第24回『FUCK ファック』

言っちゃいけない症候群


『FUCK ファック』
(FUCK)
2006年:アメリカ
監督:スティーヴ・アンダーソン

 

 そのセリフだけは言っちゃいけない
 そのセリフだけは言っちゃいけない
 そのセリフだけは言っちゃいけない
 そのセリフだけは言っちゃいけない
 そのセリフだけは言っちゃいけない
 そのセリフだけは言っちゃいけない
 そのセリフだけは言っちゃいけない
 そのセリフだけは言っちゃいけない
 そのセリフだけは言っちゃいけないんだってば

 

JAGATARA 『Taboo Syndrome いっちゃいけない症候群』



 本作はタイトルどおり言葉としての「ファック」(つまりは公共の場で禁句とされているFワード)に関するあれやこれやを集めたドキュメンタリー。「ファック」という言葉ひとつからアメリカにおける種々の文化、宗教のルーツをたどり、さらにはアメリカ民主主義における「言論の自由」の在り方を問う内容になっている。

 膨大な資料映像とインタビュー、そしてオリジナル・アニメーションで構成され、作家、言語学者、作法の先生、ポルノ女優、政治家、コメディアン、映画監督、ラッパー、ジャーナリストなどなど、宗教的・政治的信念も、日常における貞操観念も、てんでバラバラの立場のアメリカ人たちが「ファック」について語り尽くす。たかだか「ファック」ひとつでアメリカという国はここまで話が盛り上がるのか、と感動すら覚えるほどだが、やはりアメリカ社会にとって「ファック」という言葉は切っても切り離せない存在なのである。

 ファックと社会、ファックと文化、ファックと宗教、ファックと政治……「ファック」に関する実に様々なエピソードが登場するが、中でも笑ってしまうのは、川下りのボートから転落した際に、知り合いの子供たちがいる前で「ファック」を連発してしまった男が、75ドルの罰金と3日間の禁固刑を裁判所で言い渡されるニュース映像。

 そんな法律があること自体が正気の沙汰とは思えない。「ファック」という一言を口にしただけで(しかも誰かを罵倒するのに使ったわけではないのに)75ドルの罰金と3日間の禁固刑である。体制側が「ファック」という言葉に対して本気で反応しているのだ。

 伝説的な毒舌コメディアン、レニー・ブルースの貴重な映像も出てくるが、彼も客の前で「猥褻な発言」をしたというだけで9回も逮捕された挙句、2度「猥褻罪」として有罪判決を受けている。


 口が災いの元にもなるのはれっきとした事実だが、しかしそれをいちいちお上やメディアが取り締まるというのはいかがなものか。殺人や強盗や強姦が犯罪だというのは理解出来るが、はたして「猥褻な発言」をすることが、法で裁かれるほどの実害を伴った犯罪行為と言えるのだろうか?


 「言葉を刑務所に入れるな」
  (レニー・ブルース)

 故意に相手を傷つけるための「個人的な悪口」だったら、それは個人が個人を訴えるなり何なりすれば済む話だが、いわゆるところの「公共性」というやつが絡んでくると、どうも言葉というものは圧政の対象になってしまうようである。そうなると、体制側はもはや個人個人の知識が言葉を管理することを許さない。ことにそれが体制側に向けられたものであったならばなおさらだ。


 「もしファックと言えなかったら、くたばれ政府(Fuck the Government)と叫べない」
  (
レニー・ブルース)


 宗教や政治はもちろんのこと、それらと結託するメディア上層部や大企業は、いつの時代も個人の言論を取り締まろうとする。自分たちが世の中を動かしていると勘違いしているそれらの巨大な機構に属す者にとって、個人個人の「言論の自由」ほど危険な存在はないからだ。

 宗教や政府やメディアや大企業に対して放たれた「ファック」という言葉が、ただ不快なだけのものであるならさして問題はないだろうが、しかしその「ファック」に不快さのみならず、体制側の嘘や偽善を暴きかねない要素が含まれている場合には、体制側は容赦なくその「ファック」と言い放った者を潰しにかかるだろう。

 これは同時に、体制側の見え透いた嘘や偽善に惑わされやすい、我々一般大衆の甘さにも大いに問題はあるのだ。そしてその甘さを体制側に見透かされている限り、社会における個々の言論や思想などというものは、上手いこと丸め込まれ続けるのではなかろうか。

 体制側の偽善的な大義名分を受け入れているのは結局のところ我々一般市民なのだ。その一般市民である我々が、「なぜ言ってはいけないのか?」という本当の理由を考えもしないで、ただ盲目的に規制を受け入れている限りは、言論の自由だとか思想の自由だとかいったものは、体制側にファックされ続けるより他ないだろう。

 「言っちゃいけない症候群」が社会において最も蔓延するのが戦時下や独裁下であることを考えれば、体制側が言葉を規制する本当の理由も、少しは見えてくるのではなかろうか。

 

(2011年8月27日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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