第243回『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』

痛快エンタメ・ホラーの指標

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『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』
2023年:日本
監督:白石晃士


 ゼロ年代以降の日本のホラー映画界を代表する監督の一人、白石晃士による人気シリーズ『コワすぎ!』の通算10作目。過去シリーズは以下の通り。
 


 

 『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズ(全7作)

  01. 『口裂け女捕獲作戦』(2012年)
  02. 『震える幽霊』(2012年)
  03. 『人喰い河童伝説』(2013年)
  04. 『真相!トイレの花子さん』(2013年)
  05. 『劇場版・序章/真説・四谷怪談 お岩の呪い』(2014年)
  06. 『史上最恐の劇場版』(2014年)
  07. 『最終章』(2015年)

 

 『戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!』シリーズ(全2作)

  01. 『恐怖降臨!コックリさん』(2015年)
  02. 『暗黒奇譚!蛇女の怪』(2015年)

 

 心霊ドキュメンタリーの製作チームである工藤(大迫茂生)、市川(久保山智夏)、田代(白石晃士)の3人が、投稿者から送られてくる怪異映像を調査し、その真相に迫っていく……という形のフェイク・ドキュメンタリー作品として、シリーズを通して統一されているが、実質的な第2シリーズと言える『超コワすぎ!』2作は、前シリーズ『コワすぎ!』からの地続きにはなっておらず、先の主要キャラ3人はそのままに、パラレルワールド設定のリブート的な仕切り直しシリーズとなっている。

 各エピソードのタイトルからも分かるとおり、「口裂け女」「河童伝説」「トイレの花子さん」「四谷怪談」「コックリさん」「蛇女」等々、主として扱うネタはかなり古風な怪談や都市伝説で、日本人なら誰もが一度は見聞きしたことがあるような使い古された題材ばかりだが、そこに『ノロイ』(2005年)、『オカルト』(2009年)、『カルト』(2013年)、『ある優しき殺人者の記録』(2014年)といった他の白石作品にも見られるような、独自性の強い要素(時空SF、クトゥルフ神話、肉体的・精神的暴力、霊的サイキック・バトルなどなど)をミックスさせ、その荒唐無稽さを、フェイク・ドキュメンタリーという手法によって、実写的リアリズムを有した作品へとまとめ上げている。

 『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』は、そんな『コワすぎ!』シリーズの通算10作目となる作品で、やはりシリーズ他作品と同じく、工藤、市川、田代の3人が、投稿者から送られてきた怪異映像の調査に乗り出す……という内容だが、『超コワすぎ!』と同じように前シリーズからの地続きではなく、『コワすぎ!』とも『超コワすぎ!』とも別の、再度の新たな仕切り直し作品となっている。

 今作は、心霊映像を撮影しに心霊スポットの廃墟に忍び込んだ若者の男女3人が、そこで全身真っ赤な返り血を浴びたような女に襲われ、命からがら逃げ延びた彼らが、その映像を工藤たちの元に送り、「赤い女」の調査を依頼するところから始まる。工藤たちは依頼者の若者3人と、さらにベテランの霊能者を伴い、「赤い女」が現れた廃墟へと向かうが、そこで思いもよらぬ怪異と危機に見舞われる。

 『オカルトの森へようこそ』(2022年)と同じく、過去の白石作品の数々の総括的な内容となっており、その点に関する焼き直し感は否めない。特にパラレルワールド的な多次元を複雑に行き来する様を、疑似ワンカットのスピーディーなパニック演出で捌いていく仕掛けの部分は、『真相!トイレの花子さん』そのままだし、ベテラン霊能者とその師匠(ベテラン霊能者より若い)のキャラ設定(関係性)も『カルト』からの変則的引用で、この霊能者師弟のキャラ設定(関係性)は『オカルトの森へようこそ』でも既にセルフ・パロディー的に再現されたばかりである。

 とはいえ、そうした過去に積み重ねられてきた白石ワールドのブラッシュアップが最良の形で為された作品と言え、こと娯楽性という点に関しては、本作は『コワすぎ!』シリーズの中でも最高度であると言っても過言ではない(作品全体のノリとしては、過去の『コワすぎ!』シリーズ作品の数々よりも、『カルト』や『オカルトの森へようこそ』に近い)。

 恐怖とショック、スリルとサスペンス、集団コント的な笑いの妙味、荒唐無稽さとクトゥルフ神話的宇宙観、漫画チックだが抜群に面白い霊的サイキック・バトル等々、それらが混然一体となって、ラストまで一気呵成に突っ走る。長年、白石監督がフェイク・ドキュメンタリー・ホラーという枠組で積み重ね、ブラッシュアップし続けてきた手法や演出の最良の成果が、本作においては見事にその映像の隅々にまで表れている。「恐い」と「面白い」をここまで同じ土俵の上で両立させることが出来る白石作品の驚異的なバランス感覚には、毎度ながら感嘆させられる。

 そんな本作がシリーズ過去作と明確に違うのは、「有害な男性性からの脱却」というテーマを内包している点で、これは工藤という有害な男性性の塊のようなキャラクターを野放しで愛でられるような時流ではなくなったことへの配慮であると同時に、過去の白石作品にも度々登場した有害な男性性の塊みたいなキャラクターたちへの自省的な総括のようなものでもあるのだろう。

 これは『白石晃士の決して送ってこないで下さい』(2023年)においても明確に取り入れられている要素であるが、この点に関しては、今回の『コワすぎ!』新作も『決して送ってこないで下さい』も、正直あまり上手く行っているようには思えなかった。

 というのも、「これは有害な男性性ですよ」と示す方法が尽く記号的に為されていて、そこを娯楽作品としてのドラマ性の中に(例えばリー・ワネル版『透明人間』(2020年)のように)器用に織り込めているようには思えないからだ。「作り手が有害な男性性への自覚ありきで(否定的に)作品に取り込んでいますよ」という便宜的なエクスキューズ以上のものにはなっていないように思える。

 

 この「有害な男性性への配慮的演出が表層的に思える」点と、先述した「過去作の焼き直し感が否めない」点に関しては、正直なところの不満要素ではあるが、しかしながら、過去最高度にブラッシュアップされた白石ワールドの極致的作品として、また痛快エンタメ・ホラーの一つの指標たり得る作品として、『コワすぎ!』シリーズの中においても、延いては数ある白石作品の中においても、本作はある種の「入門編」として広くお薦めしやすい作品と言える。「恐くて面白い」「戦慄しつつ笑える」というエンタメ・ホラーとしてあるべき最良の形が結実した一本だ。

 

(2024年1月29日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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