第203回『ハード・ターゲット』

「とにかくカッコイイ画を撮る」という映画的純粋美学

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『ハード・ターゲット』
(Hard Target)
1993年:アメリカ
監督:ジョン・ウー


 ジョン・ウーが香港映画からハリウッド映画に進出した最初の作品。特に『男たちの挽歌』(1986年)から『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』(1992年)までの間に積み上げてきたハードボイルド・アクションの美学と技術と火薬量の多さを用いながら、それを湿度の高い香港映画のテイストからドライなアメリカ映画のテイストへと巧いこと変換することに成功している。

 後の『ブロークン・アロー』(1996年)、『フェイス/オフ』(1997年)、『ミッション:インポッシブル2』(2000年)といった作品に比べれば、おそらく『ハード・ターゲット』はかなり規模の小さい(予算の低い)作品と言えるであろうが、しかし大作でない分、ジョン・ウーらしいハードボイルドな「濃さ」「渋さ」が作品全体によく反映されているように思う。

 ニューオリンズの寂れた街角で、夜ごと密かに行われる人間狩り。元軍人などのホームレスを高額な報酬で説得し、その人物をターゲットとして銃器武装した金持ちにハンティングをさせる、という闇の商売で荒稼ぎしているフーション(ランス・ヘンリクセン)とヴァン・クリーフ(アーノルド・ヴォスルー)は、世界各地を渡り歩きながら、この人間狩りゲームを金持ちたちに提供してきた。そんな彼らは今回、貧困化が激しく、地元警察の大規模なストライキが続き法的な秩序も機能していないこのニューオリンズの地を選んだのだ(ヤバい商売なので、一つの地に長居はしない)。

 この街で失踪した父を探すナターシャ(ヤンシー・バトラー)と、行きがかりで彼女のエスコートをすることになった元海兵隊の労働者チャンス(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)がこの人間狩りに巻き込まれることになり、金持ちハンター軍団とチャンスの壮絶なバトルが展開される。

 前半の導入部は冗長かなと思うものの、いざバトルに突入してから(パトカーが銃撃されるあたりから)は、ここぞとばかりにハードな銃撃戦と火薬量で飛ばしまくる。ハリウッドだからと気後れすることなく、お得意のバイオレンス・アクションの畳み掛けで文句なしに楽しませてくれるが、そんなジョン・ウー監督の描くハードボイルド映画において特に素晴らしいと思うのが、バキバキにキメた「カッコイイ画」を過剰なまでに詰め込んでくる、その暑苦しいほどの映像美学である。

 香港映画のときのクドさ(特に人情ドラマ的クドさ)はアメリカ映画としての本作には全く見られないが、キメキメの「カッコイイ画」を事あるごとに(必要以上に)詰め込んでくる暑苦しさはまさにジョン・ウー節という感じで、どうにか自分らしいスタイルでハリウッド第1作目の本作に爪痕を残してやろう、という気概に満ちている。

 ヴァン・ダムが古いショットガンの埃を息でフーッと吹き飛ばすだけのシーンや、ランス・ヘンリクセンが空の薬莢をポイと投げ捨てるだけのシーンですら、スローモーションなどを用いて、とにかくバキバキにキメた「カッコイイ画」に仕上げてくる。ハードな銃撃戦や火薬量の多さ以上に、こういった過剰なまでの「カッコイイ画」の連続にジョン・ウーらしい美学が色濃く滲み出ている。

 後の『ブロークン・アロー』や『フェイス/オフ』でも、こういったジョン・ウーらしいキメキメの「カッコイイ画」は散見されるものの、やはりハリウッド進出第1作目として、本作『ハード・ターゲット』は特別に気合が入っていると言えるかもしれない(さすがにハリウッドで2作3作立て続けに撮っていれば、自然とハリウッド寄りのバランス感覚も考えるようになるだろう)。

 現時点(2022年2月現在)でのジョン・ウー監督の最新作である『マンハント』(2017年)はなかなかにヘンテコな仕上がりだが、アクションやキメキメの「カッコイイ画」やクドい人情ドラマといった、ジョン・ウーらしさがまだまだ健在なのには驚いた。言ってしまえば時代錯誤でしかないのだろうが、ここまで堂々とジョン・ウー節を前面に押し出してくるのはかえって潔い。

 『マンハント』後は新作の気配がないが、過去のフィルモグラフィーを調べてみると、1970年代から2010年代まで、長いブランクなくコンスタントに映画を撮り続けてきたようなので、今年で76歳という年齢もあろうが、そろそろまた渋いハードボイルド・アクションの新作を見てみたい。

 

(2022年2月2日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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