第182回『トレマーズ』

たかが映画の底力

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『トレマーズ』
(Tremors)
1990年:アメリカ
監督:ロン・アンダーウッド


 世の中、どんな物事にも「たかが」と「されど」の兼ね合いというかバランスのようなものがあると思うが、映画にもやはりそれはあって、本作『トレマーズ』には、「たかが娯楽映画」としての正道を行く底力のようなものを感じる。

 「映画なんてこんなもんでいい。ポップコーンでもつまみながら気軽に楽しもうぜ」という、ある意味、最も真っ当な娯楽映画としてのあるべき姿を見せられるような一本だ。

 あくまで私見だが、モンスター・パニック映画の頂点と言える『ジョーズ』(1975年)を石窯で焼いたピザとするならば、『トレマーズ』はチェーン店の安物ハンバーガーである。そしてその安物ハンバーガーにしか満たせぬ欲求というものが我々市井の小市民には確実にあり、『トレマーズ』は見事にその欲求を過不足なく満たしてくれる。安物ハンバーガーと胃もたれのする油で揚げたフライドポテトをコカコーラで腹の底へと流し込む、あの慣れ親しんだ快楽を提供してくれるのだ。

 内容は至ってシンプルで、アメリカの片田舎にある町の人々が、謎の人喰いモンスターに襲われ、隣町への唯一の道路が落石により通行不能となった状況で、あの手この手でモンスターに立ち向かっていくというもの。映画好きなら過去に何十回、何百回と見せられてきたような話だ。

 いかにも低予算のB級モンスター・パニック映画なのだが、B級ならB級に見合った丁寧な作り込みをしっかりとすれば、それは先述したような意味での「最も真っ当な娯楽映画としてのあるべき姿」という形の傑作となる。本作『トレマーズ』はそれをきっちり証明してみせた作品だ。

 まず非常にシンプルな内容ながら、話運びがタイトで無駄がない。ほとんど荒野しかない田舎町で不穏なことが起こり始める導入部から、それが謎の人喰いモンスターの仕業だと分かり、町の人々がモンスター退治に乗り出すまでの流れがスムーズで、中盤も中弛みのようなところがない。

 全体的にユルいコメディー・タッチでありながら、「いつ化け物に喰い殺されるかもしれない」という緊迫感はしっかりと伝わる演出になっている。

 劇中で「グラボイド」と名付けられる謎の地中生物は、体長10メートルほどのヘビかツチノコのような怪物で、目はなく、体に生えた触覚のようなものを使って獲物の振動(タイトルはここから来ているのだろう)を探知し、高速で地中を移動する。

 グラボイドが地上に姿を現すのは頭部のみの場合が多く(動いてないシーンで全体を見せたりする)、地中の移動は地面から舞い上がる粉塵や建物などの揺れで演出されるので、まだCGが発達していない時代の低予算モンスター映画としての、モンスターの実体(全体像)をなるべく隠しながらも、「でかい化け物がそこにいる」と実感させる見せ方の巧さは抜群だ。

 また、グラボイドの「目がない」「岩場や高所には登れない」という設定も絶妙で、ほとんど避難所も武器もないような状況下で、町の人々(戦闘経験のない普通の人々)がグラボイドと戦い抜く、というストーリーに説得力を持たせている。

 登場人物たちは、アメリカ映画ではけっこう悪役側として描かれることが多い(これはこれである種の差別だとも思うが)、「レッドネック」「ホワイト・トラッシュ」「ヒルビリー」などと呼ばれる田舎暮らしの貧乏白人たちだ。

 際立ったキャラクターとして特に面白いのは、いわゆる「プレッパー」(世界規模の戦争・恐慌・災害などによる文明の崩壊に備えて、自宅に大量の銃器類や飲食物の備蓄をしたり地下シェルターを作ったりしている人々)の中年夫婦。軍人(元軍人)や警官といった何らかの戦闘訓練を受けたキャラが出て来ない分、平和な日常では変人扱いのこの夫婦の非常時の活躍ぶりが心地良い。

 限られたフィールド(荒野なので風景もほとんど変わらない)で、しかも登場人物は十数名。モンスターも地中生物なので全体像を見せない場面がほとんど。よくまぁ、この必要最低限の素材と設定で、最後まで飽きずに(中弛みもせずに)楽しませてくれる純正娯楽映画を作り上げたものだ。何か際立った感動や驚きがあるわけではないのだが、「気軽に楽しめる映画」としてのレベルの高さというか、そういう意味では本当に良く出来た娯楽映画だと思う。

 この時代では、『ブロブ/宇宙からの不明物体』(1988年)と並ぶB級モンスター・パニック映画の傑作だろう。名高い映画賞とは無縁の存在かもしれぬが、このラインの(気軽に楽しめる)娯楽作品の重要性を改めて思い知らされる。

 

(2021年4月15日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
性別
男
生年月日
1984年5月2日
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