第248回『アイ, トーニャ/史上最大のスキャンダル』

何度でも立ち上がるクソッタレ人生

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『アイ, トーニャ/史上最大のスキャンダル』
(I, Tonya)
2017年:アメリカ
監督:クレイグ・ギレスピー


 女子スケート選手では史上2人目(史上初は伊藤みどり)のトリプルアクセル成功者であるトーニャ・ハーディング(演じるはマーゴット・ロビー)の半生と、彼女が関わったとされるフィギュアスケート界の大スキャンダル「ナンシー・ケリガン襲撃事件」の顛末を描く実録映画。

 幼少期よりスケートの才能を開花させ、天才スケーターとしてグングン成長するトーニャだが、貧困層ゆえの家庭環境の悪さ、スパルタ一直線で愛情表現が下手過ぎる母親、初恋からそのまま結婚へと至ったが根っからのDV男だった夫、その夫がつるむロクでもない友人などなど、あらゆる負の要素が彼女の足を引っ張り、またトーニャ自身の傲慢で反抗的な性格も、ブルジョアな気品さが求められるフィギュアスケートの世界にあっては悪い結果しかもたらさない。

 そんな逆境の中でも、生まれ持ったスケートの才能と負けん気の強さでオリンピック選手にまで上り詰めてゆくが、いざこれからという大事なタイミングで、夫とそのロクでもない友人絡みの「ナンシー・ケリガン襲撃事件」(トーニャのライバル選手であるナンシー・ケリガンが暴漢に膝を殴打され、大事な試合を欠場せざるを得なくなった事件)が起こってしまい、トーニャのスケート人生は一気に取り返しのつかないレベルで地の底へと叩きつけられてしまう……。

 盛者必衰の天才アスリートの人生ドラマとして始まり、終盤では『ペイン&ゲイン/史上最低の一攫千金』(2013年)のような無能犯による見切り発車のダメダメな犯罪劇を山場とし、ラストは転んでもただは起きぬド根性なスポ根的爽快感でバシッと〆る。同じクレイグ・ギレスピー監督による『ダム・マネー/ウォール街を狙え!』(2023年)でも見られる、ハイテンポな軽妙洒脱さでポンポンポンと話を転がしてゆくドライなブラック・コメディー的演出が見事で、この点はジェイソン・ライトマン監督の『サンキュー・スモーキング』(2005年)を思わせる。

 また、ドライでシニカルな要素と前のめりなテンポで、特異な個人の人生ドラマがそのまま「アメリカとは何か」「アメリカ人とは何か」という普遍的テーマへと帰納的に繋がってゆくタイプのアメリカらしい実録映画としては、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)や『ファウンダー/ハンバーガー帝国の秘密』(2016年)と並ぶ傑作である。

 実録ものの劇映画という虚実皮膜のバランスを、当事者たちのインタビューでの食い違い(誰が本当のことを言っているのかよく分からない)に絡ませながら、ラストは最も映画的な嘘が突き抜けたようなシーンで、主人公にカメラ目線で「これが私のクソッタレ人生の真実よ」と吐き捨てさせてビシッとキメる。虚も実も突き抜けた、この見世物的かっこよさに心底シビレさせられる。

 襲撃事件のスキャンダル後、トーニャはフィギュアスケート界から追放されるが、その後はなんとボクサーとしてリングにも上がっている。

 えいっ! と思い切ってジャンプして華麗な技を見せながらも、その着地に失敗することがあるのが人生の常であり、そうなった場合は血反吐を吐いてでも何度でも立ち上がって前に突き進んでゆくしかない。そんな意味合であろうラストの演出(トリプルアクセルを華麗に決めるジャンプ → ボクシングの試合でのノックアウト → そこからまた果敢に立ち上がって前進する……という様を一連の流れとしてスムーズに見せる演出)は、何とも映画らしい映像演出で素晴らしいかぎりだ。

 こういった美しい嘘の中でこそ逆説的に描ける真実というものもあり、実話を元にした作品の中でそれをやってのけるこの虚実皮膜の面白さこそが、本作最大の魅力と言えるだろう。

 

(2024年4月24日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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