある変態映画が見たい!!」という方には是非ともお薦めしたい。

 

(2013年3月18日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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