第263回『28年後…』

可愛い子には地獄を旅させよ

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『28年後…』
(28 Years Later…)
2025年:イギリス、アメリカ
監督:ダニー・ボイル


 1990年代までの同ジャンル作品群とはまたちょっと違った、ゼロ年代以降の「走るゾンビ」タイプの作品群の嚆矢と言える『28日後…』(2002年)、そこから残酷さと絶望感をフルにパンプアップさせた2作目『28週後…』(2007年)、そして長い年月を経てのシリーズ3作目となるのが本作『28年後…』だ。監督は1作目のダニー・ボイルが復帰となった。

 個人的なシリーズ評価としては、1作目が自分には面白いと思えず、2作目の方が好きなので、1作目のダニー・ボイルが監督復帰したと聞いたときは、正直この3作目もほとんど期待していなかったのだが、しかしいざ見てみれば、これが予想していたより遥かに面白い傑作であった。

 同じダニー・ボイル作品である『トレインスポッティング』(1996年)も全く面白いと思わなかったのに、その続編『T2 トレインスポッティング』(2017年)はミドルエイジ・クライシス映画好きな自分にドンピシャでハマった作品だったので、今回もそのときと似たようなパターンと言える(ボイル監督が年を取ってからの作品の方が自分の肌に合うのかもしれない)。

 大規模なゾンビ・パンデミックによりイギリス本土が完全に荒廃し、世界各国からも見捨てられて28年後。周辺の海域では外国の巡視船が常に目を光らせており、イギリス本土からの脱出を試みる者や、一度イギリス本土に足を踏み入れた者は、全て「感染者」と見なされ容赦なく銃殺される。

 そんな中、イギリス本土から少し離れた小さな孤島に、コミューンを形成して生き延びている人々がいた。農耕牧畜をする村のような共同体だが、完全な自給自足でまかなえるほどではないので、弓矢を唯一の武器に、時折、本土に渡って何かしらの物資などを調達して来るような生活だ。この孤島から本土へは細い一本道が形成されているが、そこを歩けるのは干潮時のみで、満潮時には海の中に沈む。この道の村側には見張り小屋があり、24時間体制で見張りがつけられている。

 この村の子供たちは、思春期ぐらいの年頃になると、大人と一緒に本土に渡り、ゾンビ・パンデミック下での物資調達や、弓矢によるゾンビ殺しのスキルなどを学ばされる。過酷なサバイバル環境下ゆえの、かなり早めの成人の儀式のようなものだ。この村で生まれ育った12歳の少年スパイク(アルフィー・ウィリアムズ)は、父ジェイミー(アーロン・テイラー=ジョンソン)と一緒に、早くもこの儀式で本土に渡ることになり、ここから彼の残酷極まりない成長物語が始まる。

 話の主軸は驚くほどシンプルな、一人の少年の成長譚である。まだ幼い思春期の入り口で、父との精神的距離、病身の母を抱えた重苦、決して悪い環境ではないが、どこか閉塞感を覚えさせられる生まれ育った村の空気……そういった目の前にある障壁を、一人の少年が乗り越えていく様を描いている。ゾンビ・パンデミック下の過酷な「旅」によって外側の世界に触れることで、固定化されていた価値観を揺さぶられ、故郷に対しうっすらと抱いていた違和感への回答も見つけていく。

 生まれ育った安全な故郷よりも、未知なる危険に満ちた外側の世界の方が少年をより成長させる、という描き方は、「可愛い子には旅をさせよ」そのままの教育映画みたいなベタさではあるが、これが思いのほか悪くない。純粋無垢な少年に人生における大事なことを教えてくれたり、あるいは公平な共闘をもたらしてくれるのが、狭い故郷にいる身の周りの大人たち(要は親や教師のような人たち)ではなく、外側の世界にいる赤の他人(時には狂人扱いされているようなタイプの人たち)だったりする、という描き方がいかにも古風な教訓めいてはいるが、シンプルに面白い。

 登場人物は多くはないが、イギリスの地に漂着してしまった外国海軍の青年兵士、狂人だと思われていた元医師(「メメント・モリ」の死生観を表した、独自のカタコンベのような観念的墓標を造り続けている)、そしてラストに出てくるイカレたパルクール集団(これがアバンタイトルの惨劇をきれいに回収するオチで面白い)など、少年が「旅」の中で出会うキャラクターたちには、シリーズ過去2作にはないケレンと味わい深さがある。

 「メメント・モリ」の死生観を少年に教えてくれる医師のシーンでは、「終末期医療」や「安楽死(尊厳死)」といった要素にも触れられており、これが病身の母と少年との間の重要な転換点にもなってくる(父と母それぞれに対して少年が早熟な精神的巣立ちを見せる、という点でも、やはり本作はかなりストレートかつシンプルな成長譚だと言える)。

 また、過去2作から28年経っているという設定なので、従来の「走るゾンビ」たちに加えて、知能も低く動きも緩慢な「スローロー」や、知能が高く敏捷さも筋力もズバ抜けた「アルファ」など、それぞれに退化・進化した新種も現れ、ゾンビ映画としての面白味もしっかり増している。

 今回はさらに妊娠したゾンビまで現れるが、ここがまた先々のシリーズ展開に繋がる重要な要素となっていきそうでもある(『28年後…』は元々、3部作構想の企画だそうである)。

 感染せず生き延びていた妊婦がゾンビに襲われ感染したのか、あるいはゾンビどうしで生殖行為に及んだのかは不明だが、どちらの可能性もある(本シリーズに出てくるのは、ゾンビと言っても厳密には凶暴化するウィルスに感染した「感染者」で、「動く屍」というよりは本能が鋭角化された「まだ生きている人間」なので、感染者どうしによる生殖行為も可能ではあろう)。ゾンビのお産シーンを見られる作品が過去にあるのか私には分からぬが、本作でのこのシーンはなかなか新鮮であった。そしてここで生まれて来る赤ん坊が、絶望的環境下での新たな希望の芽として、作品世界に奥行きを与えている(死の世界に新たな生の世界を築ける可能性を示す重要なシーンだ)。

 聞くところによると、既に続編(3部作の2作目)の撮影は終わっており(監督はダニー・ボイルではないそうだが)、3作目の製作は本作『28年後…』の興行成績次第とのこと。自分はどちらかといえば、映画作品の長期シリーズ化や大規模フランチャイズ化には否定的な方だが、今回の『28年後…』が思いのほか面白かったので、続編の方も期待したいところではある。

 

(2025年6月22日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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