第49回『要塞警察』

ハードボイルド籠城ムーヴィー

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『要塞警察』
(Assault on Precinct 13)
1976年:アメリカ
監督:ジョン・カーペンター


 舞台はアメリカ、ロス郊外。治安の悪化が著しいこの地区で、ある日、ストリート・ギャング数名が警官隊に射殺される事件が起こる。これは警察の武器を強奪したギャング集団「グリーン・サンダー」(ネーミング・センス最高!!)に対する警察からの宣戦布告のようなもので、警察側は「このような強硬手段もやむを得ない」というかなり強気な声明を発表する。

 白人・黒人・ヒスパニック系などの多人種混合で結成された「グリーン・サンダー」のメンバーは、この警察の仕打ちに対し、「そっちがそうならこっちはこうするまでよ!!」とサイレンサー銃で武装し街へとくり出す。標的は何の罪もない通りがかりの一般市民。そして盲滅法の無差別大量虐殺が始まる!! ……のかと思いきや、一台の車に乗り込んだ幹部メンバー四名が、意外と慎重に獲物を物色し始める。

 「殺すならやっぱり老人か?」

 「いや、まだ甘いな」

 「じゃあ、あのホームレスは?」

 「いや、まだまだ甘いな」

 と、路上に停車する移動アイスクリーム屋が目にとまる。アイス屋のオヤジは車内に隠し持っていた銃を取り出す間もなく車から引きずり降ろされる。

 「い、命だけは助けてくれ!!」

 するとそこへ、注文と違うアイスを渡されたことに気付いた少女が戻ってくる。

 「おじさん、わたしが注文したのはバニラじゃな……」

 ズビュンッ!!

 ギャングの一人が何の躊躇もなくサイレンサー銃で少女を射殺。少女はアイスを持ったまま血まみれでその場に倒れ込む。

 ここ、普通ならジャンプ・カットで処理する場面だが(つまり、ギャングが銃を撃つカットの次には、もうすでに倒れている少女のカットをつなぐのが相場だと思うが)、しかしさすがは我らがカーペンター、少女が被弾して血糊がビシャッと飛び散るカットも、しっかり真正面から見せる。暴力の悲惨さを訴えるようなタイプの戦争映画ならまだしも、娯楽性の強い犯罪アクション映画で、このような直接的な子供銃殺シーンを差し込んでくるあたりはさすがとしか言いようがない。

 ギャングたちは無感動にアイス屋も射殺し、その場を走り去る。しばらくして、異変に気付いた少女の父親が駆けつけるが、時すでに遅し。血まみれのわが子を抱きしめ、苦悶と怒りを噛み殺すようにむせび泣く父親。すると虫の息のアイス屋が「車の中に銃がある」とだけ言い残して絶命する。父親は無我夢中で銃を手に取り、走り去るギャングの車を追跡。そして娘を殺したギャング一人をどうにか射殺するが、今度はこの父親がギャングたちに追われる羽目になる。

 父親が命辛々逃げ込んだのは、町の警察署。恐怖のあまり過呼吸になって状況を上手く説明できない父親。

 「お、お、お、追われ……奴らに、追われて……」

 とにかく警察に保護はされたものの、しかし悪いことは重なるもので、何とこの警察署はこの日が移転の最終段階で、すでに署員のほとんどは新しい警察署へ移った後だったのである。残っているのは雑務に追われる署員数名だけ。明日の朝には完全に引き払う予定なのだ。

 警部補に昇進したばかりの若い黒人警官ビショップ(オースティン・ストーカー)が、今夜一晩、臨時の署長として泊り込んでおり、男手は彼ともう一人の警官のみ。あとは女性署員が二名ほど。

 するとそこへ、護送中の囚人三名を乗せた護送車が乗りつける。どうやら囚人の一人が重病らしく、この署で一旦休ませて、医者に見せたいということらしい。最初は断ろうとするビショップだったが、留置所も空いているので、囚人たちを休ませることを承諾する。

 しかしこの囚人の中には、泣く子も黙る天下の大罪人、ナポレオン・ウィルソン(ダーウィン・ジョストン)がまじっていた。どんな罪を犯したのかは本編中では明示されないが、どうやらスネーク・プリスケンばりの極悪人らしい。

 この妙な状況下で、夜は刻々と更けてゆく。

 しばらくすると、まず署の電話が通じなくなる。そして急に電気が消える。

 「あれ、停電か?」

 「でも、街灯はちゃんと点いてるわよ」

 「俺が様子を見てこよう」

 警官の一人が外へ出る。

 ズビュンッ!! ズビュンッ!!

 血まみれで崩れ落ちる警官。

 「一体どうしたんだ!?」

 窓の外を見ると、無数の影がこちらへ向かって襲撃してくる。ギャング団が警察署へ総攻撃を仕掛けてきたのだ。サイレンサー銃を撃ちまくり、署の建物を蜂の巣にするギャングたち。護送車の運転手や重病だった囚人も侵入してきたギャングに撃ち殺され、女性署員の一人も流れ弾に当たって死亡する。

 生き残ったのはビショップ、女性署員のリー(ローリー・ジマー)、少女の父親、そしてナポレオンとウェルズ(トニー・バートン)の囚人二人。彼らはどうにかギャングたちの第一波を撃退し、バリケードを作ったが、敵の数はどんどん増え続けている。こちら側の銃器・弾薬はわずかしかない。少女の父親は放心状態のままうずくまって何も出来ない。

 激しい銃撃戦ではあったが、敵はサイレンサー銃なので、近隣の住民による通報も期待出来ない。しかもギャングたちは路上に転がった仲間の死体を手早く片付けてしまったので、往来は何事もなかったかのような静けさである。敵は確実に署内にいる者を皆殺しにしようとしているのだ。

 果たしてビショップたちは、この最悪のサバイバルを生き抜くことができるのか!?

 『リオ・ブラボー』(1959年)へのオマージュだという本作は、まさに西部劇タッチの乾いた籠城戦を描いているわけだが、多勢を向こうに回して戦う主人公たちのキャラクターが実に魅力的だ。

 屈託ない皮肉屋のビショップはよく喋るので、ある種の狂言回し的な役割も担っており、観客が最も感情移入しやすい人物であると言える。コーヒーを入れてもらう際に「ブラック?」と聞かれて、笑顔で「生まれつきね」なんて答えてしまうあたり、なかなか憎めない愛嬌があっていい。

 対して女性署員のリーは無駄口を一切叩かないクール・ビューティー。片腕を撃たれながらも、リボルバー片手にギャングどもを撃ち殺す姿には惚れぼれしてしまう。

 いかつい黒人のウェルズは見た目通りの荒っぽさで、リーに対してすら食ってかかる短気っぷりを見せるが、最後の最後はきっちり「イイ奴」な仕事をして名誉挽回。ビショップやウェルズのような「イイ奴」な黒人キャラの使い方は、どこかジョージ・A・ロメロに通ずるところがある。

 最後は本作における真打と言っても過言ではないナポレオン・ウィルソン。天下の大罪人にしてすこぶるクールでクレバーなニクイ奴。おそらくスネーク・プリスケンの原型ではないかと思われるが、そのクールさが同じくクールな女性署員リーと共鳴するのか、二人してバッチリ視線を交わすシーンが何ヶ所かある。

 「タバコあるか?」が口癖のナポレオンに対して、本作で唯一彼にタバコを渡し、火まで点けてやるのはこのリーだけ。他の男たちは皆タバコを吸わないという設定も何だか妙に面白い。

 全体的にかなりシンプルかつ地味な作りだが、作品そのものから匂い立つクールな雰囲気と、各登場人物のキャラ立ちの良さ、そして「泣き」はないがジィィ~ンと胸に沁みるハードボイルドな男気要素……これらが絶妙な塩梅で溶け合って、実に渋~い逸品に仕上がっている。

 映画的なカタルシスが全くないというわけでもないが、しかし基本的には燻し銀の一本調子。密室劇なので絵面もあまり変わらない。この手の派手さのない演出が苦手な人には退屈な作品かもしれないが、ストイックで燻し銀な犯罪映画が好きな人には激オススメ。

 

(2012年8月13日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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