第19回『アンドロメダ…』

恋なし、色なし、涙なし


『アンドロメダ…』
(Andromeda Strain)

1971年:アメリカ
監督:ロバート・ワイズ

 例えば今の時代、「恋愛なし、お色気なし、派手なアクションなし、お涙頂戴なし、美形の俳優なし」で面白い映画を撮れと言われて、それをやってのける映画監督が果たして何人いるだろうか。いや、いつの時代であろうと、そんな状況で面白い映画を撮るなんてことはやはり至難の技に違いない。そらそうだ、そもそも観客がはなから地味な映画なんて求めていないんだから。

 しかしながら、先の映画的悪条件をすべて備えていながら、それでも面白く仕上がった作品は事実存在する。ハリウッドを代表する名匠ロバート・ワイズによるSFサスペンスの傑作、『アンドロメダ…』がまさにそんな一本だ。

 ある日、ニューメキシコ州にある田舎町に人工衛星が墜落。その機体に付着していた未知の病原体により、町の住人たちはアル中の老人と泣きじゃくる赤ん坊の2人を残して全滅してしまう。さらに住人たちの死体の血液はサラサラと粉末状になっていた。

 政府はノーベル賞受賞者を含む4人の科学者(内1人は医者)を招集し、砂漠にある「エリア51」のような極秘の地下研究施設へと送り込む。

 物語の大半は、その地下施設における科学者たちのジリジリした神経戦が描かれる。つまりは完全なる密室劇というわけだ。その上、主人公たちの戦う相手が目に見えぬ病原体ときたもんだから、これはかなり地味である。話の展開にも、さして斬新なところは見当たらない。

 そして先述したとおり、恋愛もなけりゃお色気もなし。血沸き肉躍るアクションも、泣かせるような人間ドラマもない。もちろんイケメンのスーパーマンも美人のヒロインも出てこない。インテリのオッサン2人に若ハゲの医者1人、そしてどう贔屓目に見たって紅一点にはならない毒舌のオバハンがそこに加わって、「見えない敵」とのひたすら地味な神経戦を繰り広げるだけである。

 並みの映画監督だったら、どうあがいたってこれを面白い作品に仕上げることは不可能だろう。

 しかしワイズ監督は、見事にその離れ業をやってのけたのである。編集マン出身(かつては『市民ケーン』(1941年)の編集も担当した)とあって、ひたすら地味な130分をテンポの良い編集ですたこらさっさと駆け抜ける。

 分割画面の使い方や、ギル・メレによる渋い電子音楽の実に控えめな(それでいて実に効果的な)挿入の仕方が、ダレ場というものを作らない。

 プロット自体にも特に新鮮味は感じないし、科学的な部分に関しての説得力が有るのか無いのかもトーシロの私にはよく分からないが、無駄のないメリハリの効いた演出にグイグイ引き込まれる。大仰なシーンは一切ないにも関わらず、ゆっくりとしかし着実に忍び寄る未知の恐怖との神経戦を、こちらも思わず固唾を飲んで見守ってしまう。

 恋愛なし、お色気なし、派手なアクションなし、お涙頂戴なし、美形の俳優なし……この映画的悪条件の中で面白い作品を撮れる監督こそ、真に「腕のある」映画監督と言えるのではなかろうか。

 

(2011年6月15日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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