第160回『虚空門 GATE』

信じる者たちとの第三種接近遭遇

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『虚空門 GATE』
2019年:日本
監督:小路谷 秀樹


 本作は日本のUFOビリーバーたちに密着したドキュメンタリー作品。月面で発見された宇宙人の遺体が映された(とされる)ネット上の動画に関する意見を、その筋の専門家・研究家たちに訊ねてゆく取材から、次第に様々なUFOビリーバーたちへと取材対象を拡げていった小路谷監督が、取材の中で出会った俳優・庄司哲郎の存在に興味を引かれ、彼をメインに密着してゆくという内容だ。

 鮮烈なアブダクション体験、コンタクト体験を語り、自らUFOを呼べると言う庄司に密着取材を続けるうちに、話は思わぬ方向へ二転三転してゆく。UFO体験、神秘体験、オカルト方面の真偽や是非を(なるべく中立な立場から)問うような話から始まる本作だが、カリスマ的でミステリアスで、なおかつどこまでも人間臭い庄司の登場によって、さながら重喜劇的な要素を持った人情喜劇のように話が迷走してゆくのだが、これがめっぽう面白い。

 中盤で突然、庄司が謎の失踪をするあたりから、本作の方向性はあっちへこっちへ揺れ動き、見ているこちらも振り回される。そこからさらに終盤で大きな「疑惑」が生まれ、それを追及せざるを得ないスリリングな展開を見せながら、「信じること」によって救われる部分も、また同時に「信じること」によって裏切られる哀しさも映し出され、そういった信仰心の両義性に翻弄されるビリーバーたちの複雑な人生模様が浮き彫りになってゆく。

 本作は少なくとも「本当か嘘か」を追うものではなく(一部その面も掘り下げてはいるが)、何かを頑なに「信じる」「信じたい」「信じざるを得ない」という人間心理への興味を大いに刺激する内容の作品と言える。本作に数多く出て来るUFOビリーバーたちも、当然ながら一人ひとりその体験の内容も異なるし、「信じ方」「信じるに至る経緯」「信じている度合」も様々だ。

 共通しているのは、彼らが確かにUFOや宇宙人を信じ、そしてその目で「見ている」ということだ(中には、自分は直接的には未体験だが、間接的に人から体験談を聞いて信じている人や、半信半疑ながらUFOや宇宙人の存在は否定出来ない、という人も幾人も出て来る)。

 「信じる」ことの重層性とでも言えるような面で面白いなと思ったのが、冒頭の「宇宙人の遺体動画」の真偽を問うくだりで幾人もの研究家・専門家が出て来るのだが、ビリーバー系の人でも割とあっさり「これはフェイクですね」と言い切る人が出て来るので、おや? と思って見ていると、「でもこういうフェイクを作るというのは、やはりそれなりの意味があって……」と陰謀論じみた持論(まだ大衆に真実は明かせないからまずはフェイクで云々)が始まる。

 これは私自身も含めてだが、基本的に人は「信じたい」という欲の方が強いと思うし、何か一つの事柄に疑いを持つというのも、あくまでその根っこにはまた別の信念があるからだろうし、そういう意味で、信仰心というものを純粋に食欲や性欲と同じような欲求として捉えると、その対象が何であろうと人間臭い自然なことだと言えるな、ということも本作を見ていて強く感じる。

 先述したように、私個人は本作をどことなく重喜劇的な要素を持った人情喜劇のように見たわけだが、ほぼ主役とも言える庄司氏をはじめ、出演しているビリーバーたちに関して「役者が揃っている」というのが本作の面白さの要と言える。

 主要人物以外でも、昔かたぎの浪花節な大家兼飲食店のマスター、街中で偶然取材班を職務質問したUFO好きの警察官(取材班がUFO関連の撮影をしていると聞いた途端、自身がUFO好きであることを楽しそうにベラベラ喋り始める)、幼少期から父親に散々UFO体験談を聞かされた(だから自分は見たことはないが何となく信じている)という移動販売の老人、UFOを実際に見たというタクシー運転手、UFOを撮影した海辺の食堂の店主など、妙にキャラの立った味わい深い人物が幾人も登場し、それが本作の質を底上げしているのは間違いない。

 作中にも顔を出す小路谷監督は穏やかな物腰で、なるべく中立の立場を保とうとしているように(少なくとも作中では)見えるが、あるビリーバーの疑惑に関して問いただすシーンでは、問いただされている人物の恋人の表情も容赦なくカメラでとらえ続けており(当人に撮られている意識はなさそうだ)、ここには「残酷」とさえ言える創作者としての意志が垣間見える。

 私自身はUFOや宇宙人に特に強い興味があるわけではないが、その対象が何であれ、とにかく何か一つの対象に強烈に惹きつけられている(魅了されている)人々には強く興味を引かれる。超常現象や神秘体験に関しては、その事象自体が本当か嘘かということより、「なぜそう信じる人がいるのか」「ビリーバーは何を考えているのか(どういう人なのか)」という部分に興味がある。

 本作はそういう意味で非常に興味深いドキュメンタリー作品であり、同時に重喜劇的な要素を持った人情喜劇として味わえる人間ドラマでもある。

 まさに「信じるか信じないかはあなた次第」な作品ではあるが、そもそも事実とフィクションの境い目がどこまでも曖昧なものであるということに関しては、UFOや宇宙人の存在の真偽性もドキュメンタリー作品の中に描かれていることの真偽性も同じであると言えよう。

 

(2019年12月9日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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