第258回『ビーキーパー』

シンプル・イズ・ベストの痛快骨太アクション

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『ビーキーパー』
(The Beekeeper)

2024年:アメリカ、イギリス
監督:デヴィッド・エアー


 ジェイソン・ステイサムが悪党どもを徹底的に叩きのめすアクション映画と聞けば、さすがにもう食傷され切った「いつものステイサム映画」だろう、とどうしたってそう思ってしまうが、本作はその路線を愚直に猪突猛進しながらも、同系統の過去作を上回る勢いの傑作だったので驚いた。

 ステイサム扮する孤独で謎めいた養蜂家アダム・クレイは、彼を自身の土地に受け入れてくれた恩人である老婦人が、卑劣なネット詐欺によって全財産を騙し取られ、自殺に追い込まれてしまったことから、彼女を騙した巨大詐欺グループへの壮絶な復讐を開始する。

 いわゆる「ナメてた相手が実は……」のベタベタなペイバック系アクション映画だ。この手の作品を好んで見る映画ファンなら、これまで何十回何百回と見てきたような「いつもの」内容である。ステイサム作品に限っても、このような話(特にステイサムが多勢の悪党どもを次々と薙ぎ倒していくタイプのアクション映画)は過去に何本も見てきたことだろう。

 本作も、そういった同系統の過去作の数々と大きく異なる意外性やヒネりがあるわけではない。言ってしまえば「いつもの」作品であることに変わりはないのだが、しかし「容赦ない復讐劇」×「ステイサム大暴れアクション」というその旨味だけを徹底的に追求した結果、まさに純度100%の蜂蜜のように濃厚な、痛快骨太アクションの新たな傑作が誕生した。

 本作が素晴らしい作品となった要因はまず何より、ジャンル映画らしいジャンル映画として、徹底的に無駄な贅肉を削ぎ落とした点にある。とにかく「ステイサムのアクション」を前面に押し出し、その旨味だけで映画を一本撮り切ってみせよう、という気概をひしひしと感じる。そしてそれが見事成功している。「主役のアクションを見せる作品」という点で、本作には一切無駄がない。

 「主人公の恩人が詐欺に遭って自殺に追い込まれる」という悲劇的な導入部から、主人公が復讐を開始する(本題に入る)までがとにかく早い。主人公と恩人のやり取りも長々と見せず必要最低限の短さだが、恩義を感じている関係性なんだなというのが過不足なくしっかりと伝わる。

 本題の復讐劇に入ってからも、「ビーキーパー(養蜂家)」というキーワードを軸にした主人公の正体に迫る話や、巨大詐欺グループから延いては国家規模に拡大していくような話の展開もあるが、そこに長々と時間を割くことはなく、合間の説明ターンは尽く手短に済ませ、アクション、アクション、またアクションという疾走感で、ラストまで中弛みすることなく一気呵成に突っ走る。

 ステイサムのアクションには、タクティカルなリズム感と無骨なハードさ、そしてある種の野蛮さとジェントルさを対極的に兼ね備えた独自の美しさがある。過去作では『SAFE/セイフ』(2011年)、『キラー・エリート』(2011年)、『エクスペンダブルズ2』(2012年)、『ワイルドカード』(2015年)といった作品でその美しさを余すところなく味わえるが、本作『ビーキーパー』は、質・量共にそれらの過去作を上回るステイサム・アクションを堪能することが出来る。

 本作のアクションは「敵を皆殺しにする」タイプのものであるが、迫り来る無数の敵をバンバン返り討ちにしていく中でも、「完全な悪人」や「確実に殺しに来る傭兵たち」に対しては迷いなく瞬殺であるのに対し、あくまで「逮捕目的」の警察機構側のスワット隊員やシークレットサービスなどに対しては(命に危険がない程度の負傷に留める)不殺を貫いており、その分別を大立ち回りのアクションの中できっちり描き分けている点はなかなか面白い。この「容赦ない瞬殺」と「手心ある不殺」を同時に捌いていくアクションは、本作のアクション演出におけるいちばんの特色と言える。

 主役のアクションを見せることに徹底的にこだわった(それ以外の余分な要素を徹底的に削った)作品の成功例というところでは、『コマンドー』(1985年)が思い出される。こちらも「誘拐された娘を取り戻す」という目的のために、主演のアーノルド・シュワルツェネッガーが悪党たちを完膚なきまでに叩きのめしていく、というその一点に特化した大傑作アクション映画だが、こういった究極的なシンプル・イズ・ベストを実際に成功させたアクション映画は、ほとんど奇跡的なレベルの作品とすら言えるだろう。そして本作『ビーキーパー』もまた、主演のアクションを見せることに特化したジャンル映画としては、奇跡的な傑作に仕上がった一本と言っても過言ではない。

 シルヴェスター・スタローン、アーノルド・シュワルツェネッガー、スティーヴン・セガール、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ブルース・ウィリス、メル・ギブソンといったような、特に1980年代~90年代にかけて大活躍したアクション・スターたちの地続き的な後継者として、現代の痛快骨太アクションの頂にいるのは、やはりジェイソン・ステイサムなのかもしれない。

 

(2025年1月8日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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