第271回『あのコはだぁれ?』

狂蝶夢譚 ~ある少女の狂った夢~

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『あのコはだぁれ?』
2024年:日本
監督:清水 崇


 同じ清水崇監督による『ミンナのウタ』(2023年)から地続きの続編で、前作から同じキャストも幾人か続投している。高谷さな(穂紫朋子)という一人の少女を元凶とした呪いの連鎖に主要キャラたちが巻き込まれていく、というストーリーの主軸もほぼそのまま引き継がれており、高谷さなの秘密を解き明かす流れだった前作から、今作では高谷一家の秘密(特にさなの弟の秘密)まで掘り下げる形となっている。本作単体で鑑賞出来ないこともないが、あくまで地続きの続編なので、『ミンナのウタ』を見ていないと少し分かりづらい部分もある。

 まず前作『ミンナのウタ』だが、こちらは実在の男性アイドル・グループを当人役でそのまま主演させるホラー作品という企画(つまりこのグループのファン層をそのまま映画の集客に取り込む狙い)ゆえか、見ていてどうも意図的に恐怖演出をマイルドにしている印象が強く、話の内容はかなり面白いし、劇中で展開される惨事もけっこうエグさは強いのだが、その演出においてどうも煮え切らぬ(振り切らぬ)パンチの弱さが最後まであって、正直何とも物足りなく感じた(ホラーが苦手な客層もどうにか取り込めるようなバランスに調整されている印象を受けた)。

 もっと本格的なホラー作品としてショッキングな恐怖演出が為されていれば、これはもしかしたらけっこうな傑作になったのではないか? という歯がゆさが否めないが、先述したとおり、あくまで主演のアイドル・グループのファン層狙いの企画であろうから致し方ないのだろう。そしてその続編『あのコはだぁれ?』だが、こちらは恐怖演出やエグさが前作とは比べものにならないくらいパンプアップされており、前作に感じていた不満を見事に解消してくれる結果となった。

 ある中学校の夏休みの補習授業を臨時で受け持つことになった女教師・君島(渋谷凪咲
)は、その学校で32年前に起きたものと全く同じ形の女生徒の転落事故に遭遇する。このショッキングな出来事をきっかけに、君島、君島の恋人(冒頭で交通事故に遭って昏睡状態に陥っている)、補習授業を受けた生徒たち、この学校の校長(前作にも出てくる)といった主要キャラたちが、高谷さなという一人の少女を元凶とする呪いと怪異に巻き込まれてゆくこととなる。

 前作から直線的に繋がる筋立てだが、今作ではよりシンプルに切り詰めた学園ものホラーとして、明確なジャンル映画の輪郭が浮き彫りになっており、そのシンプルさと明確さの中で、前作からの設定をさらに深く掘り下げ、特に高谷家の過去と現在、そして高谷さなの弟の秘密を紐解いてゆく流れが非常に面白い(伏線の張り方やミスリードへの誘い方も芸が細かく巧妙だ)。

 また、今作はカメラワークと編集も実に素晴らしく、メインの舞台となる学校の校舎や高谷家のマイホーム、あるいは何度か登場するトンネル状の遊歩道やゲームセンターなど、そこにある段差や奥行きを活かした美しい構図や人物たちの移動の面白さも際立っている(背景の通行人の足取りまで丁寧に演出されている)。人物の動きが少ない会話シーンでは、ピントの送り方で画に動きを持たせて停滞感を避けていたり、隅々まで丁寧に作り込まれているのがよく分かる。

 全体的に派手さはないものの、暗闇に頼らぬ(昼間や照明の明るい空間での)恐怖演出や怪異の見せ方も抜群で、ジワジワっと恐がらせる静謐な恐怖演出から、ここぞというタイミングでバシッとキメるショック描写(ジャンプスケアにはほとんど頼っていない)まで、メリハリの利いた良質なホラー映画としての満足度は非常に高い。冒頭での韓国映画ばりの交通事故シーンやクレーンゲームのくだり、そしてクリーチャー化した老婆のシーンなど、ケレンの方向に振った恐怖演出も面白く、終始、「静」と「動」の演出のバランス配分が巧い(やはり総じて丁寧という印象だ)。

 序盤で書籍のタイトルとしてさり気なく映される「胡蝶夢譚(胡蝶の夢)」の要素も印象的で、本作の登場人物たちはもしかしたら皆最初から高谷さなの「狂った夢」の中に引きずり込まれた状態で弄ばれていただけではないか? とすら思えてくる。それは特に、明るい顛末のミスリードへの誘導を経てスパーンと突き放す絶望的ラストにも直結しており、また、序盤からずっとソフトフォーカスじみた画作りが多用されていることからも、どこか白昼夢的な雰囲気が本作には終始漂っている。そういう意味で、高谷さなという怪物は、『エルム街の悪夢』(1984年)のフレディを思わせる。それはこの世に怨恨を残した怨霊や悪霊というよりも、生まれついてのサイコパス的狂人が、肉体を脱ぎ捨て怪異と化し、誰にも手が付けられなくなった状態、とでも言えばよいだろうか。

 この高谷さなというどこまでもクールで狂った化け物は、富江や貞子に連なる新たな和製ホラー・アイコンとしての魅力的強度を十二分に備えている。その要因は何より、高谷さなを演じた穂紫朋子の顔と雰囲気の素晴らしさに尽きる。どことなく『オーディション』(1999年)での椎名英姫を思わせる顔付きと雰囲気で、クールで狂った美しい化け物としての人間離れした妖艶さが匂い立つ。こういう抜群の人材を得た時点で、既にそのホラー作品は半分は成功したようなものだろう。

 本作は9割9分9厘、私の中では誉める要素しかない純然たる傑作ホラー映画なのだが、本当に唯一、玉に瑕な欠点と思うのは、あの見事にスパッと切れ味の良い幕切れを見せておいてからの、エンドロール中に挿し込まれるエピローグのような小ネタの部分で、あれさえなければ何ら欠点のない完璧な作品とすら思える。とはいえ、その欠点を補って余りある傑作であることは確かだ。

 

(2025年10月11日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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