第69回『ザ・チャイルド』(1976年)

最も残酷な遊戯

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『ザ・チャイルド』
(¿Quién Puede Matar a un Niño?)
1976年:スペイン
監督:ナルシソ・イバニエス・セラドール



 「この遊び、流行るかな?」

 「もちろんさ。まだまだ子供たちは大勢いるんだ。世界中にね」


 純粋無垢な子供たちが、ある日突然、大人たちを無差別に殺し始めたら……というかなり反則に近いスペイン産の不条理ホラー。襲い来る敵が殺人鬼やモンスターや悪霊のたぐいであれば、襲われる方だって反撃出来ようが、「誰が子供を殺せるか?」という原題のとおり、相手が無邪気な子供たちとあっては、これはよっぽどの人非人でないかぎり、やはりなかなか手が出せるものではない。

 やはり反則だよなぁと思うが、似たようなところで、ジョン・カーペンターによってリメイクもされた古典的SFホラーの傑作『未知空間の恐怖/光る眼』(1960年)がある。

 イギリスのとある小さな村で、村人全員が同時に仮死状態に陥り、数時間後に意識を回復するという怪現象が起こる。その後、老若関わらず、妊娠出来る体である村の女性全員が(性交渉なしで)妊娠する。そして生まれて来た子供たちは、皆一様に白髪で、知能が高く、さらには感情というものを一切持ち合わせていない。明らかに人間とはかけ離れた存在なのだ。

 そしてこの奇妙な子供たちが、実は人類にとっての脅威であることが次第に分かり始め……という内容なのだが、こちらの場合は「侵略SFもの」としての体裁があるので、襲い来るのが子供たちであっても、その子供たちがほとんどエイリアン的な「異質な存在」として描かれている(つまり、普段我々が知っている、あの「子供らしい子供」ではない)。それゆえ、その子供たちを殺さざるを得ない大人側にも、ギリギリのところで免罪符的な逃げ道が成り立つのである。

 ところが、『ザ・チャイルド』の方には、そういった免罪符的な逃げ道がまるでない。襲い来る子供たちは、普段我々が知っている、あの純粋無垢で悪戯好きな「子供らしい子供」そのものなのだ。

 純粋無垢ゆえの残酷さはあるが、しかし『光る眼』の子供たちのような、非人間的な異質性(特にヴィジュアル面でのそれ)が全く描かれていないので、ケラケラ笑いながら大人を殺すというその行為自体の異常性・残忍性を見せつけられた上でも、大人側には、この小さな悪魔たちに対する殺意がなかなか芽生え得ないのである。

 舞台は真夏のスペイン。照りつける太陽の下、ある一組の若い夫婦が、風光明媚な離れ小島にやって来る。夫トムと身重の妻イヴリンは、古めかしい町並みが残るこの静かな島の美しさに心奪われるが、しかしどうも様子がおかしい。何かが違う。食堂へ行っても、スーパーへ行っても、ホテルへ行っても、大人の姿が全く見当たらないのだ。時折見かける子供たちに話を訊こうとしても、ケラケラ笑って走り去ってしまう。

 そんな中、やっと一人の老人を見つけるのだが、突然走り寄ってきた少女がその老人からステッキを奪い取り、老人を殴り殺してしまう。「何をやってるんだ!!」と少女を止めるトムだったが、少女は悪戯っぽく笑いながら走り去ってしまう。撲殺された老人の死体を前に慄然とするトム。しかしこれはほんの始まりに過ぎなかった。この後、トムとイヴリンはこの世の地獄を見ることになる。

 子供たちがなぜ大人たちを無差別に殺し始めたのかについては、本編中、はっきりとした言及はされていないが、作品の冒頭で、過去に世界各地で起こった戦争や紛争の、その最大の被害者である子供たちの悲惨な姿を映した(本物の)ニュース映像や資料映像が延々と流されるので、これまで大人たちの身勝手な争いごとに無抵抗に翻弄され続けてきた子供たちが、とうとう大人たちに報復を開始したというような意味合いも含まれるのだろう。

 とはいえ、複雑な社会派的要素はなく、あくまで「純粋無垢な子供たちが、ある日突然、殺意を持って襲ってきたら……」という不条理なシチュエーションから生まれる恐怖そのもので勝負している印象が強い。直接的なグロ描写は巧みに避けられているが(チラ見せのテクニックはなかなか巧妙)、子供が大人を殺す描写も、大人が子供を殺す描写も、へんに濁すことなくしっかりと描かれているので、不条理ホラーとしての残酷さはたっぷりと味わえる。

 子供たちの殺意がテレパシーのように伝染してゆくという設定には、正直ちょっと無理があるなぁと思わないでもないが、そこらへんは科学的なリアリティーよりも不条理な恐怖を感覚的に楽しむのが正解だろう。単に色物ではない秀逸な不条理ホラー作品として、物好きな映画ファンには是非ともお薦めしたい一本だ。

 

(2013年3月10日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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