第265回『ウルフ・オブ・リベンジ 復讐の狼』

低予算ジャンル映画の鑑のような傑作

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『ウルフ・オブ・リベンジ 復讐の狼』
(Avengement)
2019年:イギリス
監督:ジェシー・V・ジョンソン


 ボクサーのカイン(スコット・アドキンス)は、犯罪組織のリーダーである兄にジム経営を始めるための資金を借してほしいと頼み込むが、その交換条件としてある小さな犯罪仕事を頼まれる。ごく簡単な仕事内容であったが、決行時に偶発的ながらも犯罪被害者の一般女性を交通事故で死なせてしまう。逮捕されたカインは兄の逮捕に協力することを警察側から持ち掛けられるが、それを拒んだために劣悪な環境の刑務所に送られ、毎日のように他の囚人たちから襲撃される羽目に陥る。

 この地獄から生きて出所するには、襲い来る囚人たちを殺す覚悟で返り討ちにするしかない。カインは黙々と自らを鍛え上げ、元ボクサーとしての拳と荒み切った心を武器に、来る日も来る日も狂犬のように敵の囚人たちを殴り倒してゆく。しかしなぜこうも襲われ続けるのか?

 カインはある日、いつものように殴り倒した相手から、カインの命を狙っているのが実の兄であることを知らされる。狡猾な悪徳刑事からカインが裏切ったというデマを吹き込まれた兄が、それ以上の裏切りを阻止するために、カインの首に懸賞金を懸けて囚人たちに襲わせていたのだ(何かと自分の足を引っ張る出来の悪い弟を厄介払いしたい、と前々から思っていた節もどうやらありそうだ)。思いもよらぬ真相を聞かされ怒り狂ったカインは、あるチャンスを利用して脱走に成功すると、刑務所で溜め込んだ7年分の怒りと憎悪を煮えたぎらせながら、壮絶な復讐を開始する。

 話としてはどこにでも転がっていそうな、ごくごくシンプルで小ぢんまりとした復讐劇であるが、これが意外や意外、かなり面白い。話の舞台となるのは主に、チンピラが集う場末の小さなパブと、主人公が送られる劣悪な環境の刑務所の2ヶ所だけである。

 話の流れの中で他の場所もいくつか出ては来るが、ほぼ9割方はパブと刑務所の中で話が展開されてゆくので、ほとんど密室劇と言っても過言ではない。かなりの低予算企画であろうが、そんな規模の小ささを逆手に取った、無駄のない密室劇としてのタイトな仕上がりはかなり良い。刑務所のパートは『ブロンソン』(2008年)や『デンジャラス・プリズン −牢獄の処刑人−』(2017年)を思わせ、パブのパートは『死ぬにはまだ早い』(1969年)や『レザボア・ドッグス』(1992年)を思わせる(いずれの作品も低予算の密室劇型犯罪映画の傑作である)。

 まずオープニングで主人公の脱走シーンがあり、場末のパブへと乗り込んだ主人公が、その場にいたチンピラたちを銃で脅し、自分のこれまでの顛末を話し始める。ここから刑務所での壮絶な日々の回想録となり、次第に本作の主軸が主人公の復讐劇であることが分かり始め、その復讐の最終地点がこのパブであることが明かされて、ラストは血みどろの大立ち回りとなる。

 極めてシンプルな構成であるが、ほんの少し時間軸の前後を入れ替えたりなどもして、(サスペンス要素が強いわけではないものの)スリラー的な話運びの面白さもある。そしてその話運びに無駄がなく、テンポ良く転がされるストーリー展開の中に血みどろのバイオレンス・アクションを敷き詰めてゆくスタイルで、90分弱の尺をスピーディーに走り切る。まず何より脚本のまとめ方が良いのだろうと思わされるし、細かなカメラワークや編集も実に丁寧に作り込まれている。

 主演のスコット・アドキンスは華麗でアクロバティックな足技のイメージが強いアクション俳優だが、本作では元ボクサーのチンピラという設定もあり、足技は極力控えめに、ボクシング主体の、より実戦的な泥臭いケンカ・ファイトの殺陣が繰り広げられる。この重々しく血反吐まみれのバイオレンス・アクションが、場末のチンピラたちが殺し合う犯罪映画としてのリアリティーと旨味を底上げしている。本作での泥臭い殺陣のつけ方は、やはりアクロバティックな足技のイメージが強いジャン=クロード・ヴァン・ダムが、いつもの華麗なヴァンダミング・アクションを封じて、リアルで泥臭いケンカ・ファイトを繰り広げる『ザ・バウンサー』(2018年)のそれを思わせる。

 シンプルで派手さはないが、話の構成、話運びのテンポ、カメラワーク、編集、殺陣、そして血みどろの大復讐劇を終えた後に、ほんの少しだけカラッとした気持ちにさせてくれるオチのつけ方まで、全体的に丁寧に作り込んでいて、すこぶる仕上がりが良い。明らかに低予算企画でありながら、画にも安っぽさを感じさせない(リッチに見えるというわけではないが、話の規模に見合ったバランスの良い画作りに成功している)。小規模で、しかも内容が偏ったジャンル作品でも、細部を丁寧に作り込めば、広く名の通った作品や大規模な予算をかけた作品にも引けを取らぬものが出来上がるのだなぁ、と感心させられた。本作はまさに、低予算ジャンル映画の鑑のような傑作である。

 

(2025年7月9日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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