第42回『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』

つけるぜ、男の落とし前!!


『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』
(Thief)
1981年:アメリカ
監督:マイケル・マン


 『ヒート』(1995年)などで知られるマイケル・マン監督の劇場長編映画デビュー作。派手さはないがビシッと引き締まったスタイリッシュな映像が何ともクールで、それでいて演歌的と言えるほどの泥臭さで一人のアウトローの生きざまを描いた、大傑作ハードボイルドである。

 ジェームズ・カーン演じる主人公フランクは、シカゴで暮らす中古車ディーラー。過去にはケチな盗みが元で、ハタチそこそこでムショ送りになった。そしてすぐ娑婆に戻るはずが、ムショ内のトラブルで十一年も臭い飯を食う羽目に。そんな彼も今じゃ立派な堅気として中古車販売に精を出している……と思いきや、世間はそんなに甘くはない。

 裏街道を歩いて来た男が、お天道様の下で堅気として生きていくのは難しい。フランクにはやはり夜の顔があった。プロの金庫破りだ。今も獄中にいる大師匠の教えを守り、信頼出来る数少ない仲間と共に、月に二、三度は夜の大仕事にかかっている。腕前は確かで狙った獲物は逃さない。

 しかしフランクはそんなアウトロー生活に疲れを覚え、そろそろ足を洗おうと考えていた。足しげく店に通って口説いたウェイトレスの女と共に、これからはごくごく普通の落ち着いた生活を送りたいと望むフランクだったが、世間というものはやはりそう甘くはなく、彼の足を容易にアウトローの道から逃れさせてはくれない。

 ある日、フランクの腕前を買った裏組織のボスが、夜の大仕事を依頼してくる。人の下で働くのは御免だと初めは依頼を断るが、アウトロー生活からきっぱり足を洗うためにも、多額の報酬が入るこの「最後の大仕事」を引き受けるフランク。

 ところで、この手の「最後の大仕事」を成功させ、その後は悠々自適に暮らしたアウトローというものを私は見たことがないが(少なくとも映画の世界では)、案の定、フランクもこのアウトローの避けられぬ運命に足をすくわれることになる。

 フランクにとっての「最後の大仕事」は大銀行の金庫破りだ。特注の道具をあつらえ、犬どもの尾行も撒き、準備万端、全ては整った。後はいつもの仲間と共に淡々と仕事に取り掛かるだけだ。そして実に渋い初志貫徹な仕事っぷりで、「最後の大仕事」も問題なく片付ける。これでやっと夢の堅気生活が送れると思ったフランクだったが、彼はすでにアウトローとしての運命に足をすくわれていた。依頼主が約束の金を払わないばかりか、これからも自分のために働けと言い出したのだ。これにはフランクも堪忍袋の緒が切れる。

 「いいか、俺が稼いだ分はきっちり払え。貴様がどんなお偉いボスだか知らんが、あんまりナメた真似をしてると容赦しないからな」

 こうして、意地でも自分の報酬を払わせようとするフランクだったが、今回はどうにも相手が悪過ぎた。仲間の一人が見せしめに惨殺され、フランク自身も手酷くリンチされたあげく、依頼主から自身の弱さを痛感させられる。

 「以前は恐いものなしの一匹狼だったかもしれんが、今じゃテメェはただのクソだ。大事な家も仕事もカミさんもガキもある。人並みの生活なんか夢見ていやがる。守るべきものが出来た時点で、テメェはこの俺に首根っこ掴まれてんだよ。キンタマ握られてんだ。後はもうボロ雑巾になるまで俺の下でおとなしく働くしかないんだよ」

 これでアウトローの心に火が点いた。フランクは妻子と別れ(というか追い出し)、夢のマイホームを爆破し、売り物の中古車に火を放つ。こうして守るべきものは何一つなくなった。フランクはまた一匹狼のアウトローに戻ったのだ。そして拳銃一丁さらしに巻いて、裏組織のボスが暮らす郊外の邸宅へ、男一匹、「死んで貰います」な殴り込みをかけるのだった……。

 リアリティー重視のクールな犯罪劇でありながら、同時に、どこまでも泥臭い時代遅れのアウトローが自身の矜持を貫く姿を描く任侠ハードボイルドでもある。

 本格的なコンバット・シューティングを採り入れた、リアリティー重視のガン・アクションのかっこよさもさることながら、特に金庫破りのシーンが印象的であった。私のイメージではもう少し繊細な作業だと思っていたのだが、使う道具は電ノコにドリルに特注の巨大バーナー。事前に防犯装置の回線さえ断ち切ってしまえば、後は金庫の分厚い扉を「ブッタ切る」「焼き切る」「ブチ開ける」といった力技を行使するのみなのだ。

 この金庫破りの作業を淡々とこなしてゆくシーンにおけるプロフェッショナルな雰囲気には、『ジャガーノート』(1974年)の爆弾処理シーンに匹敵するかっこよさがある。

 この燻し銀な任侠ハードボイルド映画にタンジェリン・ドリームのニューウェーヴ過ぎるサウンドは正直どうかと思ったが、ラストの殴り込みシーンで、急に泣きの入ったド演歌ギターに一変するのにはシビレる。志向するリアリティーは違えど、そのハートの奥底にはジョン・ウーと同じ「熱さ」をマイケル・マンは持っている。彼もまた整合以上に劇的なかっこよさを選ぶ男なのだ。

 

(2012年6月7日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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