第211回『ディフェンドー/闇の仕事人』

心優しきヴィジランテ

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『ディフェンドー/闇の仕事人』
(Defendor)
2009年:カナダ
監督:ピーター・ステッビングス


 素人同然で犯罪者や狂人と紙一重の単独型ヴィジランテ(クライム・ファイター)を主人公にした異色ヒーローもの。同系統の作品では『スーパー!』(2010年)が真っ先に思い浮かぶが、本作『ディフェンドー』はその少し前かほぼ同時期に製作されている。監督はカナダで俳優もしているピーター・ステッビングスという人物で、監督としては主にTVシリーズの仕事が多いようだ(詳細がよく分からぬが、IMDbで調べる限りはこの『ディフェンドー』が初監督作か?)。

 本編鑑賞後に色々と調べてみたら、カナダ国内での公開時に大コケしたようで(製作費350万カナダドル/1ドル100円計算だと3億5千万円で、劇場公開時の最終売上が44,462ドル/約450万円)、おそらく海外での公開はなく、日本でも劇場公開なしのビデオスルー扱いで2010年にDVDが発売された。先述した『スーパー!』に比べると、映画好きの間でも知名度はかなり低そうだ。私自身、全く知らなかった作品で、ネットで何の気なしにDVDを漁っている中で偶然目に留まり、内容を検索してみたら何となく面白そうだし廉価版で安かったので買ってみただけである。


 

どこまで正確な情報かは分からぬが、興行収入に関してはこのサイトを参照した。
https://www.boxofficemojo.com/release/rl944735745/weekend/



 で、いざ見てみたらば、これが思いのほか傑作で驚いた。主演のウディ・ハレルソンに至っては、本作を彼のベストアクト作品に挙げてもいいと思えるレベルだ。

 主人公のアーサー(ウディ・ハレルソン)は、昼間は道路工事現場で働き、夜は「ディフェンドー」と名乗るヒーローとして、人知れずヴィジランテ活動に精を出している。彼には軽度の知的障害があり、幼い頃にドラッグ中毒の娼婦であった母親に捨てられ(この母親は後にドラッグが原因で死去)、その後は祖父に引き取られ育てられた。アーサーは自身の孤独を埋めるように幼少期からヒーロー漫画の世界に没頭し、大人になった今、(半分は妄想を抱えた状態で)自身が実際に街の悪党を懲らしめるヒーローとして、夜な夜な自警活動を行っているというわけである。

 アーサーは弱い立場の者には同情を示し、分け隔てなく助けようとする心優しき男で、その弱い者を餌食にする犯罪者に対しては強烈な怒りを抱きながら、それをストレートな暴力として容赦なく叩きつける。彼の自警活動は当然ながら法の外側にあり、半分は漫画から得た妄想を反映しているので、世間一般からすればアーサー自身が立派な犯罪者であり狂人ですらある。

 しかし彼の弱者に対する同情の姿勢と、弱者を餌食にする悪人(延いては犯罪そのもの)に対するストレートな怒りは、まさに正義のヒーローに相応しい純真さであり、そんな彼が最終的に街の大物犯罪者と対峙し、やがては命を懸けた彼の奮闘ぶりが街の人々から受け入れられ、「ディフェンドー」は街を救った勇気あるリアルヒーローとして、多くのリスペクトを得ることとなる。

 手段は間違っている(反社会的・非社会的である)が、その純粋な気持ちが善良な人々の心に届く(響く)という点で、本作はいわゆる「聖愚者」「聖痴愚」の話でもあり、また、「正義」「弱者への同情」という点での方向性は全く違うものの、話の構造としては『キング・オブ・コメディ』(1982年)のような、ある種の狂人が大衆に受け入れられる成功物語としても捉え得る。

 さらには、「ヒーローとは何ぞや?」というところをメタ的に問う異色のヒーローものとしては、『アンブレイカブル』(2000年)や『ウォッチメン』(2009年)と並ぶ傑作であると思うし、その方向性で特に面白いのは、アーサー自らが「ヒーローでいる間は素顔の自分より強くてクールで善良な人間になれる」という(ヒーローの仮面を被ることで得られる)全能感を割としっかり自覚している点だ。辛い過去を持つ彼が、「ディフェンドーとしてアーサーには出来ないことをやる」ということの(変身し仮面を被ることの)重要性を、思いのほか客観的に把握しているのである。

 これはHBOドラマ版『ウォッチメン』(2019年)の劇中で語られる、「素顔を隠す人間の原動力は過去のトラウマにある(仮面を被ることで傷心を隠す)」「不正義に苦しんだ過去のせいで正義にこだわる」というテーマ性にも繋がってくる。

 アーサーの私生活での面倒を見てくれている親友の「君はかつて俺の息子を交通事故から救ってくれた。ヒーローではない素顔の君でも人助けは出来るんだ」という言葉も、「ヒーローになる(仮面を被る)」というテーマ性への一つの重要な見解として提示される。

 脚本も画作りも丁寧だし、「聖愚者」「聖痴愚」の物語でありながらもリアリティーラインの置き所が巧妙で、あくまでシリアスな人間ドラマ(ある種の人情噺としての分かりやすさもある)として描きながら、現実社会におけるヒーローとは何かを問う作品となっている。

 ほぼ同時期の『スーパー!』や『キック・アス』(2010年)に比べると、時代の陰に埋もれてしまった感が否めない本作だが、普遍性を伴った異端ヒーローものとして、かなりの傑作であることは確かだ。先に挙げたような作品群が好きな人には特にお薦めしたい。

 

(2022年7月19日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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