第196回『コンバット・ショック』

地獄は続くよ どこまでも……

img_20231228-150728.jpg img_20231228-150743.jpg img_20231228-150754.jpg
『コンバット・ショック』
(Combat Shock)
1984年:アメリカ
監督:バディ・ジョヴィナッツォ


 旧邦題は『コンバット・ショック/ベトナム帰還兵残酷物語』で、2008年に発売されたDVDでの邦題は『死神ランボー/皆殺しの戦場』。後者の方はさすがにヒドい邦題だと思うので、当サイトでは原題の『コンバット・ショック』としてご紹介する。

 ベトナム帰還兵のフランキーは戦地で様々な地獄を経験し、2年間の捕虜生活まで送った末に母国へと帰還したが、彼の暮らす街はすっかり荒廃して失業者で溢れ返り、フランキー自身もまた何の職にも就けずにくすぶっていた。生活は困窮し、今日の食べ物にも困る状態だ。

 おまけに戦地でのショックやストレスからPTSDになり、今でも悪夢やフラッシュバックに悩まされる。彼の精神状態はボロボロだ。妻からは「どうにかして職を見つけてくれ」と迫られ、奇形の赤ん坊は原因も分からず昼夜泣きっぱなし。医者に見せたくてもカネがない。トイレすら流れなくなったボロアパートに妻子を残し、フランキーは逃げるように街へ出る。

 しかし街へ出れば出たで、今度は地元のチンピラに「貸したカネを返せ」と殴られる。かつての友人は救いようのないジャンキーに落ちぶれており、注射器を買うカネがないので針金で自らの腕を傷付け、その傷口にドラッグの粉を直接擦り込む。職業安定所には行列が出来、何時間並んで待っても「今日も君に紹介出来るような仕事はない」と素っ気なく告げられるだけ。

 追い詰められたフランキーは、仲違いして何年も連絡をしていなかった父親に電話し経済援助を求めるが、父親もまた財産を失っており、さらには重い病気で「あとはもう死を待っているだけの状態で、今の私に出来ることは何もない」と言われてしまう。

 「このままでは家に帰れない」と思い詰めたフランキーは、通りすがりの女性のバッグをひったくって逃走。運悪くそれを借金相手のチンピラたちに見つかってしまい、人気のない場所でリンチにされる。そのとき女性のバッグからこぼれ落ちたピストルがフランキーの手元に……。

 自暴自棄と狂気で頭の中がグチャグチャになった彼は、ピストルを拾い上げ、人生の全てを終わらせるべく最後の凶行に走る。

 『ソルジャー・ボーイ』(1972年)や『ローリング・サンダー』(1977年)といったベトナム帰還兵ものに、『ドリラー・キラー』(1979年)や『マニアック』(1980年)のようなスプラッター・ホラーの要素が加味された作品と言えるが、本作の直接的な元ネタと思われるのは、アラン・ヴェガとマーティン・レヴによるデュオ、スーサイドの『フランキー・ティアドロップ』という楽曲だ(日本のロックバンド、ゆらゆら帝国が日本語でカバーしたバージョンもある)。

 生活に困窮した男、フランキーが血みどろの凶行に走り、人生の全てを終わらせ地獄へと落ちてゆく様を歌ったものだが、『コンバット・ショック』の終盤の展開はこれにそのまま当てはまるし、主人公の名前もそのまま「フランキー」だ。私は以前からこの『フランキー・ティアドロップ』が好きだったので、ほとんど内容を知らずに何気なく見た映画が、その歌詞世界をストレートに映像化しているのには驚いた(主人公がベトナム帰還兵という設定は映画の方のオリジナルである)。

 恥ずかしながら英語の聞き取り能力は中学1年生並みなので、長年、『フランキー・ティアドロップ』の歌詞の詳しい内容は分からなかったが、ゆらゆら帝国による日本語バージョンを聴いたとき、そのどこまでもストレートな生き地獄の描き方に、かえって清々しさを覚えたほどで、『コンバット・ショック』にも同様に、ストレートな生き地獄の描き方に対する清々しさを覚えた。

 この映画にあるのは、徹頭徹尾「生き地獄」そのものである。ベトナムの戦場が生き地獄であるのはもちろんだが、そんな戦場から遠く離れた日常生活もまた生き地獄であり、妻や子、あるいは街に暮らす人々もやはりフランキーと同じ地獄の中に生きている。フランキーはそんな生き地獄を終わらせるべく破滅的凶行に走るが、その果てに待っているのもまた地獄かもしれないのである。

 「生きても地獄、死んでも地獄」という全くもって救いのない絶望をストレートに描いた物語に触れると、かえって清々しい救いのようなものを覚えるのはなぜだろうか。狂気と絶望の果てに野垂れ死んでいく人間たちの残酷な悲劇に、どうしてここまで心惹かれるのか。

 そのハッキリとした答えは死ぬまで分かりそうもないが、私はきっと死ぬまで、このような地獄の沙汰を描いた物語を好んで味わい続けるに違いない。そして『コンバット・ショック』はまさに、そんな地獄の沙汰を極限にまで煮詰めた悪夢を堪能させてくれる映画なのである。


  Frankie's lying in hell
  We're all Frankies
  We're all lying in hell

  フランキーは地獄で打ちひしがれる
  我々の誰もがフランキーだ
  我々は皆、地獄に生きているのだ

           Suicide 『Frankie Teardrop』


 



『フランキー・ティアドロップ』の原曲はスーサイドの1stアルバムに、
日本語カバーはゆらゆら帝国の『REMIX 2005-2008』というアルバムに収録されている。


img_20231228-150953.jpg
Suicide 『Suicide』(1977年)

img_20231228-151005.jpg
ゆらゆら帝国 『REMIX 2005-2008』(2008年)
 



以下、ゆらゆら帝国による日本語カバー版『フランキー・ティアドロップ』の歌詞の一部抜粋
(※『コンバット・ショック』のラストはほぼこの通りの展開)


フランキーは満足に稼ぐことが出来ない
フランキーは満足にメシも買えない
フランキーは家賃も払えず立ち退きを迫られている

フランキーの話を聞いてくれ

フランキーはヤケになっていた
やるしかない
フランキーは銃を手に取った
ベビー・ベッドでスヤスヤ眠る
生後6ヶ月の可愛い子供
その小さな頭に照準を合わせる

背後で泣き叫ぶ女房
振り向きざまにもう一発
辺り一面 血の海だ
俺は何をやってるんだ
一体どうしてこんなことになってしまったんだ

フランキーの話を聞いてくれ

フランキーの涙
フランキーは自分の頭に銃を押し付けた

フランキーは死んだ

 


 

(2021年11月16日)

プロフィール

プロフィール画像
ニックネーム
わがままコブラ
性別
生年月日
1984年5月2日
QRコード
携帯用QRコード
アクセス数
ページビュー数