第270回『プロフェッショナル』(2023年)

ペキンパーの匂いを帯びた、老境ハードボイルドの傑作

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『プロフェッショナル』
(In the Land of Saints and Sinners

2023年:アイルランド
監督:ロバート・ロレンツ


 舞台は1970年代の北アイルランド。片田舎で慎ましく暮らす主人公フィンバー(リーアム・ニーソン)は、早くに妻を亡くした読書好きの初老の男で、町の人々からも好かれる好人物だ。しかし彼は長年に渡り、この土地で密かに殺し屋稼業に従事してきたという裏の顔を持っていた。

 彼の雇い主はロバート(コルム・ミーニー)という男で、一緒に仕事をするケビン(ジャック・グリーソン)という若者の殺し屋もいる。老いても腕は確かなフィンバーであったが、そんな彼もとうとう殺し屋稼業からの引退を決意した。この殺伐とした世界から足を洗い、庭造りをしながら穏やかな余生を過ごしたいと考えてのことだ。しかしそんな中で、彼は知り合いの少女を虐待していた余所者の男を私情から始末してしまう。

 フィンバーが殺した男が、首都ベルファストで爆破テロを起こした後、この田舎町に潜伏していたIRAの過激派グループの女リーダー、デラン(ケリー・コンドン)の弟であったことから、フィンバーと過激派グループの血生臭い死闘へと雪崩れ込んでゆく。

 話の筋としては非常にシンプルで、派手さは一切なく、作品の規模としてもかなり小さい。端的に言ってしまえば、「初老の殺し屋と過激派グループ数人の殺し合い」というだけの話なのだが、これがどこまでも渋い燻し銀の老境ハードボイルド作品として、実に良く出来ている。

 おそらく小規模な西部劇を意識したであろう作りで、派手さはないものの、殺しのシーンはドライで殺伐としており、その血生臭い暴力性と人情ドラマのバランスの取り方が抜群に巧い。殺し屋やテロリストたちの暴力の世界と、慎ましやかな人情ドラマとのバランスの取り方は、原題にある「聖者」と「罪人」がそれぞれ別に存在しているわけではなく、一人の人間の中に同居しているものだ、というような解釈にも繋がってくるように思える。

 殺し屋たちやその雇い主も、そして爆破テロで容赦なく人命を奪う過激派メンバーたちも、暴力の世界に生きる犯罪者には違いないが、しかしそんな彼らにもそれぞれに愛する家族や故郷や積み重ねてきた人生がある、ということを丁寧に描いている。

 この血生臭い暴力の世界と浪花節的な人情ドラマとの兼ね合い、また、西部劇的な見立ての中で時代遅れな男の老境ハードボイルドを描いている点、そして終盤での若手の殺し屋の男気乱入シーンや、主人公とその友人の警官との男臭い友情の描き方など、本作にはどことなくサム・ペキンパー作品の世界観を思わせる箇所が少なくない。これが1970年代であったら、この内容ならば実際にペキンパーが監督しそうな作品だと言っても過言ではないだろう。

 細かなところでは、本作はとにかく無駄なカットがなく、所々の端折り方(いちいちそこは説明的に長々と見せる必要はないな、と思うようなシーンや演出の省略の仕方)も非常に巧い。全体的にかなり地味な作品ながら、そこに冗長さを感じさせないのは、この無駄のない撮り方や編集によるところが大きいのではないかと思える。こういう小ぢんまりした作品ほど、そのような切り詰め方・省略の仕方の巧さが必要不可欠となってくるだろう。本作はその点、完璧と言えるほどだ。

 娯楽的アクション映画として、この手の派手さのない作品は、なかなか企画的にも通りづらいのではないか? と素人ながらに手前勝手に推測するが、今の時代にも本作のような、的確かつ丁寧に作り込まれた燻し銀のハードボイルド作品が存在することに(そういう映画作りの巧い作り手がいることに)、一介のハードボイルド映画好きとして素直に喜びたい。

 

(2025年9月24日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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