第6回『コックファイター』

おしゃべり野郎はどいていな


『コックファイター』
(Cockfighter)

1974年:アメリカ
監督:モンテ・ヘルマン

 作品の出来がいまいちでも、俳優の魅力が充分に引き立っていれば、それはやっぱりイイ映画と言って差し支えないと思う。コアな映画ファンほど、作品としてのクオリティーの高さよりも、個人的な思い入れの強さを重視した作品をベストテンに選んだりするものである。

 現時点で、私の最も好きな俳優はマストロヤンニ、クラウス・キンスキー、そしてウォーレン・オーツの三人。三者三様タイプは異なるが、いずれもクールな二枚目というよりは、どちらかといえば「イイ男だけど困ったさん」的な役柄の似合う俳優である。

 そんな最も好きな俳優の一人であるウォーレン・オーツ主演の本作は、かのB級映画の帝王、ロジャー・コーマンによるプロデュースなのだが、自伝に『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』というタイトルを付けるほどのコーマンのその輝かしいキャリアに、泥を塗ったことでも有名な作品である。

 そもそも闘鶏に命をかける男が主人公というだけで見る者を選ぶわけだが、その上これといって大きな展開はなく、まさにタイトルそのまんま、ひたすら闘鶏に命をかける男の姿のみが描かれいる。派手なお色気シーンも一切なし。さらに闘鶏のシーンが地味ながらエグいときている。

 これでは客を呼び込めないと判断したコーマンは、完成したオリジナルを再編集して別タイトルで公開するも散々な結果に終わり、その門下から、マーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラ、ジョン・ミリアス、ジェームズ・キャメロン、ジョナサン・デミ、ピーター・ボグダノヴィッチ、ジャック・ニコルソン、デニス・ホッパーといった、数々の大物映画人を輩出した彼の映画人生における「呪われた作品」となった。

 とまぁ、映画史的には残り得ないような作品であるが、しかし私はこれ、そんなにひどい出来だとは思わないし、人間ドラマとしての魅力はかなりのものだと思っている。そして問題の闘鶏シーンも、たしかにチープかつ残虐ではあるが、スローモーションでじっくり見せる映像はなかなかスタイリッシュでキマっていると思う(動物愛護団体からすれば完全なクレーム対象だろうが……)。

 しかし何といっても、本作のいちばんの魅力は主演のウォーレン・オーツその人である。ウォーレン・オーツ主演作では、サム・ペキンパー監督の『ガルシアの首』(1974年)もかなり魅力的な作品ではあるが、ことウォーレン・オーツの魅力という点においては、私はこの『コックファイター』の方に軍配を上げたい。ちょいワルで飲んだくれ、だけど笑顔は無邪気な少年そのもの、といったウォーレン・オーツの魅力を最大限に引き出している。

 オーツ扮する主人公フランクは、闘鶏に命をかける生粋の闘鶏バカ一代。冒頭の勝負でさっそく負けてしまったフランクは、賭けの代償として住居用トレーラー付きの車と付き合っている女をいともあっさり手放してしまう。賭けの代償で見知らぬ男のものにならなければいけなくなった女(もちろん賭けの話など聞いていない)はフランクに憤りながら泣きつくも、フランクは自分の荷物だけを持ってさっさとその場を立ち去ってしまう。

 ところでこのフランク、どんな人間相手にも一切口をきかない変わり者で、必要最小限の身振り手振りが唯一のコミュニケーション手段なのだが、そうなるには訳があった。

 年に一度の大会前夜、ホテルの一室でライバルのジャック(ハリー・ディーン・スタントン)に向かって「今回は俺が優勝さ。お前なんか目じゃないぜ!」と息巻くフランク。「だったらこの場で証明してみな」というジャックの挑発に乗り、明日に大事な本番を控えていながら、非公式で一戦交えることになってしまう。そして結果はフランクの惨敗。

 闘鶏はどちらか一方の鶏が死ぬまでやるので(鶏の足には鋭く尖った刃物が括り付けられている)、もちろんフランクは大会欠場の憂き目を見るに至る。そんな茫然自失のフランクに対し、ジャックは余裕綽々に言い放つ。

 「お前の欠点は二つ。酒と軽口が過ぎることだ」

 ちくしょう、こうなったらもう意地でもしゃべらねぇぜ、大会のメダルを取るまでは……こう心に固く誓ったフランクは、以来二年間、人とは一切口をきかず、黙々と闘鶏に打ち込んできたというわけである。そんな闘鶏バカ一代の意地っ張り人生には幼なじみの恋人も付いて行けず、「養鶏場に嫁ぐのはイヤ」と愛想を尽かされてしまう。

 しかしフランクには闘鶏という道以外の選択肢はない。闘鶏で自分という人間を認めてもらうべく、フランクは恋人に大会のチケットを同封した手紙を送る。

 「一度でいいから闘鶏を見に来てくれないか。俺の生き様を理解してほしい」

 そして年に一度の大会へ向け一念発起したフランクは、資金調達のために実家を勝手に売却。最強の鶏「白い稲妻」とビジネス面での良き相棒オマール(リチャード・B・シュル)と共に、二年前の雪辱を晴らすべく大会へ臨むのであった。果たしてフランクは男のプライドを取り戻せるのか……。

 こんなことは結果論でしかないかもしれないが、本作はウォーレン・オーツなしではあり得ない作品である。男のプライドのために口を一切きかないという何とも意地っ張りかつ純粋なこの役柄を演じきれるのは、やはりウォーレン・オーツしかいないような気がする。あの少年のような無邪気な笑顔こそ、闘鶏バカ一代の底抜けドリーマーに最も必要なものではないだろうか。

 端から見れば下らないことこの上ない勝負に夢中になり、男の意地をかけて全身全霊を注ぎ込む。闘鶏という実に狭い世界での話ではあるが、どんなことであれ一つのことに没頭し、そして挑戦し続ける男というのはいつだって魅力的である。

 

(2010年4月2日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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