第16回『イレイザーヘッド』

普遍的な悪夢


『イレイザーヘッド』
(Eraserhead)

1977年:アメリカ
監督:デヴィッド・リンチ


 主人公ヘンリーは工場勤めのしがない青年。ある日、音沙汰のなかった恋人メアリーから急に実家でのディナーに招待される。ずっと会ってくれなかったのに、急にディナーとは何事かと不安になりながらも、メアリーの実家へ。

 何だかよく分からない気持ち悪いディナーも終わる頃、メアリーの母親に呼び出されるヘンリー。いやな予感が……なんて思った時にはもはや手遅れ。

 「あなた、私の娘とセックスしたの?」

 「えっ?」

 「だから、やることやったのかって訊いてるの」

 「あ、いや……それはどう答えたらいいか……つまり、そのぉ……」

 「娘に赤ちゃんができたの」

 「…………!!」

 こうしてヘンリーとメアリーと赤ん坊の三人での新婚生活が始まる。赤ん坊は「異形の様相」といった感じの不気味な見た目をしている。

 寒々とした工業地帯にある安アパートでの悪夢のような日々。

 (自業自得ではあるが)寝耳に水の責任を負わされたヘンリーにとって、結婚は人生の墓場どころか生き地獄である。しかも、ただでさえ息詰まるような生活なのに、赤ん坊の夜泣きがうるさいために妻の育児ノイローゼが爆発。「こんな生活耐えられない!!」と妻は一人勝手に実家へ帰ってしまう。実質的な男やもめ状態になったヘンリーの悪夢は、さらにその闇の深さを増してゆく。

 「男やもめに蛆がわく」とはよく言ったものだが、新婚早々で妻に出て行かれたヘンリーは、向かいの部屋に住む美女とのふしだらな情事を妄想するが、そんなことでは何一つ満たされるわけもなく、ヘンリー自身も狂気の深淵に引きずり込まれてゆく……。

 こんな重苦しい内容をリアリズムでやられたら見てられないが、若き日の奇才デヴィッド・リンチは、それを全てファンタジックな悪夢として描き出した。

 寒々しくそして鋼鉄の生臭さがスクリーンいっぱいに充満しているかのようなモノクロームの世界。まさに「インダストリアル・ノイズ」と呼べるようなドローン・サウンドが終始空間を埋め尽くし、悪夢そのものといった意味不明な演出が延々続く。

 メアリーの実家のディナーでは、メイン・ディッシュのチキンの丸焼きが足を動かしながら血を垂れ流し、安アパートに置いてあるヒーターの中では、顔に大きなコブをつけた女が「天国では何もかも上手くいく」と歌い、そのコブ女がさらには、天井から降ってくる胎児みたいな生き物を、気味の悪い笑顔のまま、ぷちゅん! ぷちゅん! と踏み潰す。

 そして転げ落ちたヘンリーの生首から消しゴム付き鉛筆(イレイザーヘッド)が製造される。

 私は中学生の時分にこれを見て、生まれて初めて「シュール」と呼ばれるような概念に触れ、大いに感激したものだが、それから十数年経った今こうして改めて見ても、やはり意味は分からぬがグッとくるものがある。

 演出は多分に狂気的・変態的ではあるが、扱われている話が「できちゃった婚」という俗っぽいものなので、全くの意味不明な前衛作品というほどでもなく、それなりに普遍性のある悪夢として楽しめる作品だ。

 

(2011年6月3日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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