第18回『赤い影』

トラウマ級の魅惑


『赤い影』
(Don't Look Now)

1973年:イギリス、イタリア
監督:ニコラス・ローグ


 映画を見て「恐い」と思うことは普段ほとんどないのだが(気持ち悪いとかビックリさせられるようなことはよくある)、本作はもう最初から最後まで薄気味悪く、ずっと首筋に剃刀をあてがわれているような気分にさせられる。

 この何とも形容し難い厭ぁ~な感じは、『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)に通ずるところがあるが、しかし『ローズマリー』の方は「よく出来たオカルト・ホラーだなぁ」と感心することはあっても、芯から恐怖を感じるところまではいかない。

 イギリスの長閑な田舎で暮らすジョン(ドナルド・サザーランド)とローラ(ジュリー・クリスティー)の夫婦は、冒頭で池に溺れた幼い娘を亡くしてしまう。その傷も癒えぬまま、夫婦はジョンの仕事(教会の修復)のために二人で水の都ベニスへ。

 ある日、ジョンとローラはレストランで観光客の老姉妹と出会う。盲目で霊能力を持つという妹は、ローラに死んだ娘の姿が見えたことを告げる。

 「娘さんはあなたたちと一緒にいて、とても幸せそうよ。もう悲しまないで」

 それを聞いたローラは後日、娘と会話がしたいということを老姉妹に願い出る。そして交霊によって亡き娘がジョンの身に迫る危機を警告しようとしていることを知る。ローラはジョンにそのことを話すが、辛い過去を一刻も早く忘れたいと思っているジョンはそれを全く信じようとはしない。

 同じ頃、ベニスの街では謎の連続殺人事件が起こり、ジョンの周りでも不可解な出来事が起こり始める。ある日、イギリスの学校へ預けてある息子が怪我を負ったという連絡が夫婦の元へ入り、ローラは息子の様子を見に一時的にイギリスへ帰国することに。

 仕事のためひとりベニスに残ったジョンは、運河のボートに乗っている時、イギリスへ送り出したはずの妻があの老姉妹と共に別のボートに乗っている姿を目撃する。

 イギリスにいるはずの妻が何故?

 ジョンは大声でローラを呼ぶが、黒い服に身を固めたローラは全く気付く様子もなく、ローラの乗ったボートは走り去ってしまう。ジョンは先刻まで夫婦で泊っていたホテルへ行くが、妻が戻った様子はない。ジョンは警察へ捜索を依頼し、老姉妹の似顔絵も提出する。

 そして冬のベニスのうら寂しい路地裏を迷い歩きながら、老姉妹の宿泊先のホテルを見つけ出すが、老姉妹はすでにそこをチェック・アウトしていた。

 ジョンは途方に暮れつつも、とりあえず妻が向かうはずだったイギリスの学校へ電話をかけてみる。すると驚いたことに受話器の向こうにはちゃんと妻がいたのである。激しく動揺するジョンだったが、息子の怪我も特に大したことはなく、すぐベニスに戻ると妻に言われ、複雑ながらも胸を撫で下ろす。自分の勘違いであることを伝えるべく警察署へ向かうと、そこには老姉妹の妹が。

 姉妹は新たな宿泊先で警察に見つかり、尋問されていたのだ。

 姉は大使館に行っていると言うので、ジョンは自分の早とちりを詫びつつ、盲目の妹をホテルへ送ることに。ホテルには先に帰っていた姉が待っていた。すると突然、盲目の妹がひきつけを起こす。姉が「後は自分が妹の面倒を看るから」と言うので、ジョンはそそくさとその場を立ち去る。すると妹が突然、「あの人を行かせちゃいけない!! 早く連れ戻して!!」と叫ぶ。

 姉はすぐにジョンの後を追うが、すでにジョンの姿は見当たらない。ちょうどそこへイギリスから戻ったローラもやってくる。夫に危機が迫っていることを聞いたローラは、必死に夫の後を追う。

 一方ジョンは、人気のない夜の路地裏でフード付きの赤いコートを着た子供を見つける。顔は見えないが、赤い雨合羽を着た愛娘の最後の姿が赤いコートの子供にかぶり、思わず子供を呼びとめようとする。するとその子供は狭い路地裏をひょいひょいと逃げてゆく。

 赤いコートの子供の後を追い、路地の奥へ奥へと迷い込んでゆくジョン。夜の闇はどんどん深まり、不穏な空気がジョンの体を包み込む。そしてとうとう廃墟のような建物の片隅に子供を追い詰めたジョンに、怖ろしい結末が待っている。

 全編に渡りカットバックが多用され、過去・現在・未来が交錯し、赤い色や割れたガラス、そして水のイメージが至るところに挿入される。説明の難しい不可解な演出も多いので、初めて見た時は何が何やらよく分からなかったのだが、うら寂しいベニスの路地裏の風景と、作品全体を覆う不気味なイメージが、私の心根にグググと喰い込んだ。

 そして何度見てもゾッとする衝撃のラスト……。

 今まで見た映画の中では、ロマン・ポランスキー監督の『チャイナタウン』(1974年)で、主演のジャック・ニコルソンがギャング(演じているのはポランスキー監督)にナイフで鼻翼をピッと切られ、濃い血がピューッと飛び散るシーンがマイ・トラウマ・シーンの最高峰なのだが、この『赤い影』のラストもそれに匹敵するくらいの実に厭ぁ~な仕上がり。

 見た目のインパクトでいえば、もっともっと過激でエグイものもたくさん見てきたのだが、ただ腕がもげた足がもげた頭が潰れたというのとは違うのである。上手く説明できないが、この手のトラウマになるようなシーンは、作り手が病んでいるとしか思えないのだ。ここまで厭ぁ~な仕上がりにする必要があるのだろうか、なんて思ってしまう。

 とまぁ、そんなラストも含め、とにもかくにも「恐い」映画である。もう二度と見たくない、と思いながら、またしばらくすると見たくなるような、そんな魅力に満ちた一本だ。

 

(2011年6月12日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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