第26回『スパイナル・タップ』

ロックンロール人生劇場


『スパイナル・タップ』
(This is Spinal Tap)
1984年:アメリカ
監督:ロブ・ライナー


 架空のUKロック・バンド、スパイナル・タップのアメリカ・ツアーの模様を追ったフェイク・ドキュメンタリー作品。監督のロブ・ライナーは劇中のドキュメンタリー監督としても出演している。

 スパイナル・タップは60年代にビートルズやストーンズよろしく、ブリティッシュ・インヴェイジョン然としたブルース・ロック・バンドとしてデビューし、時代が愛と平和のサイケ全盛期になればフラワー・チルドレン風サイケ・バンドにさらっと鞍替え。その後も時代に流されながら、今は年を食ったハードロック・バンドとして80年代という実に微妙な時代を生きている。それなりに固定ファンは付いているが、はっきり言って落ち目のバンドだ。

 そんな彼らがニュー・アルバムを引っ提げてのアメリカ・ツアーを行うのだが、肝心のアルバムはジャケットが猥褻だからという理由で未だ発売の目処が立たず、集客の問題などからツアー先での公演キャンセルが続く。以前のアメリカ・ツアーでは数万人規模の会場でやっていたのに、今回は千人単位の小規模な会場ばかり。マネージャーもバンドのために身を粉にして走り回るが、思うような結果が出ず、メンバーたちの不満は募る一方だ。

 そんな折、ヴォーカル&ギターのデヴィッドの恋人が勝手にツアーに同行することに。怪しい東洋思想でデヴィッドを虜にするこの恋人は、事あるごとにバンドの問題に口を出し、それがまたことごとく的を外した意見ばかりなので、デヴィッドとその幼馴染であるリード・ギターのナイジェルの仲も次第に険悪なものになっていく。これは間違いなくオノ・ヨーコが食い込み始めた末期ビートルズのパロディーだ(デヴィッドとナイジェルはまんまジョンとポール)。

 そう、この映画は実際にあったロック史における様々なエピソードを、ひとつのバンドの出来事としてパロディックに集約した物語なのだ。それをコメディー・タッチのフェイク・ドキュメンタリー作品としてタイトに練り上げた、技ありの逸品である。

 デヴィッドの恋人があまりにもバンドをしっちゃかめっちゃかにするので、たまりかねたマネージャーがバンドから去ってしまい、さらにはバンドのサウンド面での中核を担っていたナイジェルまでもが、デヴィッドの恋人に愛想を尽かしバンドを脱退してしまう。

 しかしアメリカ・ツアーはまだこれから。残されたメンバーは仕方なく、ズブの素人であるデヴィッドの恋人をマネージャーとしてアメリカ・ツアーを続けることに。当然、そんな場当たり的なツアーが上手く行くわけもなく、大きな会場での公演キャンセルはさらに増え、挙句は小さな遊園地で人形劇の前座をやらされる羽目に陥る。

 しかもバンドの有名曲の大半はナイジェルが作曲したものなので、ナイジェルなしではやはり限界がある。そのため、人形劇の前座でフリー・ジャズ風のセッションをやるという全くの見当違いまでやらかし、会場は苦笑につつまれる。そんなボロボロのアメリカ・ツアーもとうとう最終日を迎え、控室で気の重いまま準備をするメンバーたち。するとそこへ脱退したナイジェルが現れる。

 ナイジェルはやはりデヴィッドと二人で築き上げて来たバンドに未練があり、「日本で新曲が売れているからジャパン・ツアーをやろう」という元マネージャーからの企画案を伝えに来たのだ。これはバンドにとってまたとないチャンスなのだが、しかしデヴィッドはまだ意地を張り、そんな話に興味はないといった態度をとる。実に残念だという表情のまま、ナイジェルはデヴィッドに一言。

 「いい演奏をしろよ」

 本作は全編シニカルなコメディー・タッチなのだが、こういうところが何ともニクイ。思わずこっちも目頭が熱くなる。

 いつものように熱い演奏を始めるデヴィッド。それをステージ脇で見つめるナイジェル。演奏はさらに盛り上がる。ナイジェルの体もうずうずしてくる。それを見てとったデヴィッドは、ここぞというタイミングでナイジェルに演奏に加わるように促す。そしてステージ上に飛び出したナイジェルが最高に熱いギター・プレイを見せ、映画はそのままジャパン・ツアーでの爆発的成功へひとっ飛び。オタク大国ニッポンのファンの熱い喝采を浴びながら、ビッグ・イン・ジャパンと化したバンドが最高にイカした演奏をキメたところで映画は終わる。

 これぞロック!! これぞエンターテイメント!!!!

 脚本も担当したナイジェル役のクリストファー・ゲストをはじめ、バンドのメンバーを演じた者はみな実際に演奏もやっている。当然ながら、これは音楽的なボケをかます上でも、かなり質の高い笑いが生み出せる。例えば、メンバー全員でエルヴィスの墓参りへ行くシーンでは、皆で『ハートブレイク・ホテル』をハモろうとして全然ハモれないというボケがあるのだが、これも実際にしっかりと音をとれる人がやっているから絶妙に面白いのだ。

 ロック映画としてもコメディー映画としても120点満点の面白さで、業界の裏側を描いた「バックステージもの」としての質もかなり高い。おまけにフェイク・ドキュメンタリー映画としてのセンスもピカイチだ。たかだか80分にも満たない短い作品だが、いつ見てもお腹いっぱいにしてくれる素晴らしい映画である。

 

(2011年9月17日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
性別
生年月日
1984年5月2日
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