第57回『がんばれ!ベアーズ』

子供の意地、大人の意地

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『がんばれ!ベアーズ』(The Bad News Bears)
1976年:アメリカ
監督:マイケル・リッチー



 弱小チームがやっと登りつめた決勝戦。チーム内最弱の少年に出番が回ってくるが、自分のプレイに自信を持てない少年は監督に向かって訴える。

 「監督、この試合は勝ちたいから、僕を出さないでほしいんだ……」

 すると監督は静かに答える。

 「お前はベンチを温めるために生まれて来たのか?」

 小さく首を横に振る少年。

 「よし、さっさと行ってベストを尽くしてこい!!」


 負け犬チームがひょんなことから一念発起して人生の巻き返しを図る、という星の数ほど作られてきたベタベタなスポ根コメディーだが、野球チームの監督役が飲んだくれのダメオヤジで、子供主体の映画ながら割とクセやアクのある作品だ。

 かつてマイナーリーグの選手だったバターメイカー(ウォルター・マッソー)は、今や飲んだくれのダメオヤジ。常に缶ビールや小瓶のバーボンを片手に(バドワイザーとジム・ビームをチャンポンするのが好み)、プールの清掃人として口を糊する日々を送っている。

 ある日、ひょんなことから彼に「野球の仕事」が舞い込んでくる。とある市議会議員の依頼で、地元の少年野球リーグの新チーム「ベアーズ」の監督をすることになったのだ。おそらくこの市議会議員が、自分の息子のために即席の野球チームを作ったのだろう。

 バターメイカーは乗り気ではなかったものの、報酬も貰えるとあってさっそく練習に入る。ところが集まったのは野球の野の字も知らないボンクラ少年ばかり。試合はおろか、キャッチボールさえままならないようなありさまである。途方に暮れるバターメイカー。

 そして案の定、初試合で1回の表に26失点という大惨敗を喫する。

 さすがのボンクラ少年たちもこれにはひどく落ち込み、皆で決をとってやめることにしたとまで言い出す。それを聞いて静かに話し始めるバターメイカー。

 「皆の気持ちは分かる。俺は役立たずだったし、何もしてやれなかった……すまん」

 重たい空気がその場を包み込む。

 「しかし一度あきらめたら癖になる。もっと他にいい監督がいればいいんだが……まぁ、これも何かの縁だ。さぁ、みんな練習の支度をしろ」

 「なんで? おれたち皆でやめるって決めたんだぜ」

 途端、持っていた野球道具を生意気なガキに投げつけるバターメイカー。

 「わがままは許さん!! さっさと練習を始めるんだ!!」

 元マイナーリーガーの野球魂に火がついたのだ。

 「弱虫ども、さっさと位置につけ!! さもないと蹴り飛ばすぞ!!」

 こうして、弱小ベアーズの猛特訓の日々が始まるのだった。ダメダメだった少年たちも、26失点の悔しさをバネにメキメキと成長してゆく。そして強力な助っ人が二人も加わり、目標はいつしか「リーグ優勝」という最大級のものに。しかし彼らの前には、リーグ内最強の敵「ヤンキース」が立ちはだかる。果たして我らがベアーズに勝利の女神は微笑むのか!?

 あらすじとしては100万回は聞いたことがありそうな至極凡庸なものだが、本作はその凡庸なプロットを、ほどよく毒を利かせたシニカルな笑いと、普遍的な人間ドラマの妙で巧みに味付けし、ラストまで一切中だるみなく、ホップ、ステップ、ジャンプ、とテンポよく話を転がしてゆく。

 ベアーズのメンバー各々のキャラの立て方、描き分けもよく出来ており、また、軽いだけのドタバタにも、あるいは湿っぽいお涙頂戴にも偏らない「笑い」と「ドラマ」の絶妙なバランス感覚が、作品全体の質を底上げしている。

 面白いのは、「勝つ」ということに対して生まれる、大人たちと子供たちの間の溝だ。何らかの勝負をする以上、勝つことが目標なのは誰しも同じだが、しかし「勝つためには姑息な駆け引きも必要だ」という大人の打算には、どうしたって子供たちは付いて行くことが出来ない。

 弱小チームであったベアーズが順調に勝ち始めると、監督のバターメイカーは「勝つ」というよりは「負けないようにする」ことを考え始め、才能ある選手ばかりを活躍させ、野球の基本であるチームプレイを無視するような指示を出したり、あるいはまた、打てないバッターには自らデッドボールに当たりに行けという指示を出すようになる。

 当然、正々堂々と戦って勝った時の喜びをモチベーションにプレイしている子供たちの心は、バターメイカーから離れていってしまう。バターメイカーは勝ち負けにこだわるあまり、自分がいつの間にか正々堂々とプレイして野球を楽しむ心を忘れていたことに気付く(というよりは子供たちに気付かされる)。子供たちは良くも悪くも純粋(単純)で、大人たちはいつだって打算的なのだということを、本作は割合シビアなタッチで描いている。

 ベアーズの少年たちに有色人種が多く(内二人は英語も喋れないメキシコ人)、そのベアーズの発起人らしき市議会議員のオフィスには、堂々とキング牧師やケネディ大統領の写真が飾られているところを見ると、この市議会議員がリベラルを売りにしているということが分かる。

 いくつかのシーンから、この市議会議員が子供たちの意思を全く尊重していないことが分かるので、おそらくこの人種混合型のベアーズという存在も、自身のリベラルを売りにするための宣伝材料なのではないかと思えてしまう。まぁ本筋には特に関係のない話なのだが、先述した、子供たちの純粋(単純)な部分と大人たちの打算的な部分とを対比的に見る上でのポイントではある。

 もちろん、本作はそのような社会批評的な要素の強い映画ではなく、あくまで純粋な娯楽作品である。ラストには心がスカッとするような晴ればれしい展開が待っている。がしかし、先述したような「大人」対「子供」のシビアな展開もしっかりと描かれているからこそ、作品全体のバランスも良くなってくる。他のチームのユニフォームに書いてあるスポンサー名が「デニーズ」や「ピザハット」なのに対して、ベアーズの背中にあるのが「保釈金融資会社」というのは最高に笑える。こういう程よいシニカルさも、本作の大きな魅力である。

 

(2012年11月3日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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