第247回『その怪物』

ギャグと殺しとシスターフッド

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『その怪物』
(몬스터

2014年:韓国
監督:ファン・インホ


 工場経営者のチョン(ナム・ギョンウプ)は、女性従業員のヨニ(ハン・ダウン)との揉め事をカネで解決するために、何かと汚れ仕事を頼みやすい甥のイクサン(キム・レハ)に、ヨニへのカネの受け渡しと、揉め事の内容が隠し撮りされたヨニのスマホの回収を依頼する。

 しかし性根の腐ったイクサンは、預かった大金を勝手に自分の借金返済に充ててしまう。当然、このままではイクサンの立場は危うい。彼は長年疎遠になっていた弟テス(イ・ミンギ)に泣きつき、ヨニを脅して問題のスマホを回収してほしいと頼み込む。テスは人を殺すことを何とも思わないような冷酷な殺人鬼で、案の定、標的のヨニは殺されてしまう。

 問題のスマホが見つからなかったばかりか、殺害現場の目撃者であるヨニの幼い妹ナリ(アン・ソヒョン)を、テスは人間狩りを楽しむためにわざと逃がしてしまう。

 この逃亡劇に巻き込まれる形で、山あいに暮らす若い姉妹のポクスン(キム・ゴウン)とウンジョン(キム・ボラ)も殺人鬼テスに襲われ、無情にも妹のウンジョンが殺されてしまう。愛する妹を殺されたポクスンは怒り狂い、殺人鬼テスへの復讐を誓う……。

 冷酷な殺人鬼と、その殺人鬼への復讐を誓う主人公の対決を描くノワール・アクションという点では、ゼロ年代以降の韓国映画においてはもはやお家芸と言える定番ジャンルであるが、驚いたことに、本作はまず、ほんわかしたギャグ漫画的なノリの軽喜劇としてスタートする。本作の主人公と言えるポクスンのおとぼけキャラ全開のノホホンとした喜劇が序盤で展開され、そこから一気に殺人鬼テスが主体の、大残酷血みどろバイオレンスの世界へと雪崩れ込んでゆくのである。

 ポクスン以外のシーンでも軽喜劇的なギャグが多いので、おそらくこの手のコメディー演出に慣れた監督なのだろうが、しかしそこから韓国映画然とした、一切情け容赦ない大残酷バイオレンスの世界へと突き進んでゆくのだから恐れ入る。

 殺人鬼テスのキャラ造形も異色で、冷酷非情でなぜか超人的な身体能力と格闘術を身に付けており、殺した相手は陶芸用の窯で焼却し、その骨を土に混ぜて陶芸の壺を作るのが趣味という、全く訳の分からない漫画チックな荒唐無稽キャラなのだが、これがまぁ抜群に面白い。

 テスに関してはギャグ要素は一切なく、クールで美形な狂人としてのキャラ造形が一貫していて、これはこれで漫画やアニメでしか成立し得ないようなキャラ造形であるが、『オオカミ狩り』(2022年)に出てきた王子様のような美形殺人鬼ジョンドゥ(ソ・イングク)と同じく、どこまでも漫画チックなキャラを実写的リアリティーの中に成立させてしまう強度が、現代韓国映画には確かにあるのだ。これはもう完全に演出技術として確立されているものだと言ってよいだろう。

 「ギャグ漫画的な軽喜劇」と「血みどろの残酷バイオレンス」という、全く相容れない要素を見事な力技で一本の映画としてまとめ上げた本作だが、そこを貫くドラマ的普遍性としては、これまた現代韓国映画ではお家芸と言える「疑似家族」の要素を巧みに織り込んでいる。

 殺人鬼に家族を殺された主人公の復讐譚という定番の流れと、実の妹を失ったポクスンと実の姉を失ったナリ(共に両親がいない)が義姉妹としての関係性を形成していくドラマが、この荒唐無稽な本作における普遍性の軸として機能しており、また殺人鬼テス側にも、「疑似家族」としての悲哀感溢れるドラマが描かれている(「復讐」と「疑似家族」は現代韓国映画において本当によく見られる要素だ)。血の繋がった家族がいない状態で、「疑似家族」を形成出来る者と出来ない者に分かれてしまうという観点で見れば、殺人鬼テスにも相応の哀しい憐憫さが匂い立つ。

 ノホホンとした軽喜劇から始まり、グチャドロの大残酷バイオレンスを経て、最後はまたノホホンとした軽喜劇でサラッと〆るという、とんでもない力業を見せつける本作だが、最大の見せ場はやはり、最終決戦となる小さな飲み屋での血みどろの虐殺バトルだろう。狂人と悪党と復讐者がくんずほぐれつ入り乱れて、まさに虐殺と呼ぶに相応しい地獄の殺し合いが展開される。

 本作における「軽」から「重」への極端な振り切り方は、まるで『ちびまる子ちゃん』の世界から一気に『殺し屋1』の世界に雪崩れ込むような振り切り方だと言える。

 ギャグ漫画的な軽喜劇と、義姉妹の人情ドラマと、血みどろの大残酷バイオレンスの融合。こんな途轍もなく面白く凄まじいエンターテイメント(見世物)を振り切って作れる現代韓国映画の底力を、今回また改めて思い知らされた。これだから韓国映画はやめられないのである。

 

(2024年3月4日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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