第7回『血を吸うカメラ』
「単刀直入」突撃リポート

『血を吸うカメラ』
(Peeping Tom)
1960年:イギリス
監督:マイケル・パウエル
『血を吸うカメラ』というなかなかに乙な邦題(原題は『Peeping Tom』=のぞき魔)と、先端にナイフを取り付けたカメラで、恐怖に慄き悲鳴を上げる女性を撮影しながら刺し殺す、というマンガチックだが面白い殺害方法……この二点だけでも、この手の作品が好きな人間にとってはかなり心引かれるものがあると思うが、一言で言ってしまえばB級のサイコ・サスペンスである。
ほぼ同時期に似たようなテーマで作られたヒッチコックの『サイコ』('60)に比べると、やはり映画としての出来はかなり劣る。
しかし面白いと思うのは、あくまで被害者側に主観があった『サイコ』に対し、こちらの『血を吸うカメラ』は完全なる殺人者目線で描かれており、変態殺人を犯す主人公の内面にかなり同情的に肉迫しているところだ。『サイコ』の主人公は、死んだ母親を自分に憑依させて殺しまくるマザコンのキチガイ電波野郎として、観客の同情は誘わないように描かれていたが、『血を吸う~』の殺人カメラ小僧は、自身の歪んだ衝動を常にどうにかしたいと悩んでおり、人間味ある葛藤に身悶えする悲しき殺人者といった趣で描かれている。
映画スタジオの撮影助手やエロ写真のカメラマンをしながら映画監督を志す青年マーク(カール・ベーム)には夜の顔があった。夜な夜な言葉巧みに誘い出した女性たちを銃剣付き特製カメラで撮影しながら突き殺しては、その撮影された女性たちの断末魔の叫びを独り暗い部屋で観賞しながらオーガズムに達するのである。
そんな彼は幼少期、生物学者である彼の父親によって、「恐怖に対する反応」という実験のモルモットにされていたのだ(これが彼を殺人者にさせた原因のように描かれているが、説明的な部分での詰めが甘く、説得力に欠けるのは否めない)。
そんな孤独な変態殺人者であるマークにも恋の季節が訪れる。今は亡きマークの父親が残した屋敷に間借りしている若い娘ヘレン(アンナ・マッセイ)は、マークの創作的な部分に興味を持ち、彼に親しく話しかける。さすがの陰鬱な青年も、闊達な女の子が自分の才能に興味を持ってくれたのだから天にも昇る思いである。
自分の部屋を訪れたヘレンに「何か飲む?」と牛乳を差し出すコミュニケーション不全ぶりを露呈するが、そんなことは恋する二人には関係ない。互いにどんどん惹かれ合っていく。
しかし盲目であるヘレンの母親は、盲人特有の第六感でマークの邪悪な匂いを嗅ぎ取り、「私の娘には近づかないで!」とマークに詰め寄る。
マーク自身、自分の変態的衝動を抑えようと必死に葛藤しているのであるが(ここらへんがかなり同情的に描かれている)、もはや自分ではどうすることもできないところまで来てしまっていた。とうとう警察の手も迫り、もはや破滅への道を後戻りすることはできない。追い詰められたマークは、愛するヘレンの前で、悲惨な人生のラスト・カットを撮影する……。
全体的な構成は甘いし細かな部分にも穴が多い。殺人場面の演出もさほど上手いとは言い難い。ドラマとしても、人間心理の奥深くをえぐったというよりは、どちらかといえば安っぽいメロドラマと言ってしまえなくもない。しかし、この作品に唯一説得力があるとすれば、それは主人公マークを演じたカール・ベームの存在感である。
いかな映画とはいえ、殺人者、それもとびきり変態のセックス殺人となると、そこに同情の余地はなかなか生まれないと思うが、しかしそこに同情の入り込む余地が生まれてしまうところに、本作最大の魅力があると言ってもいいだろう。そしてその変態殺人者への同情の余地というものを可能たらしめているのは、殺人者を演じるカール・ベームの存在感に外ならない。
とにかくカール・ベームが役にハマっている。最初に登場した時は心底気持ち悪いし、同情の余地なんてまるでないように思うのだが、次第に自身の人間的な弱さに悶え苦しんでいる様を見せ始めると、こちら側も自然と同情的な気持ちになってくる。名作『サイコ』では決して味わうことのなかった「殺人者への感情移入」が、カール・ベームという役者が醸し出す痛々しげな雰囲気を通して、実に危うい魅力と共に成立するのである。
本来、敵役であるはずの殺人者の心理に、かなり普遍的な目線で肉迫している、という意味では、すこぶる面白い作品である。過去のトラウマといった理由付けなどせずに、もっと単純に「悩める殺人者の人間性」みたいな部分を掘り下げていれば、恐怖を追及するばかりのサイコ・サスペンスにはない、普遍的な人間ドラマを導き出せていたかもしれない。いずれにせよ、心に残る(というよりは心に絡みつく)映画であることは間違いない。
(2010年4月19日)
- 第1回『バルスーズ』
- 第2回『地獄』
- 第3回『北国の帝王』
- 第4回『カンバセーション …盗聴…』
- 第5回『アギーレ 神の怒り』
- 第6回『コックファイター』
- 第7回『血を吸うカメラ』
- 第8回『ドリラー・キラー』
- 第9回『ゾンビ』(米国劇場公開版)
- 第10回『エルム街の悪夢』
- 第11回『第9地区』
- 第12回『ジャガーノート』
- 第13回『バッド・ルーテナント』(1992年)
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- 第18回『赤い影』
- 第19回『アンドロメダ…』
- 第20回『にっぽん昆虫記』
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- 第101回『エリート・スクワッド2』
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- 第210回『ハンター』(2011年)
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- 第222回『ドッペルゲンガー』(2002年)
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- 第226回『巌窟の野獣』
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- 第241回『首』(2023年)
- 第242回『東京フィスト』
- 第243回『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』
- 第244回『ほんとにあった! 呪いのビデオTHE MOVIE 2』
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- 第248回『アイ, トーニャ/史上最大のスキャンダル』
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- 第253回『密輸 1970』
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- 第278回『オブセッション 災愛』
- 第279回『カルロス・カイザー』
- 第280回『ヒンド・ラジャブの声』
プロフィール

- ニックネーム
- わがままコブラ
- 性別
- 男
- 生年月日
- 1984年5月2日
- アクセス数

- ページビュー数

- 第1回『バルスーズ』
- 第2回『地獄』
- 第3回『北国の帝王』
- 第4回『カンバセーション …盗聴…』
- 第5回『アギーレ 神の怒り』
- 第6回『コックファイター』
- 第7回『血を吸うカメラ』
- 第8回『ドリラー・キラー』
- 第9回『ゾンビ』(米国劇場公開版)
- 第10回『エルム街の悪夢』
- 第11回『第9地区』
- 第12回『ジャガーノート』
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- 第14回『股旅』
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- 第171回『CURE』(1997年)
- 第172回『アルカトラズからの脱出』
- 第173回『透明人間』(2020年)
- 第174回『ブルータル・ジャスティス』
- 第175回『蜘蛛の瞳』
- 第176回『バクラウ/地図から消された村』
- 第177回『クラッシュ』(1996年)
- 第178回『子連れ狼/死に風に向う乳母車』
- 第179回『エグゼクティブ・デシジョン』
- 第180回『クリスティーン』
- 第181回『ブリス』(2019年)
- 第182回『トレマーズ』
- 第183回『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』
- 第184回『コマンドー』
- 第185回『ゴースト・ドッグ』
- 第186回『青い春』
- 第187回『スリー・フロム・ヘル』
- 第188回『狂熱の季節』
- 第189回『ワイルドカード』
- 第190回『奈落の翅』
- 第191回『キング・コング』(1933年)
- 第192回『パニック・イン・テキサスタワー』
- 第193回『CUBE』(1997年)
- 第194回『カリガリ博士』
- 第195回『ダークマン』
- 第196回『コンバット・ショック』
- 第197回『レッド・ドラゴン』(1986年)
- 第198回『さらばアフリカ』
- 第199回『全身犯罪者』
- 第200回『世界残酷物語』
- 第201回『クライ・マッチョ』
- 第202回『ヒューマン・キャッチャー』
- 第203回『ハード・ターゲット』
- 第204回『震える舌』
- 第205回『ブレスレス』(1983年)
- 第206回『ジャコ萬と鉄』(1964年)
- 第207回『トゥルー・ディテクティブ/シーズン1』
- 第208回『トゥルー・ディテクティブ/シーズン2』
- 第209回『ゾディアック』
- 第210回『ハンター』(2011年)
- 第211回『ディフェンドー/闇の仕事人』
- 第212回『戦場のピアニスト』
- 第213回『女神の継承』
- 第214回『赤い航路』
- 第215回『鮫肌男と桃尻女』
- 第216回『野獣死すべし/復讐のメカニック』
- 第217回『「みな殺しの歌」より/拳銃よさらば!』
- 第218回『白昼の襲撃』
- 第219回『マッドゴッド』
- 第220回『みな殺しの拳銃』
- 第221回『ロード・オブ・ウォー』
- 第222回『ドッペルゲンガー』(2002年)
- 第223回『ファウンダー/ハンバーガー帝国のヒミツ』
- 第224回『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』
- 第225回『高地戦』
- 第226回『巌窟の野獣』
- 第227回『ロープ』
- 第228回『裏窓』
- 第229回『オーロラの彼方へ』
- 第230回『心霊マスターテープ -EYE-』
- 第231回『間違えられた男』
- 第232回『交渉人』
- 第233回『オオカミ狩り』
- 第234回『私は殺される』
- 第235回『歩くひと』
- 第236回『ブラック・フォン』
- 第237回『コックリさん』(2004年)
- 第238回『英雄の条件』
- 第239回『花を喰う蟲』
- 第240回『境界カメラ』
- 第241回『首』(2023年)
- 第242回『東京フィスト』
- 第243回『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』
- 第244回『ほんとにあった! 呪いのビデオTHE MOVIE 2』
- 第245回『呪いの黙示録 第四章』
- 第246回『呪いの黙示録 第七章』
- 第247回『その怪物』
- 第248回『アイ, トーニャ/史上最大のスキャンダル』
- 第249回『またヴィンセントは襲われる』
- 第250回『残穢 -住んではいけない部屋-』
- 第251回『SISU/シス 不死身の男』
- 第252回『電人ザボーガー』(2011年)
- 第253回『密輸 1970』
- 第254回『Chime』(2023年)
- 第255回『悪魔と夜ふかし』
- 第256回『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
- 第257回『ザ・バイクライダーズ』
- 第258回『ビーキーパー』
- 第259回『スネーク・アイズ』(1998年)
- 第260回『疫(えやみ)~ナヒヤサマの呪い~』
- 第261回『ある殺し屋』
- 第262回『サイレントナイト』(2023年)
- 第263回『28年後…』
- 第264回『プレステージ』(2006年)
- 第265回『ウルフ・オブ・リベンジ 復讐の狼』
- 第266回『近畿地方のある場所について』
- 第267回『Cloud』(2024年)
- 第268回『勝手にしやがれ!! 成金計画』
- 第269回『推定無罪』(1990年)
- 第270回『プロフェッショナル』(2023年)
- 第271回『あのコはだぁれ?』
- 第272回『爆弾』(2025年)
- 第273回『ウェポンズ』(2025年)
- 第274回『YADANG/ヤダン』
- 第275回『アウトローズ』(2025年)
- 第276回『陪審員2番』
- 第277回『シラート』
- 第278回『オブセッション 災愛』
- 第279回『カルロス・カイザー』
- 第280回『ヒンド・ラジャブの声』