第230回『心霊マスターテープ -EYE-』

青春残酷ヤコペッティ

img_20231228-163821.jpg
『心霊マスターテープ -EYE-』
2022年:日本
監督:谷口 猛


 ケーブルTV、衛星放送、インターネットなどを介して視聴出来る「エンタメ~テレ」という専門チャンネル内で製作された、連続ドラマ形式のホラー・シリーズ作品『心霊マスターテープ』。

 現時点(2023年3月現在)でシリーズ3作が製作されており、3作共に1話25分×6話の計150分で完結するミニ・ドラマだ。1作目『心霊マスターテープ』は2020年1月~3月、2作目『心霊マスターテープ2 ~念寫~』は2020年12月~2021年2月、3作目『心霊マスターテープ -EYE-』は2022年1月~3月に「エンタメ~テレ」にて放映され、現在はネット配信やDVDなどでも鑑賞出来る。

 全6話で計150分と、連続ドラマとしては比較的尺が短く、また、各話完結ではなく6話を通して1本の物語としての起承転結が展開され、シリーズものの連続ドラマにありがちな、思わせぶりに次のシーズンへと引っ張るような「To be continued」な中途半端な終わらせ方もなく、6話できっちり話が完結するので、3作それぞれが1本150分の独立した映画作品のように見ることが出来る。

 心霊ドキュメンタリー(心霊映像などを集めて公開したり、寄せられた情報などを元に心霊現象や心霊スポットを調査するといった内容の量産型の映像ジャンル)に携わる人々が主人公のフェイク・ドキュメンタリー作品、というのがシリーズ3作の共通点で、この形式の作風においては、白石晃士監督の『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』『戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!』シリーズ(2012年~2015年)がその金字塔的先達作品と言えるだろう。

 『心霊マスターテープ』シリーズ(特に1作目・2作目)は、実際に現役で活躍している心霊ドキュメンタリー界の有名ディレクターやアシスタント、ネット世代の心霊ドキュメンタリー系YouTuberなどが実名(本人役)で多数出演し、いわば心霊ドキュメンタリー界のオールスター・キャスト作品で、私はこの方面には全く不案内なのだが、心霊ドキュメンタリー・ファンの人たちにとっては、この有名ディレクターらの揃い踏みが、本シリーズ最大の魅力となっているのだろう。

 シリーズ2作目『念寫』には先述した『コワすぎ!』シリーズの主役キャラ2人も(役者は同じだが役名を変えたパロディー的存在として)参戦しており、フェイク・ドキュメンタリーらしい虚実入り交じった遊び心とサービス精神あふれる内容となっている。

 谷口猛監督によるシリーズ3作目『心霊マスターテープ -EYE-』は、前2作からはちょっと離れた番外編的なところに位置する作品で、寺内康太郎監督による前2作とは作風が大きく異なる(ちなみに谷口監督はシリーズ3作を通して本人役で出演している)。

 心霊ドキュメンタリー製作に携わるディレクターたちが、特定の怪現象や呪物に関する合同調査を行うフェイク・ドキュメンタリー作品、という大まかな骨格は前2作と同じだが、外連味たっぷりの遊び心で攻めている前2作の快活なエンタメ志向とはガラリと変わって、こちらは冷徹なリアリズム・タッチで、また、前2作の群像劇的な(拡散的な)キャラ配置とは異なり、特定の主人公に焦点を定めた、よりドラマ性の強い作風となっている。

 心霊ドキュメンタリーの製作に携わる若手監督の主人公シン(根岸寛)と、彼の映像仕事の相棒にして高校時代からの親友でもあるカメラマンのツカサ(高崎凌)は、高校時代からの共通の友人2人が短期間に相次いで不可解な自殺を遂げる、という陰惨な事件に巻き込まれる。

 死んだ2人の友人のパソコンには、それぞれどこから送られてきたのか不明の謎の動画が残されていた。ノイズ混じりで気味の悪いその動画には、自殺した2人の友人が映っており、不気味な裸の女も映り込んでいる。さらに、その背景はどうやら彼らの通った高校の校舎や体育館である。

 これは何かただならぬ事態が起こっていると悟ったシンとツカサは、この異常な事件の謎を追いながら、これから自分たちの周りで起こる出来事を全て映像に記録しようと決意する。しかしこれが、彼らの忌まわしい過去をたどる地獄への旅の始まりとなる……。

 本作はまず何よりも、主人公たちが自身の呪われた過去をたどる青春残酷物語として圧倒的に面白い。映画に夢を託した青年2人のエモい青春の想い出が、そのまま彼らにとっての「人生最悪の瞬間」と結び付いている、という何とも救いのない暗黒青春ドラマだ。彼らのその「人生最悪の瞬間」は、見ていて心底厭な気持ちにさせられる暴力性に満ちており、この徹底的に冷徹なリアリズムによる演出は、前2作とはハッキリと差別化された、本作の最も特徴的な要素だと言える。

 さらにそこに、写真や映像を撮る側の人間が持つ「業」としての、「凄い画を撮りたいがために倫理的な一線を踏み越えてしまう危うさ」というヤコペッティ的な「撮影者によるカメラを介した加害性・暴力性」のテーマを巧みに絡ませ、主人公たちの映画にかける想いが熱くなるほど、それが非人間的な残酷性と結び付いてしまう、という何とも居心地の悪いジレンマを容赦なく抉り出す。

 「撮影者によるカメラを介した加害性・暴力性」というテーマはシリーズ1作目から通底する要素ではあるが、シリーズ3作目である『EYE』はそこをさらに鋭利にヘヴィに突き詰めてゆく。

 主要キャラの中では最もまともな(ごく一般的な理性的バランスを持っていると言える)、撮影班のADでシンの恋人でもあるミコ(水嶋ミナ)が、至極真っ当な正論でもって幾度となくシンたちの過剰で時に暴力的ですらある撮影への姿勢を激しく非難し、嫌悪するが、おそらく彼女が本作中の最大の被害者と言える「ある人物」のことを最も理解出来る(つまりは人の痛みがきちんと分かる)立場であるがゆえに、終盤では「巫女」的な役割を課せられるのかもしれない(だから名前が「ミコ」なのだろうかとも思えるが、それはさすがに考え過ぎだろうか)。

 一方で、シンたちの仕事上の大先輩であり、プロデューサー的立場の責任者でもある谷口猛(本人役)と徳丸大介(本人役)は、後輩たちの行き過ぎた姿勢をたしなめはするものの、結局は度合の差はあれど根底に同じ心情を持つ同業者(撮る側の人間)であるために、「結果がどうなるか分からないが、最後まで撮り切りたい」と言う若者2人に対し、ハッキリ「撮影をやめろ」と制止することが出来ない(最終的には、シンたちが撮り貯めた素材を谷口が引き継ぎ、結局は「どんな内容であれ、撮ったものはどこかで有効利用する」という映像を生業とする人間たちの習性が垣間見える)。

 「他者を傷付けてまでも凄い映像を撮りたい」という加害性すら突き抜け、最終的には「自分が死ぬことになるかもしれないが、それでも自分が関わった出来事を最後まで撮り切りたい」という領域にまで人の心を突き動かしてしまう、「撮る」という行為の底知れぬ恐ろしさとその原罪性を、シンとツカサの映画にかける青春ドラマに絡めながら本作は追及してゆく。

 そしてこのどこまでも冷徹なリアリズムで展開される「呪いの真相を追究するホラー」×「青春残酷物語」×「撮影者の加害性・暴力性への追及」が、終盤では「リアリズムの向こう側」に突き抜け、サイバーパンク的外連味のSF領域へと雪崩れ込んでゆく、という大胆なツイストを見せる。

 「徹底的に冷徹なリアリズムを突き詰めた物凄く巧い作品」というところで終わっていれば、評価は高くとも激賞まではしなかったと思うが、リアリズムの地固めでしっかりとした質の高い作品に仕上げた上で、そこからさらに「リアリズムの向こう側」にまで突き抜けてみせる、娯楽・見世物としての圧倒的な面白さにまで到達している点こそ、本作の何より評価したい素晴らしさだ。

 シリーズ1作目『心霊マスターテープ』もかなり面白い傑作で、『コワすぎ!』シリーズなどをはじめとする白石晃士監督の名フェイク・ドキュメンタリー・ホラー作品の数々の、その次世代を代表する作品が現れたなという印象だが、シリーズ2作目『念寫』は1作目とは違った方向性をやろうと努めている様子は伝わって来るものの、どうも1作目の縮小再生産的な焼き直し感は否めない。

 そこへ来てシリーズ3作目の『EYE』は、1作目の面白さからさらに別次元へとシリーズの可能性を拡張させた作品であり、また、フェイク・ドキュメンタリー・ホラー作品としても群を抜いた傑作である。ことフェイク・ドキュメンタリーという点に絞れば、例えば近年の同系統作品である『女神の継承』(2021年)よりも遥かに質は高いと言えるのではなかろうか。

 ドラマ的要素も多分に含む内容のフェイク・ドキュメンタリー作品のいちばんの難しさは、何より役者たちのドキュメント・タッチの非演技的演技と劇的な演技的演技のバランスだと思うが、これは演出する側の技量はもちろんのこと、役者たちの演技力やフェイク・ドキュメンタリーというジャンルに対する理解度も深くないと難しいのではなかろうか。

 そういう点で、先に挙げた『女神の継承』は非常に面白い作品ながら、フェイク・ドキュメンタリーという手法としては成功していると思えず、ちょうどそこで失敗していると思っていた部分を、こちらの『EYE』は見事に成功させていると思えるのである。

 『EYE』の劇中劇の心霊ドキュメンタリー撮影現場で、監督のシンが若い役者に演技指導をする場面があるが、ここでちょうどフェイク・ドキュメンタリー的な(演技っぽくないナチュラルに見える)非演技的演技の指導を的確にしていて、これはそのまま谷口監督の本作の役者たちへの的確な演技指導に繋がるのではないかと思わせる。

 そしてまた本作の出演者たちも、フェイク・ドキュメンタリーという形式に必要な非演技的演技の感覚を、非常によく理解している人が揃っているのではないかとも思わせる。

 ここでさらに面白いのが、序盤ではリアリティー重視のドキュメント・タッチの演技や演出を徹底しているが、中盤・終盤と物語が進むに連れ、ドラマとしての要素も強まり、そこでは当然、劇に寄った演技的演技(つまるところエモーショナルな要素を含んだ演技)も相応に必要になってくる。本作はそういう面での非演技的演技と演技的演技のバランス感覚が、どの出演者も非常に巧い見せ方をしていて、それはもちろん役者たちの技量と作品への理解度であると同時に、監督をはじめとする演出する側の指示の的確さでもあるのだろう。

 この演出する側と演者側の双方の技量と理解度がかなり高いレベルで合致しないと、フェイク・ドキュメンタリーという表現形式は成功し得ないのではなかろうか。

 そういう意味で、フェイク・ドキュメンタリーは作り手にとって非常に難しいジャンル(表現形式)だと思うが、本作『EYE』はその点においても、傑作である1作目の『心霊マスターテープ』以上に出来が良いフェイク・ドキュメンタリー作品だと言っても過言ではないように思える。

 昨今、何かと嘆かわしく思えるほど質の低下が著しい日本の映画やTVドラマであるが、この『心霊マスターテープ』シリーズのような領域には、「まだ日本の映像業界でも面白く質の高い作品が撮れるぞ!」という光明を見るようで何とも頼もしいかぎりである。「低予算の中で」という苦しい状況にはなってしまうのだろうが、このような面白い作品が増えることを切に願うばかりだ。


 



img_20231228-163919.jpg
『心霊マスターテープ』
2020年:日本
監督:寺内康太郎


 シリーズ第1作。80年代に存在したという幻の心霊ドキュメンタリー・ビデオ『知られざる心霊世界』を探し求めて、現代の心霊ドキュメンタリーの名ディレクターたちが合同調査に乗り出す、というフェイク・ドキュメンタリー作品。

 心霊ホラーとしての恐さは割とマイルドだが、捜査もの・探偵ものとしての出来は非常に良く、手掛かりの全くない状態からスタートし、次第に点と点が繋がって線になり、幻のビデオの真相に迫ってゆく過程をテンポよく見せながら、その中で想像以上に狂った事件にメインキャラたちが巻き込まれてゆく過程も面白く、また終盤の外連的突き抜け感も素晴らしい。

 心霊ドキュメンタリーを模したフェイク・ドキュメンタリーの金字塔と言える白石晃士監督の『コワすぎ!』シリーズの次世代的な代表作が現れたと言える傑作だ。

 



img_20231228-163937.jpg
『心霊マスターテープ2 ~念寫~』
2020年:日本
監督:寺内康太郎


 謎の実験フィルムの中に現れた「見たら死ぬ念写写真」の謎を調査すべく、再び心霊ドキュメンタリーの名ディレクターたちが集まって合同調査を開始するという内容のシリーズ2作目。

 前作の終わりからメタ構造にした入りだが(おそらく前作で死んだキャラや失踪したキャラを再登場させるための苦肉の策)、本筋が始まればリアリティーラインの置き所なども前作と変わらず、また話の流れも前作と全く同じような調査ものなので、外連味たっぷりでそれなりに楽しめるものの、どうしても1作目の縮小再生産的な焼き直し感は否めず。

 1作目との差別化を図って、全く作風の違うシリアスな路線に切り替えるなどすれば良かったように思えるが、それは続く3作目『EYE』で別監督による番外編的作品として実現化する形となった。

 


 

(2023年3月6日)

プロフィール

プロフィール画像
ニックネーム
わがままコブラ
性別
生年月日
1984年5月2日
QRコード
携帯用QRコード
アクセス数
ページビュー数