第240回『境界カメラ』

日常と霊障と普通の人々

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『境界カメラ』
2018年~2019年:日本
監督:寺内康太郎


 本作は、『ほんとうに映った! 監死カメラ』シリーズ第6作~第17作(2014年~2017年)、『心霊マスターテープ』(2020年)、『心霊マスターテープ2 ~念寫~』(2020年)、『フェイクドキュメンタリー「Q」』(2021年~)などの寺内康太郎監督によるフェイク・ドキュメンタリー。

 もともとはネット配信の心霊系バラエティー番組『境界カメラ』(2017年~2019年)の中のコーナーの一つであった『ナリモトD失踪事件』を、単独の作品として4作の連続シリーズにまとめたもので、とあるアダルトビデオに上書きされた奇怪な心霊映像の謎と、その謎を追う中で失踪した新人ディレクター、ナリモトの行方を寺内監督が独自に調査していく……という内容である。

 話の発端は、ある一般人投稿者が、死んだ父親の遺品の中から見つけたという一本のアダルトビデオ(VHS)。再生するとそこにはいくつかの奇怪な心霊映像が上書きされていた。投稿者は父の死とこのビデオの関係性や、そもそもこの上書きされた映像が何なのかということが気にかかり、このビデオを映像制作会社に送る。

 プロデューサーの有馬は、このビデオの謎を調査する形の心霊ドキュメンタリー作品『心霊獄門帳/恐怖の絶対領域』の製作を決め、そのディレクターに新人のナリモトを起用する。

 ナリモトは業界の先輩であるイサカをカメラマンとし、そこに女性アシスタントの谷ももを加えた三人体制で謎のビデオの調査を開始するが、調査が進む中で肝心のナリモトが突如失踪してしまう。ナリモトの行方は誰にも分からず、ディレクターという支柱を失った『心霊獄門帳』の製作は棚上げ状態となり、いつしか関係者たちの記憶からも薄れつつあった。

 ところが、ナリモトの失踪から一年ほどが過ぎたある日、プロデューサー有馬の元に、突然、謎の封筒が届く。中身はあの心霊映像が上書きされたアダルトビデオ(VHS)の現物と、ナリモトによる調査映像の記録などが入ったUSBメモリだ。どちらもナリモトが所有していた物と思われる。差出人の名は「田中花子」という謎の人物で、そこに書かれた住所はデタラメなものであった。

 有馬はこれがナリモト失踪の解明に繋がると踏み、業界のベテラン・ディレクター、寺内康太郎にこの件の調査を依頼する。寺内はまず『心霊獄門帳』のメンバーであるイサカと谷もも、そしてナリモトの母といった周辺の関係者たちにコンタクトをとり、事の経緯や細かな事情、背景などの聞き取りから開始すると同時に、配信番組やSNSを介して、視聴者やファンたちの多角的な分析や考察を募りながら、公開捜査的な形で独自の調査を進めていく。

 そして困難を極める調査の紆余曲折の中から、「田中花子」「キリタニ」「島田」という重要人物たちの存在とその素性が浮かび上がり、次第に点と点が一本の線となって繋がり始める。

 『心霊マスターテープ』シリーズを見た際にも思ったが、寺内作品はまず何よりも、ホラーものとして以上に、探偵もの・調査ものとしての面白さが際立っている。本作『境界カメラ』においてもその点での面白さはやはり際立っていて、一つひとつのヒントから手探りで調査を進め、次第に事の真相に迫っていく流れに、いつしかこちらも夢中になり、身を乗り出して見入ってしまう。

 『心霊マスターテープ』シリーズは共通して1話25分×6話(計150分)という尺のフォーマットでの縛りがあるので、25分ごとに必ず大きな展開や見せ場・山場が訪れる。『心霊~』シリーズのこの前のめりなテンポの良さに比べると、1作70分~100分程度でバラつきがあり、それが4作で完結に至る『境界カメラ』には、正直かなりの冗長さを覚えるが、関係者(主要キャラ)の背景などを描くことにもそれなりの尺を割いてじっくり掘り下げるので、先述したような探偵もの・調査ものとして見れば、全ての点と点が線で繋がってビシッと完結したときの満足度はかなり大きい。

 各キャラクターの造形やその背景の(掘り下げの深い)描き込み、そして、ラストのオチを投げっぱなしにせずにきっちり描き切る、という形を前提とすれば、探偵もの・調査ものは、中盤の長い長い紆余曲折が結果的に作品全体の旨味に繋がるのだ(ただ、そこに必ず冗長さを生む、という欠点は否めないので、そこらへんのバランスの取り方は非常に難しいところではあろうが)。

 また、『境界カメラ』は、心霊系の映像業界の裏側を描く、いわゆるバックステージものとしての面白さも際立っている。現場で働く者の愚痴に近い話や、それぞれの立場ゆえの保身や小狡い立ち回り、騙し討ち等々、リアルに厭ぁ~な面も細かく描き込まれており、この特殊世界の裏側を見せる「職種映画」としてのリアリティーは、何より虚実皮膜のあわいを行くフェイク・ドキュメンタリーという手法とめっぽう相性が良い。例えば、これを音楽業界(ロック業界)の裏側を舞台にコミカルに捌いてみせた傑作が、ロブ・ライナー監督の『スパイナル・タップ』(1984年)だ。

 心霊ドキュメンタリー系の作品にそこまで詳しいわけではないが、この手の作品をちょくちょく見ていて気付くのは、怪異に関する調査を進める中で出会う関係者に狂人めいた人物を登場させ、より凶々しい雰囲気を作品に持たせるパターンが少なくないことだが、本作『境界カメラ』は、当然ながらホラー作品らしい不穏さや凶々しさには満ちているものの、結果的には、強烈な呪いや狂気性に頼るのではなく、ごく普通に生きている人々の中に(生きていれば誰でも自然と)邪念などが生じ、それが複雑に派生していって時には悪い霊障などに繋がってしまうこともある……という角度で描いており、ある種の「日常系」心霊ホラー作品とも言える。

 このバランス感覚はこの手のジャンルとしては意外性があって面白い。つまりは、「邪悪な人々」が主役の心霊ホラーではなく、あくまで「普通の人々」が主役の話なのである。そんな「普通の人々」(普通の感覚を持って普通に生活している人々)の中に霊的な現象が介在し、そこから様々な事柄が複雑に絡み合って、結果的に事件性を帯びてしまう……という話運びなのだ。

 個人的には、ホラーや怪談のオチとして人情噺や「ちょっとイイ話」的なところに落ち着くのはハッキリと嫌いなのだが、本作のオチのつけ方は、そんな自分にも妙にグッとくる「人間ドラマ」「人生模様」としての良さ・旨味を感じた。エンディングに、(本編中にもアシスタントとして登場する)ふゆふきうどんという女性シンガーが歌うテーマソング的なものが流れるが、その中の「いつの間にか夢中になってた」という一説に何となくウルッとさせられるものすらあり、恐い話を追っていたはずなのに、最後は何とも不思議な心地良さの着地点にまで連れて行かれる作品である。

 

(2023年9月19日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
性別
男
生年月日
1984年5月2日
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