第178回『子連れ狼/死に風に向う乳母車』

御意見無用のマカロニ・ハードボイルド時代劇

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『子連れ狼/死に風に向う乳母車』
1972年:日本
監督:三隅研次


 アクション時代劇で残酷マカロニ・ウェスタンをやってみたら、どえらいクールなハードボイルド時代劇が出来ました、という逸品。若山富三郎主演の映画版『子連れ狼』シリーズ全6作(1972~74年)の中では、3作目にあたる本作が最も出来の良い作品ではないかと思う。

 1作目『子を貸し腕貸しつかまつる』(1972年)は手堅い作りでちょっと地味かなという印象で、2作目『三途の川の乳母車』(1972年)はその反動か、やたらと切り株スプラッターとエロの「量」で攻めているが、その分、キレとメリハリがなく、アクション自体が冗長になってしまっているように思う。メリハリのない残酷描写・エロ描写は割と飽きがくるのが早い。

 そして3作目である本作『死に風に向う乳母車』は、残酷描写と荒唐無稽さは相変わらずだが、2作目に比べてキッチリとメリハリをつけ、渋く抑えた場面と、ここぞ!というタイミングで残酷さや荒唐無稽さが一気に爆発する場面とのバランス感覚が絶妙だ。おそらく前2作での試行錯誤が実を結び、3作目にして作品全体としての最良のバランス感覚に至ったのではなかろうか(残念ながら4、5、6作目は監督も変わったりして、3作目の安定した良さは越えられなかったように思う)。

 冥府魔道を行く道すがら、女郎として売り飛ばされそうになっていた若い娘を助け、その流れで刺客依頼を引き受けることになり、最後は200人の敵を向こうに回しての大立ち回り……と、話の筋は極めてシンプルだが、その中で見せるアイディアとユーモア満載のアクション、そして拝一刀のクールな武士道哲学が終始飽きさせない。

 ドラマのメインになるのは、拝一刀と加藤剛演じる凄腕の渡り徒士(わたりかち)、孫村官兵衛とのブロマンス的な出会いとラストの果し合い。男と男が刀で交わすハードボイルドな恋愛劇だ。

 その昔、主君を守るために受けではなく攻めに出て(つまり無茶な危険を冒して)敵勢を皆殺しにした官兵衛は、その姿勢が主君に仕える武士としてあるまじき(出過ぎた)行為だと非難され、挙句、流れ者の貧乏侍にまで落ちぶれてしまった。己の信じた武士道が組織的なルールの下では仇となってしまったのだ。以来、官兵衛は「武士とは何か」「自分は真(まこと)の武士と言えるのか」と煩悶し続けながら、武士としての死に場所を探しさまよい続けて来た。

 そんな中で拝一刀と出会った官兵衛は、一刀の武士としての姿勢に共鳴し、そこにこそ(一刀との真剣勝負にこそ)武士としての死に場所があると悟る。一刀もまた官兵衛の「真の武士」としての姿勢に惚れ込み、出会って最初の果し合いは刀を交えることなく「分け」とした。その理由を一刀は「真の武士を残しておきたいがゆえに」とだけ言って静かに去ってゆく。

 道中、迫り来る敵を次々と返り討ちにし、最後は200人の敵を相手に外連味たっぷりの残酷マカロニ・ウェスタンな大立ち回りを披露する一刀。ここで終わっても充分に傑作なのであるが、本作が最高にシビレるのは、最後の最後に一刀と官兵衛の真剣勝負を持ってきたところだ。

 「真の武士道とは何か」を絶えず煩悶しながらさまよって来た官兵衛に対し、一刀は「真の武士道とは死を以て生きることなり」と答える。つまり一刀にとっての「真の武士道」とは、主君や組織に殉ずることではなく、「死を以て生きる」能動的ニヒリズムによって自律的な道を歩んでゆくことだと官兵衛に示し、官兵衛が過去に行ってきた武士としての振る舞い(延いてはその生きざま死にざま)は決して間違ってはいなかった、お前こそ真の武士だと称賛(肯定)する。

 常に死を内包しながら生きるということは、死ぬことを恐れず、同時に生に執着しないということであろう。拝一刀には勝ちたいとか生きたいという欲がないから、むしろ勝ち続け、生き残り続けることが出来る。死を恐れずに大胆に敵の懐に踏み込んでゆくことは、逆説的に最大の防御ともなり得る。一刀は己の生きざまとしての武士道と同質のものを官兵衛の中にも見出していたのだ。

 拝一刀のこの能動的ニヒリズムとしての孤高の美学と、その先にある他者へのヒューマニスティックなまなざし、そして冥府魔道を行くアウトローとしてのクールな佇まいに心底シビレる。

 一刀との勝負に敗れ、絶命間近にありながらも、真の武士として一刀に認められたことで、最高に晴れやかな笑顔を見せる官兵衛。そして一刀に介錯をしてもらうことで、武士として死ぬことに成功する。彼が長年探し求めていた武士としての死に場所を、一刀によって与えられたのだ。映画とはいえ、あんな爽やかな笑顔で首を斬り落とされる男もなかなか見られないだろう。あそこで一瞬、一刀が公儀介錯人の正装になっているイメージが挿し込まれるのが何とも美しい。

 本作『死に風に向う乳母車』は、主君に忠実な社会的(組織的)武士道ではなく、「死を以て生きる」という能動的ニヒリズムに依拠した自律的武士道を行くアウトローの生きざまを、外連味たっぷりのエンターテイメントの中で描くことに成功した一本である。

 

(2021年2月9日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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