第27回『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』

モダン・ゾンビ映画の原点

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『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』
(Night of the Living Dead)
1968年:アメリカ
監督:ジョージ・A・ロメロ


 今の時代、「ゾンビ」と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、腐乱した体で両手を前に突き出し、生きている人間の新鮮な肉を求めてヨロヨロとさまよい歩くあの姿だろう。後にハリウッドでも映画化された日本のTVゲーム『バイオ・ハザード』(1996年)によって、90年代からこっちの世代にもかなり一般的なイメージとして広まったのではなかろうか。そんな現代版「ゾンビ」のパブリック・イメージを作り上げたのが、ジョージ・A・ロメロだ。

 謎のウィルスによって墓から蘇った死者たちが、生きている人間の新鮮な肉を求めてヨロヨロと襲いかかってくる。そしてその生ける屍に噛まれた人間は感染して同じ生ける屍と化し、次から次へとその数は膨れ上がる。人類は何の手だてもないまま、滅亡へと向かって歩を進めてゆく……。もともとはヴードゥー教がらみの土俗的な存在であった「ゾンビ」を、食人嗜好のみでさまよう「生ける屍」(リヴィング・デッド)としてモダンに再構築したロメロの偉業は、それだけでノーベル賞ものだ。このモダン・ゾンビの「基本設定」は、その後のゾンビ映画における完全なる雛型になった。

 殺人鬼でも幽霊でも宇宙人でも悪魔でもなく、つい昨日まで(へたをするとついさっきまで)ごくごく普通のどこにでもいる「お隣さん」だった人間が、自分を食べるために夢遊病者のごとく襲いかかってくるのだから、これはかなり恐ろしい。「やつら」に動機なんてものはまるでない。ただ意味もなく食人嗜好のみで襲ってくるのだ。老いも若きも男も女も、肌の色も関係ない。相手が肉親だろうが恋人だろうが、感情なんてものは一切抜きで襲いかかる。

 そんな「この世の地獄」で生き残る道はただ一つ。迫り来るゾンビを殺し(脳ミソを破壊すれば完全に死ぬ)、ゾンビのいないところへ逃げ続けるだけ。基本的にゾンビで溢れ返った世界に救いはない。生き残ったところで、その先に明るい未来が待っているわけではないのだ。

 ゾンビたちが無意味な食人嗜好のみでさまよい歩く一方で、生き残った人間たちもまた無意味な生存本能のみでさまよい歩く。『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005年)では、さまよえるゾンビたちを見た主人公が、「やつらも自分たちの死に場所を探している。俺たちと同じだ」と言うシーンがあるが、これはロメロ流のヒューマニズムをストレートに言い表している。ゾンビも人間も同じようなもの。いや、それどころか、人間たちは生き残るために互いに騙し合い、傷つけ合い、殺し合う。死んだ人間よりも生きている人間の方がよっぽど残酷なことをやってのける。ロメロのゾンビ映画で主として描かれるのは、いつも一貫して、この「生きている人間たちの残酷さ」だ。

 本作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は、そんなロメロ版ゾンビ映画の第一号である。後の代表作『ゾンビ』(1978年)や『死霊のえじき』(1985年)に比べれば、いかにも「低予算」といった趣のモノクロ作品だが、しかしこれがデビュー作とは思えないほど面白い。

 父親の墓参りのために、故郷の片田舎ヘ帰って来た若い兄妹、ジョージとバーバラ。父の墓参りも早々に済ませ、車に戻ろうとする兄妹に、夢遊病者のような男が突然襲いかかる。兄ジョージは男との格闘の末に押し倒され、墓石に頭を打ちつけて死んでしまう。妹バーバラは死に物狂いで走ってその場から逃げ、野原にポツンと建つ一軒家にかけ込む。

 人気のない家の中を不安げにさまようバーバラ。恐る恐る二階へ上がると、そこには無惨な家主の死体が!! パニック状態に陥ったバーバラは家の外に飛び出してしまう。するとそこに、黒人青年ベンが逃げ込んで来る。ベンはバーバラを家の中に押し戻し、家中の扉や窓に木の板を打ち付けて塞いでしまう。ベンの話では、墓場でバーバラを襲ったあの「夢遊病者」と同じような人間たちが、そこらじゅうをうろつきまわっているという。

 しばらくすると、この二人より先に逃げ込んでいた若いカップル(トムとジュディ)と、重傷の娘をかかえた中年夫婦(クーパー夫妻)が地下室から現れる。トムとジュディ、そしてクーパーの妻は協力的だが、夫のクーパーは小心者のくせに傲慢なエゴイストで、出会ってすぐにベンと言い争いになり、二人の間には終始険悪なムードがつきまとう。

 テレビやラジオでは、各地で死者たちが蘇り、人々を襲ってはその肉を貪っているという信じがたい事件の様子が報道されている。このまま籠城していても埒が明かないと踏んだ一行は、テレビで放送されていた避難所へ逃げ出そうとするが、すでに家の周りは無数のゾンビたちに囲まれている。武器らしい武器はベンが見つけたライフル一丁のみ。

 果たして彼らはこの最悪の状況を乗り切ることができるのか……。

 恐怖演出はやや古風な感じがするが、役者たちの手堅い演技とスピード感あるカメラワーク、そして話を90分程度の長さにまとめた実に無駄のない編集が、作品全体に引き締まった緊張感を持たせており、また、随所に挿入されるニュース映像もなかなかリアルな仕上がりで、それが作品を一層引き締まったものにしている。後に続くモダン・ゾンビ映画の原点として相応しい傑作だ。

 

(2011年9月30日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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