第251回『SISU/シス 不死身の男』

不屈の心で敵を皆殺し!!

img_20240628-141217.jpg
『SISU/シス 不死身の男』
(Sisu)
2022年:フィンランド
監督:ヤルマリ・ヘランダー


 ソ連の侵攻とナチスドイツの焦土作戦によってボロボロにされた第二次世界大戦末期のフィンランド。その凍てつく荒野を愛犬と共にさまよいながら、一人黙々と金塊を掘る初老の主人公アアタミ。彼は掘り当てた金塊を運ぶ道中で敗走するナチスの残党と遭遇し、命と金塊を狙われる羽目に陥るが、しかし彼はかつて三百人ものソ連兵を一人で殺したフィンランド最強の軍人で……という、いわゆる「ナメてた相手が実は……」系の皆殺しリベンジ・アクション映画。

 さすがにもうこの手の作品には飽き飽きしているというのが正直なところだが、「また同じような内容か」とほとんど期待せずに見た本作は意外な大当たりであった。

 まず何より主人公のキャラ造形が素晴らしい。武骨で無口なハードボイルド然とした髭面で、体中に無数の傷跡があり、ラスト以外は一切喋らない。劇中で他のキャラからの説明的な言及があるが、彼は「不死身の男」というよりは「不屈の男」で、けっこう敵からのダメージも派手に食らうし、負傷や流血をすれば人間臭く痛がりもするのだが、何度叩きのめされようとも決して諦めずに、とにかく敵を皆殺しにするその一点にのみ集中して前進し続ける。

 余計な理屈をゴチャゴチャ抜かしたり、露骨な感情吐露を見せることもなく、自分から何か大切なものを奪った相手は何があろうと容赦なく殺す(そして奪われたものを取り返す)、というその目的のためだけに黙々と前進する。一度殺すと決めた相手に情けを掛けるなんてことも一切ない。

 敵のナチス残党軍団も、悪役らしくやることをやるだけ。もちろんナチスなのでいくらでも憎らしく描けるのだが、そこも割かし淡々としていて、敗戦後はナチスの軍人としての特権がなくなるのは目に見えているから、どうしても主人公から奪った金塊を持って逃げ切らないといけない。理由はそれだけだ。そのためだけに主人公を必死になって殺して逃げ切ろうとする。

 「なぜ戦うのか」「何のために戦うのか」「復讐の果てに何が残るのか」などといった野暮ったい問いはなく、「自分から大切なものを奪った奴らは問答無用に皆殺しにするだけだ」という行動理念の実践のみを簡潔に描く。善も悪も思想も政治も関係なく、「一度殺ると決めたら最後まで殺る」という固い意志を貫徹する男の姿だけをシンプルかつ丁寧に描破してゆく。

 

 主人公がかつて戦争で家族を殺されたという話も感傷的に描かないのがイイ。この設定に関する回想シーンもないし、主人公の脳裏にその悪夢がフラッシュバックして……みたいな主人公への同情要素となる演出も一切ないのが潔い。ある女キャラの口から「あの男は、あんたたちを絶対に皆殺しにするわ」とそれだけ言わせる。なんて粋なんだと感心させられる。
 

 人間の内面や思想よりも行動(アクション)を見せることこそが映画だと私は思っているので、主人公がただ黙々と敵を仕留めにかかる行動(アクション)をシンプルかつ丁寧に見せてゆく本作には、まさに私が望む映画という名の見世物における最良の指標がある。
 

 血と硝煙の匂いが立ち込める世界で、一人の人間が意地を通す姿それだけを見せる。そんな娯楽を当たり前のように味わえるジャンル的許容とその供給が、いつの時代にも必要なのだ。
 

(2024年6月28日)

プロフィール

プロフィール画像
ニックネーム
わがままコブラ
性別
生年月日
1984年5月2日
QRコード
携帯用QRコード
アクセス数
ページビュー数