第234回『私は殺される』

出逢いは殺しの始まり

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『私は殺される』
(Sorry, Wrong Number)
1948年:アメリカ
監督:アナトール・リトヴァク


 つい最近、映画好きの人に薦められて見てみたのだが、それまでタイトルすら見たことも聞いたこともなかった一本。監督のアナトール・リトヴァクについても全く知らなかった。ロシア出身で複数の国で映画を撮っているようで、1930年代~60年代の間に残した監督作品の本数はけっこう多い。フィルモグラフィーを見て、かろうじてタイトルだけ知っていたのが『将軍たちの夜』(1967年)のみだった。本作『私は殺される』は1948年にアメリカで撮られたもの。

 電話を介したやり取りと回想シーンのリレー形式で、点と点が次第に線となって繋がってゆき、恐怖とショックの破滅的な結末へと向かって突き進むサスペンス・スリラーの傑作だ。若干、話が入り組んでいるので、90分弱でかなりスピーディーに展開するストーリーを追いかけるのに難儀するところも正直あるが、終始テンポよく話が進み、原題である「Sorry, wrong number」の台詞でストンときれいにオチがつく残酷サスペンスとして、非常に唸らされる逸品である。

 大手製薬会社社長の娘レオナ(バーバラ・スタンウィック)は、病身でほとんど寝たきりに近い生活を送っていたが、ある晩、夫ヘンリー(バート・ランカスター)の帰りが遅いことに不安を覚える。こんな日に限って家政婦なども休暇でおらず、広い家に一人きりでいる状況に、レオナは次第にナーバスになり始める。夫の職場に何度電話しても通話中で繋がらず、電話局のオペレーター(交換手)にヒステリックに当り散らす彼女だったが、そんな中、オペレーターのミスで混線し、ある殺人計画を話し合う男二人の会話を耳にしてしまう。

 レオナはこのことをオペレーターや警察に電話で話すが、何の証拠もない上に、ヒステリックでクレーマー気質な彼女の態度が、余計に相手の聞く耳を遠ざけてしまう。

 不安と焦燥の中でレオナはどうにかして夫に連絡する手段を見つけようと、夫の秘書や自身のかかりつけ医などに手当たり次第に電話をかけ、少しずつ夫の足取りを掴んでゆくが、そんな中で、どうやら夫が恐ろしいトラブルに巻き込まれているらしいことが分かり始め、結果的にそれが自身の破滅へと繋がる、最悪の結末へのカウントダウンであることに気付かされてゆく……。

 レオナがベッドの上から複数の相手にかける電話でのやり取りと、レオナ自身や電話口の複数の相手の回想をリレー形式で繋げていくことで、次第に事の真相が明らかになってゆく、という仕掛けの、少し変わり種のサスペンス作品である。

 回想の中の人物がさらに回想を始めるという、いわば「回想の入れ子構造」みたいになっているシーンもあり、そういった点は少しやり過ぎでややこしいなとも思うのだが、緊張感を維持したスピーディーな展開で、最後まで一切容赦なく鋭利に突き詰める残酷サスペンス/残酷スリラーとしての出来はかなり良く、最初から最後まで飽きることなくグイグイ引き込まれる。

 また、金持ちの娘とスラム出身の男が結婚したことで起こる精神的・身分的すれ違いと、その状況がどんどん悪化し、もう後には引き返せない最悪の事態にまで突き進んでゆく暗黒夫婦映画としても非常に面白い。子離れ出来ない金持ちの父親に飼い殺しにされていたオールドミスが、金持ちらしい傲慢さで強引に若い男を手に入れた結果、今度は自分がその手に入れたオモチャを父親と二人で飼い殺しにして自立させないよう押さえつけてしまい、そこから必然的に地獄へ一直線の転落劇が始まる。何の救いもないような残酷物語も、純粋な娯楽作品としてきっちり仕上げればここまで面白くなる、ということを見事に示してみせた傑作である。

 

(2023年4月22日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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