第39回『アンストッパブル』

暴走列車 vs 男の本分


『アンストッパブル』
(Unstoppable)
2010年:アメリカ
監督:トニー・スコット


 いわゆる「職人かたぎ」と言われるようなタイプの人たちに憧れる。四の五の言わずに、淡々と自身の本分を全うするようなタイプの人たちである。恥ずかしながら、私自身はそのような徳の高い気質は露ほども持ち合わせてはいないのだが、しかしどういうわけか、燻し銀な職人気質というものに対する憧憬の念を、いつの間にか抱くようになった。

 普段は人の陰に立って目立たないが、しかし世の大半の物事は、こういった裏方の職人たちがいなければ成り立たない。これは映画の世界とて同じことで、スター俳優や大物監督の陰に隠れて活躍する裏方の職人たちなくしては、世に名作・傑作と謳われるような作品は誕生し得ない。

 で、今回は『アンストッパブル』。

 ここ最近、当サイトでくどいほど「今日日は燻し銀な男気映画というものを全然見かけない、けしからん!!」みたいな戯れ言をワーワー喚いているが、映画好きの友人に薦められて見た本作にはシビレさせられた。こいつはまさに燻し銀の男気映画だ。

 作品そのものも実に良く出来ているのだが、それより何より主演のデンゼル・ワシントンが最高に渋いイイ味を出している。私は本作で初めてこの俳優が好きになった。

 『トレーニング・デイ』(2001年)や『アメリカン・ギャングスター』(2007年)では、ずいぶん思い切ったイメチェンを図り、冷酷非道なヒール役に挑戦しているが、しかしそれを見ても、正直「まだ物足りない」という印象は拭い切れなかった。

 だもんで、やっぱりこの俳優は根っから好きになれないのかもしれないなぁ……なんて思いつつ、三度目の正直とばかりに見てみたのが本作というわけである。

 話の筋は至ってシンプル。毒性の強い薬品を積載した39両編成、全長800メートルの超メガトン級の貨物列車777号が、機関士のふざけ切った凡ミスにより、無人のまま大暴走を始めてしまう。しかもその行く手には住宅密集地が……この列車が脱線、炎上すれば大惨事は免れない。

 当局はあらゆる手段を講じて、このメガトン級の暴走列車を止めようと試みるが、さながら「走る要塞」と化した777号を前に作戦は尽く失敗し、ついには作戦に参加したベテラン機関士一名が命を落としてしまう。

 この絶体絶命の状況の中、偶然現場近くに居合わせたベテラン機関士フランク(デンゼル・ワシントン)と新米のウィル(クリス・パイン)の二人が、果敢にも暴走列車を止めるべく立ち上がる。残り時間はあとわずか……果たして二人は大惨事を食い止めることが出来るのか!?

 実話を元にしているとはいえ、ストーリー自体は過去に何百回、何千回とくり返されてきたような凡庸なものである。

 がしかし、この何ら新鮮味のない代物を、ハリウッドきっての職人ヒットメイカー、トニー・スコットは、キレのあるカメラ・ワークと無駄のないスリリングなストーリー展開、そして実にタイトに引き締まった人間ドラマでもって、娯楽映画としての最良の状態に仕上げてみせた。

 よくぞまぁ、ここまでシンプルな題材で、良質な娯楽作品に仕上げられたものである。

 トニー・スコットの作品はあまりしっかりとは見ていないが、個人的には『トゥルー・ロマンス』(1993年)がベストである。非常にクセのあるタランティーノの脚本を、これまた見事に大衆的な娯楽作品に仕上げている。しかもちゃんとタランティーノ独特の「味」な部分は損なわないよう配慮されているのだから恐れ入る。

 映画監督としてのこの絶妙なバランスの良さは、常に作家性と娯楽性の狭間で揺れ動いている兄、リドリー・スコットには決して真似のできない芸当だろう。

 『アンストッパブル』の素晴らしさについては色々と要因があるのだが、特にCGを極力抑えたアクション演出がまず良かったのだと思う。

 昨今の「手に汗握れない」CG映像の氾濫ぶりには正直ウンザリしていたので、極力CGを使わずに撮られたアクション・シーンを見ると、本当に嬉しくなってくる。CGも使い方ひとつで作品の質を向上させるものになり得るのは間違いないが、しかし映画の(特にアクションの)本当の醍醐味は、やはりCGでは表現し切れないと私は思っている。

 そしてこの映画の素晴らしさの最大の要因は、やはり主演のデンゼル・ワシントンではなかろうか。彼が演じる勤続28年の大ベテラン機関士のかっこよさは、何とも筆舌に尽くしがたい燻し銀の渋みというやつを持っている。

 新米にはとことん手厳しく、若造の無用な言い訳は決して許さない頑固オヤジだが、その仕事ぶりに関してはやはり脱帽せざるを得ないものがあり、いざという時にもやっぱり頼れる存在なのである。そしてカミさんに出て行かれ、かなりヘコんでいる新米に対するさり気ないメンタル・ケアも欠かさない。まさに理想の上司とはこういう人のことを言うのだろう。

 そんな彼を「英雄」として描くのではなく、あくまで仕事一筋の「職人」として描いているところが素晴らしい。そしてその「職人」の鑑と言えるような男を、抑えた演技で見事に演じきったデンゼル・ワシントンは最高だ。

 また、新米機関士役のクリス・パインもなかなか味わいのあるバディぶりを見せつけたと思うし、コントロール・ルームで指揮を執るコニー(ロザリオ・ドーソン)も最高にかっこよかった。他にも、最後の最後でかなりステキな活躍を見せる溶接工主任のネッド(リュー・テンプル)や、事件の現場に偶然居合わせ、その鉄道に関する知識の豊富さで主人公たちを助ける連邦鉄道局の職員スコット(ケヴィン・コリガン)などといった、ナイスなサブキャラの豊富さも、本作の質を向上させていると言えるだろう。

 嫉妬心から愚行に走り、それが原因でカミさんに逃げられてしまったウィル。そして仕事熱心なあまり、娘の誕生日をすっぽかし、その愛娘の機嫌を心底損なわせてしまったダメお父さんのフランク。この二人が、機関士としての本分を全うしたことによって、愛する家族の信頼を再び取り戻すというラストも実にグッとくる。特に仕事で失った家族の信頼を仕事で取り戻す、というフランクの描き方は、人間ドラマにおける「職人」という人種の扱い方の好例であると言えよう。

 

(2012年5月4日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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