第212回『戦場のピアニスト』

淡々と地獄を描く

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『戦場のピアニスト』
(The Pianist)
2002年:フランス、ドイツ、ポーランド、イギリス 
監督:ロマン・ポランスキー


 第二次大戦中、ナチスドイツに占領されたポーランドの首都ワルシャワを舞台に、ユダヤ人のピアニストである主人公シュピルマン(エイドリアン・ブロディ)の血みどろの地獄巡りを描く。実話ベースの作品だそうだが、ノンフィクションの原作などについてはよく知らない。

 この手の戦時下のヒューマンドラマを描く大作となれば、残酷な戦場の現実を描きながらも、やはりどこかエモーショナルな泣きのドラマに持って行くのが常套パターンであるが、ポランスキーという監督はどこまでも冷徹なリアリストなのか、徹底的に乾いた破壊と暴力と死の連続を見せながら、そこに翻弄されながらも奇跡的に生き残る主人公の姿を淡々と描いている。

 『シンドラーのリスト』(1993年)と比べると分かりやすいが、いくら実話ベースの作品とはいえ、そこにはやはりドラマチックでエモーショナルな煽りを入れるのが通常の娯楽映画であって、大作であればあるほどそのパターンからは逃れられないように思うが、ポランスキーは(他の複数の作品にも同じことを感じるが)「心温まるような」ドラマ的煽りはほとんどしない。人と人の間にはそれなりにドラマ性を成立させはするが、戦争映画の主役とも言える暴力や死に関しては徹底的にドライかつ冷徹で、この世に運命など一切ないかのような突き放し方で描く。

 まさに地獄そのものでしかないナチスドイツの占領下で、一人のピアニストであった青年が、近しい家族や友人らが次々と殺されて行く中で、どうにかこうにか周りの人に助けられながら生き延びる。しかしそれは一瞬で苦しまずに殺される以上の地獄であることに違いなく、主人公は肉体的にも精神的にも徹底的に追い詰められ、ボロボロになっていく。

 この映画で面白いのは、主人公が「ただのピアニスト」でしかないという点だ。ピアノの才能はあるが、戦時下の地獄にポンと放り出されたとき、彼はただただ暴力と不条理に翻弄される弱い人間でしかない。レジスタンスの面々に助けられるが、彼自身が積極的にレジスタンス活動に加わってナチスに立ち向かうわけでもなく、また『シンドラーのリスト』のように多くの弱者を救うというわけでもない。家族も友人も次々と殺され孤立化し、それでもどうにか苦役に耐え、弱った体で逃げて逃げて逃げまくり、地獄の底を這いずりながら生き延びようとする。恋愛ドラマや家族ドラマの方に振るかな? と思って見ていると、そういう感傷的なドラマの方向には一切行かない。

 さらに面白いのは、タイトルでも「ピアニスト」と強調しているのに、主人公の地獄巡りが本格的になると、ピアノを弾くシーンがほとんどなくなる。主人公がピアニストである意味、そしてタイトルを「ピアニスト」とする意味が本当にあるのか? と思って見ていると、最後の最後で、彼がまさにピアニストであることの意味(そのあまりにも映画的・劇的な見せ場)をバシッと見せつける演奏シーンが出てくる。この最大の見せ場のために、あえてそれ以外の演奏シーンを減らしているんじゃないか? とさえ思える見事さで、ポランスキーの映画作りの巧さに舌を巻く。

 作品の存在は知りつつも、「どうせ泣かせの感動ドラマだろう」という侮りから全く見る気が起きなかったのだが、何やかやポランスキー作品は(そのドライさや冷徹さや残酷さが)自分の肌に合うので、まぁ一応見ておくかと特に期待もせずに見てみたわけだが、これがまさに自分がポランスキーの作風に見出している好きな要素が詰まった、正真正銘のポランスキー映画であった。ここまで淡々と突き放したヒューマンドラマが成立するのか、ということに何より感心させられる。

 

(2022年7月28日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
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男
生年月日
1984年5月2日
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