第268回『勝手にしやがれ!! 成金計画』

ヘロインパニック大激突!!

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『勝手にしやがれ!! 成金計画』
1996年:日本
監督:黒沢 清


 少しヤバい仕事もやる何でも屋のチンピラ、雄次(哀川翔)と耕作(前田耕陽)のコンビが、毎回とんでもない騒動に巻き込まれてドタバタと駆けずり回るハードボイルド・コメディー作品で、以下のタイトル全6作に渡る短期量産シリーズのVシネマである。

  ①『勝手にしやがれ!! 強奪計画』(1995年)
  ②『勝手にしやがれ!! 脱出計画』(1995年)
  ③『勝手にしやがれ!! 黄金計画』(1996年)
  ④『勝手にしやがれ!! 逆転計画』(1996年)
  ⑤『勝手にしやがれ!! 成金計画』(1996年)
  ⑥『勝手にしやがれ!! 英雄計画』(1996年)

 この直後、監督・黒沢清 × 主演・哀川翔のコンビで、以下のハードボイルド復讐劇シリーズが4本撮られることになる。

  ①『復讐/運命の訪問者』(1997年)
  ②『復讐/消えない傷痕』(1997年)
  ③『蛇の道』(1998年)
  ④『蜘蛛の瞳』(1998年)

 この多産の時期に代表作である『CURE』(1997年)も撮られているので、黒沢清監督のキャリアの中でも、かなり重要な位置を占める時期であることは間違いないだろう。

 『勝手にしやがれ!!』シリーズは、毎回、軽妙なドタバタ劇のスラップスティック・コメディー及びスクリューボール・コメディーの路線を徹底している(最終作の『英雄計画』だけは、シリアスな社会派 × ニューシネマ的ラストで、本シリーズの中ではかなりの異色作である)。

 何かと難解で陰惨な作風のイメージが強い黒沢清作品だが、ここまでスコーンと明るい笑いを徹底しているシリーズも撮っていることには、正直かなり驚いた。

 おそらく本作は、TVドラマ『傷だらけの天使』(1974年~75年)を90年代風に換骨奪胎したものではないかと思われる。少しヤバい仕事もやる何でも屋の主人公2人は、そのまま『傷だらけの天使』で萩原健一と水谷豊が演じたコンビを思わせるし、またこの2人に仕事を斡旋する洞口依子と大杉漣のコンビも、やはり『傷だらけの天使』で岸田今日子と岸田森が演じたコンビに似ている。

 『勝手にしやがれ!!』シリーズの基本的な流れとしては、毎回、ゲスト・ヒロインのようなキャラクターがおり(男性キャラクターの場合もあるが)、このヒロインが持ち込む大きなトラブルに主人公2人が巻き込まれてしまう……というもの。

 赤の他人が持ち込んだ厄介事ながら、最終的にはお人好しな主人公2人が人助けに奔走する羽目に陥る、典型的なハードボイルド人情コメディーなのだが、これがめっぽう面白い。かっこいいような悪いようなおとぼけコンビが、毎回笑わせ、時にグッとくるような渋さも見せる。

 シリーズ全6作それぞれに面白いが、個人的にいちばん気に入ったのは5作目の『成金計画』。ゲスト・ヒロインは毎回、どの作品でも劇中でいちばん頭のおかしいキャラクター(トラブルメイカー)として描かれるのが本シリーズの定石となっているが、『成金計画』のヒロイン三奈子(鈴木早智子)はシリーズ中、群を抜いてブッ飛んでいて、根は純情でどこまでも真面目なのだが、その純情さ真面目さゆえの暴走が度を越している。そんな彼女がたまたまヤクザどうしのヘロイン強奪戦に巻き込まれ、とんでもない量のヘロインを抱え込んだまま、成り行きで雄次と耕作の前に現れる。

 大きなトラブルを持ち込んだヒロインをお人好しの主人公2人が何とか助けようと奔走する、というシリーズ定番の流れは『成金計画』でも同じだが、5作目にしてシリーズ中最もアナーキーに突き抜けた仕上がりとなっている。シリーズ中最も正統派な(バランスの良い)仕上がりと思えるのは2作目『脱出計画』だが、ちょうどそこと対になるような突き抜けた(過剰な)作風だ。

 ドタバタ劇なコメディーの面も、ハードボイルドな暴力演出の面も、過去4作でも用いられてきた要素ではあるのだが、『成金計画』はその尽くがフルスロットルな状態で展開される。ドタバタ劇の方は荒唐無稽を極限まで突き詰めた過剰演出で、もはやアナーキーというよりもカオスに近い状態だが、デタラメもここまで振り切ると本当に面白くなるもんだなぁ、と感心させられる。ハードボイルドな暴力演出の面に関しては、冒頭からいきなり血みどろの銃撃戦をたっぷりと見せてくれ、これは後の復讐シリーズ4作へと続く布石にもなっていると言えるだろう。

 また、黒沢清作品によく見られる、固定された空間内で縦・横・手前・奥に絶え間なく役者を移動させ続ける演出も、やはり本シリーズでもワンカット長回しの室内での会話シーンなどで多用されているが、その用い方も『成金計画』では極端(過剰)で、最終作1本手前の第5作で、シリーズ中で積み上げてきた要素やテクニックの極限を目指したのだろうか? と思わされる。

 とにかく、あらゆる面で(全方位で)極端なカオス状態のまま突き進む作風がこの『成金計画』なのだが、これをコメディーという形式ではない方向で突き詰めたのが後の『蜘蛛の瞳』と言えるかもしれない。また、TVドラマ『探偵物語』(1979年~80年)に『ダイヤモンド・パニック』というエピソードがあるが、これにもどことなく『成金計画』は似ているように思う。

 色々な実験も兼ねながら(あらゆる可能性を模索しながら)自分らしいスタイルを確立していくという時期に、短期で6本も撮るシリーズの中でそれが出来たのは、黒沢清映画のフィルモグラフィーの中でもかなり重要な位置を占めると言えるだろう。かつての日活ロマンポルノやVシネマ、あるいはもう少し後に出てくる心霊ドキュメンタリーなど、低予算の量産企画の中で作り手が独自の実験や可能性を探る機会が与えられるのは、やはり重要なことなのだろうと改めてそう思わされる。

 

(2025年9月9日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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