第166回『サスペリア』(1977年)

バレエ学校の怪談

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『サスペリア』
(Suspiria)
1977年:イタリア
監督:ダリオ・アルジェント


 前作『紅い深淵』(1975年)において実験的に用いられていたアルジェント特有のビザールで尖ったアート的演出感覚を、さらに徹底的に突き詰めた意欲作。話の筋としては古風なゴシック・ホラーとしての魔女譚であるが、それを極彩色のアート感覚と派手なショック描写で塗り固め、過剰なハッタリ演出・見世物演出を敷き詰めながらも、安っぽいキワモノ映画あるいは自己満足的なアート映画に陥らせることなく、しっかり客を喜ばせるための娯楽映画として結実させている。

 ドイツの有名なバレエ学校を訪れたアメリカ人の主人公スージー(ジェシカ・ハーパー)が、その寮生活の中でいくつもの奇怪な出来事に巻き込まれ、どうやらこのバレエ学校が、とある魔女伝説と深く関わっているらしいことが分かり始め……という内容で、特に難解なところはなく、非常にシンプルなオカルト・ホラーとして、90分台の尺で無駄なくまとめられている。

 このストーリー内容だけなら、「手堅くまとめたオカルト・ホラーの良作」という程度で終わっていたであろうが、ここに先述したアルジェント特有の美学をこれでもかと注ぎ込んだ結果、誰も真似出来ないようなホラー映画史に残る異形の傑作となった。

 凝りに凝った美術・照明・衣装・音楽でもって、ビザール風味たっぷりの尖りに尖ったアート感覚で攻める、という手法は前作『紅い深淵』でも実験的に用いられていたが、それはまだ部分的に用いられるに留まっていたと言え、それが本作『サスペリア』においては徹底的に突き詰められ、作品の隅から隅まで、アルジェントの創造する奇怪で美しい地獄として作り込まれている。

 場所を変えながら物語が展開する『紅い深淵』と違い、『サスペリア』は物語の展開する場所を九割方バレエ学校の中に絞ったのが良かったのだろう。『紅い深淵』においても、絵がたくさん飾ってある部屋のシーンなどは独特の「異空間」になっていて素晴らしいが、『サスペリア』は先述した理由から、映画一本を丸々「異空間」にすることに成功していると言える。

 『サスペリア』の劇中において「異空間」の雰囲気を感じないのは、盲目のピアニストがビアホールでくつろいでいるシーンと、スージーが研究家から魔女の話を聞くシーンくらいだろう。この二つのシーン以外は、常に魔女の呪いが息衝いているかのような不穏さに作品全体が包まれている。

 スージーが研究家から魔女の話を聞くシーンは特に、日中で開けた場所でもあり、かつまた科学的見地から魔女というものについて説明されるシーンなので、作品全体に横溢する不穏な雰囲気を若干崩すかなとも思えるが、オカルト要素にそれなりの「理屈」を介入させることで、「魔女は確かに存在する」という劇中のリアリティーがより強固になるので、アート的な雰囲気に偏らせてばかりもいられない娯楽映画としての本作のバランスを考えると、不可欠なシーンと言えるだろう。

 本作は作り手側の本来の意図として、『不思議の国のアリス』や『白雪姫』のような童話的な要素も盛り込まれているらしく、実際、少女のような雰囲気のスージーが奇怪な「異世界」に誘い込まれてゆく様子は、ダーク・ファンタジー版『不思議の国のアリス』と言っても何ら違和感はない。

 『サスペリア』のDVDに収録されていたアルジェントのインタビューによると、当初この企画は幼い少女たちで撮るつもりでいたようだが、さすがに内容が内容だからか、配給会社側からその案にはNGを出されたんだとか。そこでアルジェントは、大人の女優たちが出来るだけ幼く見えるように工夫を凝らした。バレエ学校の女生徒たちがやたら子供じみたケンカ(あっかんべーレベル)をしたり、ドアノブの位置がジェシカ・ハーパーの頭の高さにあったりする不自然さは、彼女らを幼い少女に見せるためなのだそうで、実際、この作品でのジェシカ・ハーパーは少女のように見える。

 幼い子供がおどろおどろしい「異空間」に誘い込まれてゆくホラー・アドベンチャーとして見れば、『サスペリア』は『学校の怪談』(1995年)や『パンズ・ラビリンス』(2006年)にとても近い作品であると言えるだろう。ホラー映画としての恐さだけでなく、「異空間」を冒険する子供たちの姿を見るようなワクワク感もあり、また同時にどこか童話的なノスタルジーも感じさせる。そういう意味で、何度も見たくなるような普遍性を有した作品であるとも言える。

 どこまでも見世物的・キワモノ的な極彩色の血みどろオカルト・ホラーでありながら、何度も見たくなるようなジュブナイルな冒険譚的・童話的普遍性も持ち合わせた、色褪せぬ傑作である。

 

(2020年5月24日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
性別
男
生年月日
1984年5月2日
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