第60回『ブロンソン』

実録 残酷刑務所バカ一代 ~塀の中の懲りないマンダム~

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『ブロンソン』
(Bronson)
2008年:イギリス
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン


 みうらじゅんが手放しで喜びそうなマンダム汁120%なタイトルに、往年の悪役レスラーみたいなヒゲ面ゴリマッチョの怪しいおっさん。DVD屋で見かけたこのかなり胡散臭いジャケが何となく気になって手に取ってみると、なんと監督はライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』(2011年)で一躍名を馳せた、デンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン。しかもヒゲ面ゴリマッチョのおっさんはトム・ハーディ。役作りに徹し過ぎて、もはや誰だか分からない。

 内容は、自らを「チャールズ・ブロンソン」と名乗る実在の服役囚、マイケル・ピーターソン(現在も服役中)の半生を描いたもの。

 子供の頃から暴力マシーンだったピーターソンは、同級生との喧嘩は言うに及ばず、教師にも殴りかかるミスター喧嘩の花道。ちょっと体格が良くなってくる頃には、警官だろうがおかまいなしにフルボッコにするまでに。そんな彼がケチな郵便局強盗で7年の刑を食らうのだが、刑務所に入って少しは懲りるのかと思いきや、「ここは俺にとっての高級ホテルだ!!」とうそぶきながら刑務官にも殴りかかるという人間凶器っぷりを見せつける。

 何かにつけ刑務官たちに喧嘩を売り、多勢に無勢でもおかまいなしに暴れまわる。どれだけ警棒でボコボコにされようが、アブナイ薬を大量投与されようが、反省する気は一切なし。「模範囚」という文字は彼の辞書にはない。おかげであちこちの刑務所(時にはハードコアな精神病棟)をたらいまわしにされ、気付けば人生の大半を塀の中で過ごしている。

 本作には、特にこれといった人間ドラマもなければ、複雑なストーリー展開もない。「俺の拳が哲学そのもの」と言わんばかりに、ただひたすらに暴れまくる自称「ブロンソン」の、(見ようによっては反骨的・反体制的と言えなくもない)ウルトラ・バイオレンスな生きざまを、ある種の「解剖学的な見世物」として描いている。

 実在の犯罪者(しかも現役の服役囚)を扱った作品ではあるが、『スカーフェイス』(1983年)のトニー・モンタナや『人斬り与太 狂犬三兄弟』(1972年)の権藤勝男と並ぶ人間凶器ピーターソンの、そのバイタリティー溢れるアナーキーぶりを描いた娯楽的な純正暴力映画だ。

 ニコラス・ウィンディング・レフン監督の作品は、現時点(2012年12月現在)では本作と『ドライヴ』しか見ていないのだが、暴力描写に関しては、かなりハードでエグいものを即物的に描くことに徹しているように思われる。しかしその即物性からもう一歩踏み込んだ独特なシュールさを作品の随所に放り込んで来るので、これまたひとクセあって面白い。

 本作は、主人公の半生を主人公自身がカメラに向かって語ってゆく、という構成をとっており、さらにそこに、道化師の化粧をした主人公が、スタンダップ・コメディアンよろしく、顔の見えない聴衆を前に自身の半生を語ってゆくシーンも挟み込まれ、それがそのままストーリー運びのテンポになっている。即物的な暴力映画でありながら、見る者を飽きさせないこの多重構造的な遊び心が、作品の質を底上げしている。

 また、『ドライヴ』を見た時も同様の印象を受けたのだが、BGMの使い方がとにかく変わっている。といっても、奇想天外というのではなく、例えば主人公の暴力大爆発で盛り上がるシーンに、豪奢で仰々しいオーケストラのBGMを持ってきたりするのである。つまり徹底してベタベタな盛り上げ方をするのだ(喧嘩シーンなんかは、ほとんどMTV的なミュージック・ビデオだ)。

 これは一歩間違えれば大ヤケド必至、「ダサイ」の一言で終わってしまいそうな、実に危ういBGMの使い方なのだが、しかしこのベタベタなBGMの使い方が、独特のシュールさを持った映像演出に驚くほどビシッとハマるのである。実際、この監督にミュージック・ビデオを作らせたらかなり上手いんじゃなかろうか(過去にそういう仕事もしていたんだろうか?)。そういう意味では、ミュージカル的なノリがある作品と言えなくもない。

 そんなレフン監督の手腕もさることながら、本作の白眉は何と言ってもやはり主演のトム・ハーディだろう。私はもともと、役を作り込み過ぎるタイプの俳優があまり好きではないのだが)、しかし本作におけるトム・ハーディの研ぎ澄まされた狂人演技には魅了された。

 実際のピーターソン本人がどれほどブッ飛んだ人物なのかは知らないが、トム・ハーディーが作り上げた本作でのピーターソンのブッ飛び具合はかなり魅力的だ。先に挙げたトニー・モンタナ、権藤勝男のキャラ的魅力にも匹敵するが、『ダークナイト』(2008年)で故ヒース・レジャーが演じたジョーカーのアナーキーな魅力にも通ずるところがある。


 「僕自身の批判的な見解も政治的なメッセージもない。社会的・文化的な意見も込めていない。ブロンソンという人物像を僕なりに表わしただけだ」(ニコラス・ウィンディング・レフン )

 

(2012年12月7日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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