第181回『ブリス』(2019年)

血を吸うキャンバス

img_20231228-143759.jpg
『ブリス』
(Bliss)
2019年:アメリカ
監督:ジョー・ベゴス


 DVDで同監督の『ヴェテラン』(2019年)の方を先に見て、『ワイルドバンチ』(1969年)×『要塞警察』(1976年)がやりたいんだ、というその心意気は大好きだけど、作品としてはイマイチ盛り上がりに欠けるなと思っていたのだが、同じ監督による同じ製作年の作品とは全く知らずに映画館に見に行った本作『ブリス』は、私のハートにどストライクな逸品であった(『ヴェテラン』と同じ監督の作品と知っていたら、見ようとは思わなかったかもしれない)。

 ストーリーらしいストーリーはほとんどなく、スランプに陥り家賃すら払えなくなった画家デジー(ドーラ・マディソン)が、日々の鬱屈から危険なドラッグ「ブリス」に手を出し、破滅の坂道を真っ逆さまに転げ落ちていくが、それと引き換えにスランプ状態だった絵画制作の方はどんどん神がかった筆さばきになり、自身の最高傑作と呼べる悪魔的な作品を完成させてゆく……というもの。

 『ドリラー・キラー』(1979年)×『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000年)みたいな作品かなぁ、あんまりアートアートした方向へ行ったらイヤだなぁ……なんて思って見ていると、そこからもう一歩グッと踏み込んだ華麗で野蛮な荒唐無稽さを見せてくれ、終盤は昭和の怪奇漫画のような血みどろ大虐殺へと突っ走ってゆく。血が流れれば流れるほど、人が死ねば死ぬほど、デジーの絵画はどんどん悪魔的な美しさを増し、完成に近付いてゆく。そして最後はまさに「芸術は爆発だ!!」という振り切った勢いのまま、ドカーーーンッ!!!! と爽快な大団円を迎える。

 ベゴス監督、ダ―レン・アロノフスキー作品が好きなのかな? とも思うが、本作『ブリス』には、何となく塚本晋也監督の『東京フィスト』(1995年)と似たような「グロテスクな爽快感」を覚える。愚かな人間のグチャグチャドロドロとした迷走の果てに、何とも言い知れぬ高みに魂が到達したのを見せられるような、そういう意味での「グロテスクな爽快感」が全身を駆け巡る。

 丁寧に作り込まれた作品とは言い難いが、画作りの雰囲気と勢いだけで突っ走るような映画にだって、当然ながら魅力的な作品は少なくない。

 『小人の饗宴』(1970年)、『悪魔のいけにえ』(1974年)、『マニアック』(1980年)、『食人族』(1980年)、『鉄男』(1989年)などなど、決して「器用な」「ウェルメイドな」作品とは言い難いが、そこに焼き付けられた暴力的な雰囲気と勢いで突っ走る悪魔的なスピード感に心を奪われる。そして『ブリス』もまたそういった領域の傑作だ。

 ここがこう面白いとハッキリした理屈で語れるような作品でもないし、好きになれぬ人からしたらかすりもしない作品かもしれないが、本作『ブリス』のような「決して器用ではないが、暴力的な雰囲気と勢いで突っ走る」作品も、長い映画史における原初的な見世物としての映画の魅力を再認識させてくれるものとして、名作や大作と並行して掘り下げて行くべき価値ある存在だと言えよう。

 

(2021年3月18日)

プロフィール

プロフィール画像
ニックネーム
わがままコブラ
性別
男
生年月日
1984年5月2日
QRコード
携帯用QRコード
アクセス数
ページビュー数