第185回『ゴースト・ドッグ』

オフビート仁侠バイオレンス

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『ゴースト・ドッグ』
(Ghost Dog:The Way of the Samurai)
1999年:アメリカ、ドイツ、フランス、日本
監督:ジム・ジャームッシュ


 現在(2021年7月現在)、都内のいくつかの映画館でジム・ジャームッシュ作品の回顧上映が行われており、その中の一本として上映されている『ゴースト・ドッグ』を久々に再見した。過去にレンタルVHSや購入したDVDで何度も見ているが、劇場での鑑賞は初めて。

 ジャームッシュ作品は昔から全く肌に合わないのだが、ハードボイルドな殺し屋映画である本作だけは好きで、とはいえそこまで面白い作品だとは思っていなかったのが、今回映画館で再見したら「あれっ、こんなに面白かったっけ?」という驚きがあった。

 映画館の暗闇の中でじっと作品と対峙するというのは、それだけこちらの集中力も上がるし、音響なども含めて作品世界の雰囲気に没入しやすいのだろう。そういう意味ではやはり映画館で映画を見るというのは重要なことである(念のため言っておくと、私は自宅のテレビやスマホの小さい画面で映画を鑑賞することに対しては何ら不満も抵抗もない)。

 イタリアン・マフィアのルーイ(ジョン・トーメイ)に街中で命を救われた青年(フォレスト・ウィテカー)が、数年後、謎の殺し屋「ゴースト・ドッグ」となってルーイの前に現れる。武士道を重んじるゴースト・ドッグは命の恩人であるルーイを主君とし、彼のために黙々と殺し屋稼業に従事するが、ある仕事がきっかけでマフィアの組織的なゴタゴタに巻き込まれ、命を狙われる羽目に。しかしマフィア側はゴースト・ドッグの恐ろしさを甘く見ており、彼を敵に回した組織の人間たちが次々と消されていくことになる……。

 筋書きとしては何十回、何百回と見て来たような、いわゆる「ナメてた相手が想像以上にヤバいやつだった」式のハードボイルド仁侠映画である。日本古来の武士道を重んじ、昔かたぎな生き方しか出来ない殺し屋が、道理にそぐわぬ小狡い生き方をするビジネスヤクザたちに殴り込みをかける、というベタベタの健さん的「死んで貰います」映画だが、そこにジム・ジャームッシュ特有のオフビート感覚と、音楽を担当した(出演もしている)RZAの渋いヒップホップ・サウンドが融合し、何とも不思議な雰囲気のハードボイルド映画に仕上がっている。

 殺し屋映画なので当然ながら殺伐とした暴力描写は多いし、人もたくさん死ぬのだが、しかしながらここまでゆったりまったりした殺し屋映画もめずらしい。

 ジャームッシュ作品のオフビート感覚は自分としては非常に苦手なところではあるのだが、それが殺伐とした殺し屋映画と交わった本作では、意外と面白い化学反応が起こったように思える。殺しの描写はどれもキレやハードさを感じない、ゆったりまったりしたものだが、タメや緊迫感もなく人が淡々と殺されていく乾いた感じは、思った以上にハードボイルドな内容に合う(どこか初期の北野武作品や黒沢清作品の淡々とした暴力描写に通ずるものがある)。

 主人公ゴースト・ドッグの雰囲気も、恐さよりはどこか悠然とした自由人の雰囲気があり(親友のアイスクリーム屋や読書好きの少女とのやり取りもユーモアがあって面白い)、敵のイタリアン・マフィアたちも、やはり恐さよりもとぼけた雰囲気で描かれている。もっともっと殺伐とした映画を欲していた10代の頃は、本作のこのゆったりした感覚が物足りなかったが、今改めて見るとこれが思いのほかハードボイルドな暴力映画にマッチしているように思える。

 そんなユルいオフビート感覚が特徴のジャームッシュ作品だから、本作のラストもどこかのほほんとしたオフビートな感じで終わらせるのかと思いきや、そこは武士道や仁義のために死んでいく「時代遅れのサムライ」の姿が(クサいと言えるほど)ストレートに描かれており、その点のベタさには意外性がある(ジャームッシュ監督、日本の仁侠映画とか好きなのだろうか)。

 主演のフォレスト・ウィテカーはいくつかの作品で見て、独特の雰囲気を持った俳優だなぁと思うが、その「独特さ」をかなり巧いこと引き出してみせた作品としても、やはり『ゴースト・ドッグ』は稀有な存在と言えるかもしれない。

 内容はあくまでベタなハードボイルド任侠映画なので、その点ではかなり分かりやすい作品であるが、掴みどころのあるような、ないような……という何とも不可思議でフワフワとした魅力を持った作品である。フォレスト・ウィテカー自体にやはりこのような独特の雰囲気があるので、それがそのままこの作品の魅力の底上げに繋がっているのだろう。

 ハッキリ声高に「面白い作品」とか「傑作」などと言い切れぬヘンテコな作品ではあるが、見れば見るほど、そのヘンテコさを好きになっていく一本だと言える。

 

(2021年7月4日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
性別
男
生年月日
1984年5月2日
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