第198回『さらばアフリカ』

ヤコペッティ流モンド映画の完成形

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『さらばアフリカ』
(Africa Addio)
1966年:イタリア
監督:グァルティエロ・ヤコペッティ、フランコ・プロスペリ


 『世界残酷物語』(1962年)を起点とするヤコペッティ監督による独自性の強いドキュメンタリー・スタイル(世界各地の奇習や残酷でショッキングな映像をコラージュ的に紡ぎながら、「文明に属そうと土俗に属そうと、人間という生き物は常にその根っこに同じような野蛮さを有している」ということを風刺的に炙り出していくスタイル)は、「モンド映画」(『世界残酷物語』の原題『Mondo Cane(犬の世界)』に由来する)と呼ばれる一連のジャンル映画の源流となったが、『さらばアフリカ』はそのヤコペッティ流モンド映画のまさに「完成形」と言える作品だ。


 1960年代中頃の混迷するアフリカ諸国における人種間・民族間の虐殺や野生動物の乱獲(密猟)といった、過去作以上にショッキングな映像の数々を3年間の長期ロケにより捉えた大作ドキュメンタリーだが、『世界残酷物語』の頃から既に指摘されてきた部分的な「ヤラセ」(と捉え得るシーンの数々)は本作にも点在しており、映された映像の全てをそのまま鵜呑みにすることはもちろん出来ないのだが(そもそもヤコペッティ作品に限らず、ドキュメンタリーというジャンル自体、大なり小なりそういうフィクショナルな「作為的演出」を有するものだが)、本作が面白いのはそこからさらに明らかな「劇映画的演出」を取り入れており、どこまで作り手が意識的なのかは分からぬが、結果的にドキュメンタリー以上の別の領域にまで作品が拡張されている。

 本作中、コンゴ動乱での反政府軍掃討作戦にヤコペッティら撮影隊が同行した際、傭兵による処刑(映像を見る限り、私刑的な虐殺である可能性も非常に高い)の様子がそのまま映像に収められていることから、本国イタリアにおいて「ヤコペッティ自身がこの殺人をショッキング映像欲しさに煽ったのではないか?」という疑惑(殺人教唆)で告訴されるに至ったこともあってか(最終的には無罪となったが)、ヤコペッティ監督は本作『さらばアフリカ』を最後にドキュメンタリー・スタイルでの映画作りをやめ、その後は「完全なる劇映画」という形で2本の作品を残している。

 倫理的な面で大問題になったという点も大きかろうが、先述した「ドキュメンタリー × 劇映画的演出」(つまりは劇映画的要素を多分に含むドキュメンタリー)という手法を『さらばアフリカ』以上に突き詰めた形で次の作品を撮ることは、おそらく不可能だったのではないかとも思える。もしそれをやったとしても、『さらばアフリカ』以上の作品にはなり得なかったのではなかろうか。

 未見なので詳細は分からぬが、『さらばアフリカ』の次作(ヤコペッティ作品初の劇映画)である『残酷大陸』(1971年)は、ドキュメンタリー撮影班が黒人奴隷制度がまだあった時代のアメリカ南部を取材するという、ある種のタイムトラベルものと言えるフェイク・ドキュメンタリー的な作品だそうだが、『さらばアフリカ』での「劇映画的要素を多分に含むドキュメンタリー」というスタイルから「ドキュメンタリーを模した劇映画」というスタイルへの移行は、至極必然的に思える。

 『さらばアフリカ』には大自然の美しさや野生動物たちの可愛らしいユーモア映像も盛り込まれているが、大半は人間どうしの虐殺や人間による野生動物たちの乱獲の様子が映し出され、問題の処刑シーンなども映画及びジャーナリズム的倫理の範疇にあるものなのか非常に際どい(というか、もはやほとんどアウトな)ところがあるので、その点には留意しつつも、ドキュメンタリーと劇映画的演出を織り混ぜた残酷叙事詩として、非常に完成度の高い作品であることは事実である。

 劇中のナレーションに「本当に凶暴な動物は一種類しかいない。人間である」という印象深い一節が出てくるが、おそらくこれが『さらばアフリカ』における根底的なテーマと言えるだろう。

 虐殺の死体や密猟の野性動物惨殺といったショッキングな映像を感傷的な美しい音楽で盛り上げ、ドラマチックな見世物として煽りに煽るので、やはり倫理的にはかなり問題があると言えるが、撮影も編集も洗練されていて素晴らしく、詩的でシニカルなナレーションの語り口にもユーモアと優美さがある。単に「残酷とショックがてんこ盛りだから面白い」というゲテモノ評価に留まる作品ではなく、映像的叙事詩としての完成度の高さに心を奪われる。そしてそこが何とも厄介なのだ。何とも厄介で因業なドキュメンタリー映画の名作なのである。

 

(2021年12月15日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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