第223回『ファウンダー/ハンバーガー帝国のヒミツ』

アメリカン・ドリームの悪魔的実践

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『ファウンダー/ハンバーガー帝国のヒミツ』
(The Founder)
2016年:アメリカ
監督:ジョン・リー・ハンコック


 



 嘘つきは成功しないと言うが
 アメリカでは嘘つきしか成功しない
 「正しい道」と「ベストな道」が違う国アメリカ
 2位は敗北と同じで
 真のヒーローは常に勝利者だ
 これがアメリカ
 世界に誇る偉大な国

 

         映画『ステロイド合衆国』より

 




 ミルクシェイクの製造機を売り歩くセールスマンのレイ(マイケル・キートン)は、長年のセールスマン生活の果てに、妻と二人のそこそこの暮らしを手に入れたものの、50歳を過ぎても大きな成功までは掴めていない自分の人生に煮え切らぬものを感じていた。

 生来の野心家で典型的なワーカホリックでもあり、自己啓発系のレコードを聴きながら自らを鼓舞し、人生の成功への鍵は自身の執念にあると信じて疑わない。しかし大きなビジネス・チャンスを掴むきっかけをいつまでも見つけられないでいた。

 彼はある日、セールスマンとして立ち寄った一軒のハンバーガー店に感銘を受ける。そこはマクドナルド兄弟が営む小さな店だが、1950年代当時では考えられないほど効率化され洗練された調理・販売システムを持つ人気店で、高品質なハンバーガーを注文から30秒で客に提供している。

 レイはこの効率化された店内システムのみならず、特徴的な(シンボリックな)アーチをあしらった店舗デザインや、「マクドナルド」という素朴で親しみやすい店名、そしてそこに伴う健全で清潔な家庭的イメージが実に「アメリカ的」であると捉え、これを大規模フランチャイズ化すれば、「マクドナルド」は教会以上に愛される国民的な存在となるに違いないと理想を膨らませる。

 素朴で堅実で儲け主義に走ることを嫌うマクドナルド兄弟をどうにか説き伏せ、レイは「マクドナルド」をフランチャイズ展開する契約を交わすことに成功するが、野心家である彼の欲望は留まることを知らず、いつしか創業者であるマクドナルド兄弟を裏切るようなスタンドプレーに走り始め、果ては自らを真の創業者であるかのように見せる本格的な乗っ取り行為へと突き進んでゆく。

 アメリカン・ドリーム(アメリカ的成功者)の邪悪な側面を描く実録ドラマとしては、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)よりは大分地味で淡白な作風ではあるが、その淡々とした語り口の根底に、ある意味、『ウルフ・オブ~』よりもドス黒い残酷性のようなものを感じる。

 本作は、「正直者ほど馬鹿を見る」という実にイヤな競争社会の現実の下で、「良心に依拠した正攻法では真の勝利者になどなれない」というアメリカン・ドリームの悪魔的実践を愚直に遂行してゆく一人の男の、どこまでも邪悪な成功譚を描いたピカレスク物語と言える。

 リアリズムの向こう側に突き抜けるような圧倒的凄みのようなものはないものの、淡々とした語り口でテンポよく話を進め、極めて理性的・道徳的客観性に拠りながらも、ある種のビジネス・モンスターである主人公を完全な悪として断罪するわけでもなく、非常にバランスの良い作品だ。

 「押しが強い」というのは生まれついての性質であると同時に、人間社会で生きて行く上ではある種の才能・強みでもあって、大抵の「ごく普通の」人間は、この手の「押しが強い」人間には敵わない。本作の主人公レイは典型的な「押しが強い」人間で、さらに「この程度でいいか」と満足出来るタイプでは全くない。上へ行ける足掛かりさえ見つければ、どんな手を使ってでもひたすら上へ上へと登り詰めて行かないと気が済まない。

 そしてその邪魔になるものは、たとえ妻であろうと友人であろうと何の躊躇いもなく一瞬で切り捨てる。長年連れ添って、自分が鳴かず飛ばずの時期も懸命に家庭を支えてくれた妻よりも、自分と同じような上昇志向と野心を持つ若い愛人を選ぶ。この愛人もまたビジネスパートナーの妻であるが、そんなことはお構いなしに奪い取る。

 ビジネスであろうと人であろうと、どんなものでも自分が気に入ったものは確実に自分の手に入れなければ気が済まない。そのためならどんな手段も厭わない。他者に対して彼が持つのは「情」ではなく、「自分の人生の上昇に役に立つかどうか」という判断基準のみだと言える。役に立たないものや邪魔になるものは一瞬で切り捨てるし、嘘でやり込めて裏切ることも平気である。そして実際に彼はそのやり方でどんどん自身の人生を切り拓き、上へ上へと登り詰めてゆく。

 「マクドナルド」の創業者であるマクドナルド兄弟もかなりの商売上手で、商売に関するアイディアの閃きはレイなど足元にも及ばぬ才の持ち主である。そして徹底的に堅実でガードが堅いが、そんな彼らですら、レイの強欲さと押しの強さの前にはついに屈服してしまう。

 欲の薄い者と欲の強い者がビジネス上で対峙すれば、それはどうしたって後者の押し切りに前者は屈服せざるを得なくなってしまう。どんなに時代が進歩しようと、人間社会も結局は弱肉強食の法則に囚われながら運営されていくだけである。ドナルド・トランプやイーロン・マスクのような人物が、たとえどれだけ善良で慎み深い人々に忌み嫌われようと、そんなことはお構いなしに社会の上層部に登り詰めることが出来るのは、つまりはそういうことなのだ。

 彼らのような傲慢な「強者」を止める手立てなど「弱者」側にはなく、せめて直接的な食い物にされないように自ら距離を置くことくらいしか、実際的な回避方法はない。

 本作の劇中、レイの傲慢さに気付いたマクドナルド兄弟が「鶏小屋に狼を招き入れてしまった」と後悔するくだりがあるが、彼らの最大の落ち度は、レイのような人物と関わってしまったことそれ自体にあるのだ。マクドナルド兄弟が自分たちの店に興味を持ったレイから夕食に誘われ、レイの前で「マクドナルド」創業へと至るまでの紆余曲折を語ったとき、「マクドナルド」という<アメリカの象徴>は既にレイの手中にあったも同然だと言える。

 レイ自身、最初から彼らの事業を乗っ取るつもりなどなかったろうが、しかしマクドナルド兄弟とはあまりに目指す方向性が違っていたのは確かなのだ。

 アメリカン・ドリームのダークサイドで恐ろしいほどまでに成功した主人公を描く本作だが、その成功を掴めなかった男たちを撮った辛辣なドキュメンタリー『セールスマン』(1969年)も併せて見ると、アメリカン・ドリームというもののいびつさが、より立体的なものとして見えてくる。

 本作と同系統の作品としては、先に挙げた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』をはじめ、『ロード・オブ・ウォー』(2005年)なども併せて見てみると面白いかもしれない。また、冒頭に引用した『ステロイド合衆国』(2008年)も、アメリカン・ドリームというものの自己欺瞞性をマッチョイズムの観点から掘り下げた良ドキュメンタリーなので、こちらも併せてお薦めしたい。

 

(2022年12月29日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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