第183回『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』

二コラス・ケイジという狂気

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『カラー・アウト・オブ・スペース −遭遇−』
(Color Out of Space)
2019年:ポルトガル、アメリカ、マレーシア
監督:リチャード・スタンリー


 H.P.ラヴクラフトの原作を現代設定で映画化した一本。大まかな筋や設定は原作に沿いつつ、現代ものとしての時代設定や主要キャラの描き方が映画版としてのオリジナルに改変されている。

 見る前は正直そこまで期待していなかったのだが、ラヴクラフト作品らしいあのいかがわしさや突拍子のなさ、あるいは異次元世界やクリーチャーの描写になると段違いに気合が入る原作のテイストを巧く映像作品に変換することに成功しており、さらに映画版としてのオリジナリティーもしっかりと前面に押し出され、かなり質の高い(良い意味での)怪作となっている。

 B級ホラーにありがちな、おちゃらけたパロディーみたいなノリになっていたらイヤだなぁ、という懸念もあったが、これもこちらの想像とは違ってしっかりとシリアスに作り込まれており、異次元からの色彩の映像表現やクリーチャー造形なども気合の入った仕上がりで素晴らしい。決してウェルメイドな作品ではないが、しかしながら平坦な退屈さは微塵も感じさせない、かなりクセの強い(濃い味わいの)SF怪奇映画の傑作だと言える。

 都会の喧騒を逃れ、山奥の美しい自然の中で静かに暮らす主人公家族の前に、ある日突然、隕石のようなものが飛来し、その日から謎の「色」(閃光)が度々この家族を襲うようになり、次第に家族の皆が狂い始めていく……という内容で、侵略もののSF映画として見ても充分に楽しめるが、作品全体に横溢する怪奇性と邪悪さが、ラヴクラフト作品らしさを醸し出している。

 夫婦間や親子間に色々と問題を抱えながらも慎ましく生きている、という普遍的な家族ドラマの部分はラヴクラフトには描けないドラマ性と言え、こういうところをさりげなく丁寧に掘り下げている点に関しては、原作未読あるいはラヴクラフトの(普遍的な面白さがあるとは言い難い)小説が苦手な人でも取っ付きやすい映画版独自の良さだと思う。

 そして導入部も一切ダラダラせず、主人公家族の前に隕石のような物が飛来してからは、畳み掛けるように家族みんなが狂っていく。この映画が素晴らしいのは、本当に「一つの家族がどんどん狂っていく」その惨状のみをひたすら見せるだけなのに、最後まで飽きずに楽しめるところだ。

 脚本的な面で言えば、本作はどう考えても「内容がなさ過ぎる」作品になってしまいそうなものだが、「ただ家族が狂っていく」という見世物然とした一点突破で、荒削りながらもその暴力的なスピード感にこちらの心はグイグイと引き込まれる。こういう類の感動(見世物的感動)というものも映画には確かにあり、むしろ原初的な映画の在り方とさえ言えるかもしれない(ジョー・ベゴス監督の『ブリス』(2019年)も、これと全く同じ方向性の感動を覚える逸品である)。

 本作は作品そのものが狂気じみた惨状の連続だが、その作品としての狂気性に真っ向からブチ当たって行くのが、主演の二コラス・ケイジその人である。他の俳優たちが子役も含めて皆リアリズム重視のメソッドアクター的な抑えた演技をしている中、主演の二コラス・ケイジは自身の中の狂気性を全て引きずり出すような勢い(ハッキリ「過剰」と言い切れる演技)でガンガン突っ走る。

 この作品の狂気性の半分は監督やスタッフや助演の俳優たちが生み出したもので、残りの半分の狂気性は主演の二コラス・ケイジが生み出したものだと言っても過言ではない。

 自分が心を込めて育てたトマトが不味かったことにブチギレた父親(ニコラス・ケイジ)が、「スラムダンク!!」と叫びながらトマトをゴミ箱の中に叩きつけるシーンなどはさすがに笑ってしまうが、少なくとも本作に関しては、この明らかにやり過ぎな演技がマイナスにはならず、むしろ作品全体の狂気性を加速させることに繋がっていると言える。

 家族の誰もが狂っていく中で、最も狂っているのが二コラス・ケイジなのだ。本作における彼のブチギレ演技を前にすれば、『シャイニング』(1980年)でのジャック・ニコルソンのブチギレ演技も、まだまだ「抑えた」演技だったとすら思えてくる。

 いわゆる「イヤミス」的なヒネリの利いたバッドエンドではなく、人間たちが未知なる脅威に為す術なく狂わされ、一方的に破滅させられていく……という全くの悪夢、人間側に全く勝ち目のない怪奇SFを、今どきここまで面白く作り上げたことは称賛すべきだろう。

 家庭崩壊のドラマやミドルエイジ・クライシス的なメタファーとしても捉えられそうな作品ではあるが、しかしながら、人間がただただ狂っていく、ただただ破滅していく様を娯楽として表現する、見世物然とした映画の原初的な感動の在り方を、あまり深読みせずにストレートに享受する感性も大切にしていきたい、とそう思わされる一本である。

 

(2021年5月16日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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